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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第5章 ようこそ、国立神対策高等学校へ
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大合戦

「公式戦のルールに基づいて、ライフは3、アイテム無しの時間は無制限、ステージは決戦場で大丈夫だよね?」


「お、おぉ……………」


 手慣れた手つきで、対戦の準備をする神々廻に俺は、たじろいでしまう。

 少し詳しく説明すると、ライフっていうのは、キャラクターの騎数の事だ。1ライフは体力が100、ライフが無くなったら二つ目のライフに移行するって感じだ。


「じゃ、俺はいつも使ってる沖田総司っと…………」


 どうして急に、神々廻と大合戦をやる事になったのかを考えても無駄みたいで、神々廻の横に座る。

 そして、俺は数多のキャラクターの中から、一番良く使っている沖田総司を選択する。

 

「沖田総司……………… スピード型のコンボ数が特徴的なキャラ。弱攻撃からの上強攻撃からのバースト攻撃のコンボがダメージ数、そして当たり判定の大きさのバランスも丁度良い。必殺技の三段突きは比較的当てやすいのに対して威力も申し分ない。それと、平晴眼の構えで相手との間合いを詰めて、コンボに派生したり、必殺技を当てても良い……………… うん、良いキャラクターを選ぶね」


「ん!? お、おう!」


 いつもは口数が少なく、必要な事しか喋らない神々廻が、饒舌にしなもめちゃくちゃ話しだしたので、俺は二度見をしてしまった。


「じゃ、ミコも普段使いのっと……………」


「高杉晋作…………… 使ってる人は初めて見たな」


「…………………まぁ、そうかもね。テクニック型で初心者の人には癖があって使いづらいキャラ、そして弱攻撃の威力はトップクラスだけど、当たり判定は大合戦の中で最もキツいキャラとも言われてる。それに、大合戦というゲームにおいて、使いやすいキャラっていうのは当たり判定が大きいキャラのことを指していると言っても過言ではないから、この2点において使う人は少ないだろうね。まぁ、もう一つ理由があるとも言われてるけど」


 大合戦の事になると、饒舌になる神々廻にはまだ慣れないな。


「ん? もう一つの理由ってのは何なんだ?」


 最後に、神々廻がボソッと言った事を俺は聞き逃さなかった。

 テクニック型で初心者向きではない、それと当たり判定が厳しい、これ以外に何かあるみたいな口ぶりだった。


「大したことではないから聞かなかった事にして」


「そうか、まぁお前がそう言うなら別に良いけどよ」


 神々廻は、飲みかけていた缶ジュースを一気飲みして、コントローラーに手をかける。所々、塗装が剥がれており、かなり使い込まれているコントローラーだ。


「じゃ、始めようか」


「おう! こう見えて、結構自信あるからな!」


 そういえば、大合戦の世界大会のチャンピオンの愛用キャラが高杉晋作って聞いたことがあったな………


「ほら、ボーッとしないで。始まるよ」


「あ、あぁ! すまないな、よし始めよう!」


 他の事は考えないで、今は画面に集中だ。大合戦は昔から友達とやってきたゲームだし、現在進行形で対策局でもよくやっているゲームだ。

 得意なゲームの一つだし、負けるビジョンが見えない。




「大合戦! レディー、ファイッ!!」


 渋い声のナレーションと共に試合が始まる。それと同時に、俺が操作する沖田総司は高杉晋作に詰め寄る。


「もらった!」


 沖田総司のダッシュ横弱攻撃は、大合戦のキャラの中でもトップクラスの早さを誇っている。

 いつものように、この攻撃で間合いを一気に詰めてから、コンボに派生だ!


「悪くないね、でも遅い」


「なっ!?」


 この攻撃を今まで避けれた人はいなかった。もちろん、神々廻だって避ける事はできなかった。

 だが、神々廻は俺が攻撃を仕掛けた瞬間に、高杉晋作の弱攻撃を行なっていた。

 神々廻が先ほど言った通り、高杉晋作の弱攻撃は当たるのが非常に難しい。それを神々廻は、容易に俺のコンボに派生するための攻撃を防ぐために行ったのだ。


「そして次は、こうっと…………………」


 そして、沖田総司が怯んだ一瞬の隙を狙って、高杉晋作の掴み攻撃が発動する。掴み攻撃に成功したら、真上に俺の沖田総司は吹き飛ばされる。


「え、ちょっ!? 待って!?」


「よし、入った」


 それからは一瞬だった。真上に吹き飛ばされた沖田総司は、高杉晋作の上強攻撃からの必殺技である()()という至近距離でピストルを放つ攻撃を当てられてしまい、沖田総司のライブが一つ減った。


「ま、マジかよ……………」


「今のコンボ、もう少し改善の余地がある……………………」


 呆気に取られる俺に対して、神々廻は自分のコンボに不満だったのか首を傾げる。


「いや、まだだ! あとライフは二つもある! 逆転だ!」









 逆転、そんなものは起きなかった。俺の攻撃は、神々廻に一回も当てる事もなく、俺は完敗した。

 

「強すぎる……………… 間違いなく、俺が今まで戦ってきた誰よりも強い!」


「へぇ、それはどうも…………………」


 俺と神々廻の対戦結果などが画面に映さられる。

 高杉晋作、被ダメージゼロ………………… うぅ、情けないぜ


「ん? なんだ、名前の横に見た事ないのがある…………… は、はぁ!?」


 神々廻の大合戦のアカウントの名前は、SSBというらしい。だが、俺が驚いたのはそこじゃない。

 名前であるSSBの隣に、()()() ()()()()()()()()()と黄金に輝く勲章が付いていたのだ。


「あー、バレちゃったかぁ…………………」


 ため息混じりに、神々廻は頭をぽりぽりと掻く。


「え、ちょっと待ってくれよ……………… つまり、お前は、世界で一番プレイヤー人口が多いゲームって言われている大合戦の世界チャンピオンなのか!?」


 おいおい、ちょっと待ってくれよ。俺は、大合戦は大好きだが、所詮は友達と集まってワイワイしている、いわゆるミーハーってやつだ。

 ほら、コレを読んでいる諸君の周りにもいなかったか? コンボ攻撃を覚えてドヤ顔している奴が。それは、俺のことだ。


「まーね、大合戦の事になったら、誰に対しても手加減ができなくなってしまう。どう? 引いたでしょ?」


 ほんの少しだけ、悲しそうな表情を浮かべる。いや、コレは自分のことを嫌悪している表情だ。


「引く? どうしてだ?」


 何故、神々廻は急に()()()()()()()なんて言ってきたのだろうか。


「…………………ガチ勢って気持ち悪いでしょ? 実際、ミコが高杉晋作を使うから他の人が使いにくいって話も聞くし…………………… 良いよ、気を遣わなくて。こっちが誘ったのにごめん。じゃ、ミコはもう行くから」


 苦笑いを浮かべながら、神々廻はそそくさと片付けを済ませて立ち上がる。


「ちょっと待てよ!」


 反射的に俺は、神々廻の手を掴む。その瞬間、神々廻は振り返る。

 普段は口数が少なく、表情もあまり変わらない神々廻だが、俺が手を掴んだ瞬間だけ驚いた顔を浮かべた。


「勝手に気持ち悪いなんて言うなよ。好きな事に本気になれるって良い事じゃないか。俺は、何かを一生懸命にやっている奴の事は凄い尊敬している」


「ッ…………………!」


 神々廻は、クルリと俺の方に振り返る。そして、俺の手が握られている右手を振り解く。


「それによ、大合戦している時の神々廻、すっごい楽しそうだったぞ?」


「なっ…………………」


「だからさ、気持ち悪いだなんて言わないでくれよ。昼休みはまだ時間ある。もう一戦やろうぜ」


 ニカッと俺は笑い、神々廻の方へと近寄る。


「よ、よ、よ、よくそんなアニメの主人公みたいな事を平然と言えるね!? あー!! 恥ずかしい!!」


 神々廻は、顔を真っ赤に染め上げて俺を指さす。おいおい、今の流れは良い感じだっただろ!?


「は、はぁ!?」


 そして、神々廻のその一言で俺は、自分が言ってしまった恥ずかしい言葉を思い出して赤面する。


「神崎くんは、主人公じゃなくてモブみたいなんだから、そんな恥ずかしい事は言わないで!」


「な!? これでも主人公なんですけどぉ!?」


 俺と神々廻が、顔を真っ赤に染め上げて言い合いをしていると、屋上の扉が音を立てて開かれる。


「やーっと見つけました!」


「ハァハァ…………… 急にいなくなったから何事かと思ったぞ」


「あ、神々廻さんだ!」


 息を切らしながら、ミツレと流風、そして氷華が屋上にやってきた。


「お! ミツレ! それに流風と氷華!」


 俺は、3人に手を振る。そして、ミツレたち3人は小走りでこちらに向かってくる。


「な、なに勝手に呼んでるの!? ここは、ミコの場所なんだけど」


「ったく、某ガキ大将みたいなこと言ってるんじゃねーよ」


「じゃ、大合戦は置いていくからミコ抜きで楽しんで」


 神々廻は、コントローラーや本体が入ったサブバッグを俺の足元に置く。

 そして立ち去ろうとするが、俺は再び神々廻の手を掴む。


「んー、それはできないな」


「は? 何で?」


 神々廻は立ち止まってくれたが、俺の手は反射的に振り解く。なんか傷つくが、今は黙っておこう。


「だってさ……………」


 神々廻のサブバッグを持ち上げて、中からコントローラーを五つ取り出す。


「ゲームはさ、皆んなでやった方が楽しいだろ?」


 それを聞いた神々廻は、フッと鼻で笑って俺の手からコントローラーを一つ取る。


「…………………たまには主人公みたいなこと言うじゃん」


「ん? なんか言ったか?」


「何でもない、さ、早くやるよ」


「おう、次は負けないからな!」


 雲一つない青空、辺りを見渡せば終わりのない水平線、そして、その下で5人の少年少女は画面の中で戦い合うのであった。

お久しぶりです! 試験、アルバイト、インターンっていう怒涛のコンボで投稿できなかった作者です!


いやはや、もう夏が終わろうとしてますね笑 今年の夏は雨ばかりで萎えぽよでしたが、皆さんはいかがお過ごしですか?

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