久しぶりの睡眠
「それにしても、人間と妖獣がこんなに親しげになるなんて……………坂田さん、ドクさんとはどういう感じで出会ったんすか?」
人間と妖獣、それは姿形も違う存在のはずだ。今回の神の襲撃で、妖獣の人たちは大活躍して俺たち人間の信頼を得たって聞いたけど、その前はどうだったのだろうか…………… 坂田が特別なのかも知れないな。
「ドクさんと? ああ、最初は適正検査があってだな。お前もやった事があるはずだぞ。毎年一回ぐらい」
適性検査? そんなの受けた覚えがないな。
「え、なんすかそれ? そんなのやった覚えないっすよ」
坂田は横に首を振ると、
「発育測定。義務教育上、年に一回やる事になっている。その時の項目にちゃっかり適正審査があってだな。その時に契約に対して適正か不適切か調べるんだよ。」
「それは聞いた事があります。それで、適正だったら政府のとこに行って、妖獣のパートナーを見つけると、こっちでもそう言われてますね」
先ほどから、少し興奮気味のキュウビが目をキラキラさせながら話す。
「マジかよ、俺の知らない所でそんな事があったのか。それで、ドクさんとの出会いはどうだったんですか?」
坂田は、何故か少し渋りながらも口を開く。もしかして言いにくい事だったのだろうか。
「煮干しラーメン繋がりかな。小学生の頃、政府に呼ばれて東京に行った後に環境省の食堂に行ったら、俺の大好きな煮干しラーメンがあってよ。それを食べに行ったら隣に座ってきた奴がドクさんだったんだ。」
真面目そうな顔で、まさかの食べものという以外な事を言ったので驚いた。
しかし、好きな食べもの繋がりか………………
「ラーメン繋がりっすか。てか、ドクさんデカいけど店の中とか大丈夫なんすか!?」
俺が、アワアワしてると坂田はフッと笑う。ドクさんは図体がデカいから店の中には入れないはずだ。
「ドクさんの身長は契約起動する前は身長が180センチなんだ。だから、迷惑にはならない。まぁ、煮干しラーメン好きが俺以外で初めて見たから当時は驚いたよ。」
「凄いです! 妖獣界と人間界の絆! 素晴らしいです!」
キュウビが感激している。初めて見た契約者なのか坂田に尊敬の眼差しを送っている。
まあ、俺も初めて見たんだけどね…………………
「180センチって………ドクさん! 凄いっす!」
海から何かが、ザバンと上がる音がした。ドクさんが海中から手を掲げた音だ。手はグッドをしている。
「ありがとうってさ」
坂田の通訳によって車内が笑いに包まれる。昨日まで、あんなに泣いてたのが嘘みたいだ。
俺は、空に向かって約束をする。仁、俺は自殺なんてしないよ! 絶対に生きるから……………そして、強くなって神に復讐するからよ。
「神崎さん? どうかしましたか?」
キュウビが俺に顔を近づけてくる。急に女子の顔が接近したので、少しドキッとした。
「い、いや……………なんでもないよ」
車が急に止まった。その反動で、俺とキュウビは前のめりになる。
「おわ!? なんだ!?」
「神崎さん! 外を見てください!」
キュウビが、窓の外を指をさしたので見てみる。そこには、とても大きなフェリーがあった。いわゆる豪華客船というやつだ。
ドクさんを見た後だとインパクトは薄いが、キュウビはフェリーを初めて見たのか、窓に引っ付いて見ている。
「お! これはラッキーだ。お前ら、降りてくれ。」
「え? ドクさんの出した骨の上っすけど大丈夫すか?」
「ああ、大丈夫だ。早く降りてくれ」
俺とキュウビは言われるがままに降りた。ドクさんが出した骨の上は、とても頑丈でコンクリートと変わらない。
坂田が、車から降りるとフェリーが近づいてきた。ガコン!っていう音で、フェリーに内蔵されている車庫の扉が開く。
そこから、1人の若い男が出てきた。格好からいって乗組員だろう。
「坂田さん、見つけてよかったです! 俺たち、客を降ろしてきて今から千葉に帰るんすけど乗ります? もちろん、タダにしときますよ!」
男は、元気な様子で坂田にビシッと敬礼をする。どうやら、顔見知りのようだ。
「ああ、ならお邪魔する。船長は良いってか? 昔からの付き合いだが頑固だから金を払わないと怒られそうだ………………」
坂田は、少し申し訳なさそうに首元をポリポリと掻く。
「はははは!! 大丈夫! 船長も良いって言ってますよ! 海に浮かぶ大きな髑髏を見た時にすぐに乗せろ!って言ってました。」
「じゃ、車をお願いしても良いか?」
「はい! 入れときますね! あ! そこの2人、疲れていますね! よかったらシャワー浴びて良いっすよ!」
俺とキュウビに気づいたのか、若い男はニカッと笑って言う。
「本当ですか!? ありがとうございます! こっちに来てからシャワー浴びてないんですよ!」
「はい! バンバン使ってください! マッサージもありますよ!」
キュウビがぴょんぴょんと跳ねている。よっぽど嬉しいんだな。
「じゃ、どうぞ! 車を入れるんで後ろからついて来てください!」
「あざっす! お邪魔します!」
「ありがとうございます!」
「すまないな」
一度、俺たちは車に乗って車庫を目指す。そういえば、ドクさんは? あれ、何処だ? 骨はまだ海に浮いている………………
「坂田さん、ドクさんは?」
「まあ、見てろ」
坂田は握り拳を固め、その手を海の方に向ける。
「契約解除」
そう言うと坂田は、スーツに一瞬にして戻る。視線を骨に戻すと、ドクさんがこちらに手を振っている。確かに、先ほど坂田が言ったように契約解除したら180センチの姿になっているのが分かった。
「ドクさん! こっちだ!」
坂田が手を振るとドクさんが気づく。そして、自分の腕の骨を増やして船のへりを掴む。
そして、勢いよく骨を戻していき、気づいたらドクさんは俺の隣にいた。
隣に来て思ったのだが、よく理科室で見る人体模型みたいに全身が骨だ。当たり前か………………
「ドクさん、服だ」
坂田が、片手に持っていたアタッシュケースを渡す。その中には、真っ黒なロングコートが入っていた。
ドクさんはそれを着る。フード付きで全身がすっぽりと隠れている。
「ドクさん! 海の上の骨はどうするんすか?」
ドクさんは、頷くと海の方に手を向ける。すると、ドクさんの右手に一気に骨が集まる。
なんか、掃除機のコードをボタン一つで回収した時みたいだな。
「じゃ、行くぞ。中は広いから俺についてこいよ」
「「はい!」」
俺とキュウビは一緒に返事をした。坂田の横にドクさん。その後ろに俺とキュウビが並んでいる。
船の中に入ると、天井にはとても大きなシャンデリア。そして、なんか高級な感じを出しているカーペット! 入った途端に分かった。この船、マダム達が乗る高いやつやん……………………
「うわあ…………… !きれいです!」
「それは、分かる! 俺もこんなとこは初めてだ!」
俺とキュウビが、目をキラキラさせながらワクワクしてると、前方を歩いていた坂田が振り向く。
「じゃ、お前らは船が千葉に着くまで、キュウビは102号室、神崎は103で休んでいてくれ。特に神崎は、神の襲撃のせいで寝てないはずだ。そうだろ?」
「はい。昨日からずっと寝てません。 あの! こんなにしてくれて良いんですか? 俺は何もしてないのに!」
そうだ、俺はまだ坂田に特になるような事は何もしていない。それなのに、こんな豪華客船で休んで良いのだろうか。
坂田は、フッと鼻を鳴らして、俺の頭をクシャクシャに片手で撫で回す。
「なーに、お前は頑張ったんだ。ゆっくりしてくれ。」
「ありがとうございます!」
俺の隣にいたキュウビも、頭をクシャクシャに撫で回される。
「お前もなキュウビ。」
キュウビはパァっと明るくなる。
「ありがとうございます!」
「じゃ、俺とドクさんは船長と話しがあるから先に行っといてくれ」
そう言い、坂田とドクさんはロビーを後にした。俺とキュウビは顔を見合わせる。
「じゃ! 行くか!」
「はい! でも、どうやって行きますか?」
「102号室だから………… お! あそこに個人部屋って書いてあるぞ!」
俺が指差し方にある案内図をキュウビも見る。
「早く行きましょう! シャワーを浴びたいです!」
キュウビはスキップで個人部屋と書かれた方に向かう。途中、俺の方を振り向き、手を引っ張る。
「神崎さん! 早く行きましょう!」
「へいへい、行きますよ〜」
キュウビの後を追いかけていると、部屋の前についた。
「神崎さん、あなたは破廉恥ですから絶対に私の部屋に入ってこないでくださいね」
ジトーとした目でキュウビに見られる。バハムートでの事件がよっぽどイヤだったんだな………………
「分かった分かった。てか、シャワーの使い方とか分かるのか?」
キュウビは、自信満々に人差し指を立てる。
「大丈夫です! ホテルにはマニュアルが付いていると聞いてます! なので、大丈夫です! そんな理由で覗きはいけませんよ?」
ニヤニヤとしたキュウビの顔に、俺は顔を赤く染める。
「んな!? しねーよ!」
「フフフフ、冗談ですよ」
キュウビはクスクスと笑う。ったく、コイツは変にドキドキさせやがる………………
「じゃ、また後で会いましょうね」
キュウビが扉を開け、部屋に入ろうとする。俺は、お礼を言おうと思い
「九尾! その…………なんていうか…………………助けてくれてありがとう。」
「いえ、大丈夫ですよ。それでは」
ニコッとキュウビは笑い、部屋の扉を閉める。
「ふぅ、俺も入るか。」
鍵を使い、部屋に入る。内装はシンプルな作りで、テレビとソファ、シングルベッドのみだ。奥の方にバスタブがあるのだろう。
「ふう……………」
俺は、ベッドにばたりと倒れこむ。軽くシャワーを浴びるつもりだったのだが、睡魔に負けてあっという間に夢の中へと入っていく。
半分寝かけた時に、ある事を思い出した。
「俺、高校受験どうすればいいんだ?」
そう一瞬心配したが、やはり眠気には勝てなかった。
そして、俺は深い深い眠りについたのであった。
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