夕焼け空と反省文
「はぁ、疲れた………………」
すっかり日が暮れて、時刻は19時を迎えていた。俺は、千葉神対策局前の自転車置き場に自転車を置く。
「ただいま〜」
それにしても疲れた。はじめてのホームルームで、居残りは辛すぎるよ……………
「あ、神崎さん! おかえりなさい!」
玄関で靴を脱いでいると、後ろから声が聞こえた。振り返ると、おぼんを片手に持ったミツレがいた。
「いやー、反省文時間かかったわ〜 はぁ、本当に疲れた!」
「ふふふ、まぁ仕方のないことですよ。さ、ちょうど夕飯の支度も出来ましたので、早く来てくださいよ」
そう言うと、ミツレは部屋の奥へと消える。先輩達の姿が見えないと言う事は、今日は部活がある日か。
あと坂田さんやドクさんも見えないな。坂田さんは普段は環境省に勤めているらしいから仕事だろうか。ドクさんも確か、東京の神対策局本部で普段は事務の仕事をしているらしいから、まだ仕事が終わっていないのかな。
「よし、俺もさっさと荷物置いて下に行かないとな」
俺は、少し駆け足で夕食の配膳をしているミツレ達を一瞥し、自分の部屋の途中にある階段を駆け上がる。
「ハァっ………………… 」
部屋に戻った俺は、荷物を部屋の片隅に放り投げる。あ、カバーに入れている七聖剣だけは丁寧に机に置いたぞ。
そして、敷きっぱなしの布団の上でゴロリと大の字に寝そべる。
「神高、やっぱり凄いところだったなぁ……………」
今思い出しても凄いところだった。先生達は、現役で日本各地の神対策局で働いているエキスパートばっかりだし、戦闘訓練の面だけでなく、メンタル面も鍛えてくれるらしいから、ちゃんと考えられてるんだな。
「それに、神高を卒業して、神対策局で働かなくても大丈夫ってとこも良いよなぁ」
そう、神高を卒業しても別に神対策局で働かなくても良いのだ。普通に就職や大学進学も考えられるし、神対策局に勤める生徒と普通の道に進む生徒は同じぐらいというのも意外だったな。
「………………俺は、これからどんな道に進むんだろうな」
少し前の俺は、普通の高校に行って卒業して、普通に就職して普通に結婚して、家庭を持つものだと考えていた。
だが、それは果たして普通なのだろうか? 普通の基準は人それぞれだし、少なくとも昔の俺が今の俺を見たら、普通ではないと思うだろうな。
「それと、二皇瓔珞……………… 結局、アイツが何で俺に勝負を仕掛けてきたのか分からなかったな」
二皇瓔珞、四頂家の一つである二皇家の血を引く男。アイツもまた四頂家の被害者なのかな。凄く嫌な奴だったけど、どこか憎めないんだよな……………………
時は少し遡り、瓔珞と俺が反省文を職員室に提出し終わった時に逆行する。
「……………………よし、二人とも良い感じに書けている。形だけでも書いてもらわないと、オレが上から怒られるからな。じゃ、気をつけて帰れよ」
そう言うと、岩導は職員室にある自分の席に戻る。そして、俺と瓔珞は職員室を後にする。
特に何も話す事なく、少し先を瓔珞が歩き、その後を俺が歩く。
陽が沈み、辺りは真っ暗だ。運動場やテニスコートなどの外灯のみが光っており、部活動に励んでいる生徒達が見える。
そして、俺たちは靴箱についた。自分の靴を履き、鞄を肩に掛ける。
俺よりも先に歩く瓔珞、俺と同じくらいの身長だが、その背中は俺よりも大きく見えた。
「なぁ、少し良いか?」
俺は、気づいたら瓔珞を呼び止めていた。分かっている、あんな事があったのに話しかけるのはおかしい事だと。
でも、気になるんだ。どうして、アイツは………………
「…………………あ? なんだ?」
ムスッとした明らかに不機嫌そうな顔で、瓔珞は足を止めて俺の方に振り返る。
「どうして、俺に勝負を仕掛けたんだ?」
その事を聞いた瞬間、一瞬だけだが瓔珞の眉毛がピクリと動いた。
「………………………」
「どうして、わざわざ勝負を仕掛けたんだ? お前に何かメリットがあるわけではないだろ?」
何故だ? 瓔珞は、俺の謎の紫の甲冑見たさに勝負を仕掛けてきたかと思っていた。
だが、そうだとしたらどうして何だ? あそこまで暴走する恐ろしい力、瓔珞自身も体感するのは嫌なはずだ。
「仕掛けた理由か…………………」
くそ下民が!って言われるかと思っていたが、意外にも瓔珞は少し考える素振りをする。
「特に理由はない。神崎、お前は四頂家絡みの事とでも疑っているのだろうが安心しろ。オレ様と四頂家は繋がっていない」
ハァとため息をついてそう言うと、瓔珞は再び歩き出した。
コイツの言っていることが正しいのならば、瓔珞が仕掛けてきた理由は、ただの興味本位で変な理由はないと言うことなのか?
「だが、そうだな…………………強いて言うなら、王になる為には未知の力を屈服させたかったのかもしれんな」
足を止め、鼻で少し瓔珞は笑う。そして再び足を進め、テレポートエリアまで向かう。
そこには、迎えだろうか全身真っ黒のスーツに身を包んだ人が立っていた。
闇をも彷彿させる真っ黒な艶やかな髪、いわゆる耳元まで隠れたショートヘアという奴なのだが、中性的な顔立ちな為、性別はどちらかは分からない。
そして、それと相反するかのような白いマフラーをしていて、口元は隠れている。
「坊っちゃん、遅かったですね。何かありましたか?」
「ソラには関係ない。早く帰るぞ」
「おや? あちらの方はご友人ですか? ボッチの坊っちゃんに遂に友達が………………」
「だー!! うっさいな! アイツは友達なんかじゃない! 早く帰るぞ!!」
遠くなので、何を話しているのかは分からないが仲は良さそうだ。スーツの人と目が合うと、その人は軽く会釈して、瓔珞と共に消えた。
「よし、俺も帰るか」
そして、時は再び加速して現代に戻る。俺は、布団から起き上がり、学ランをハンガーに掛ける。
「じゃ、夕飯に行くとしますかな」
俺は、自室を後にして夕飯の待つ一階に向かうのであった。
新しく始まった学校生活。少し特殊な高校ではあるが、一部を除けば普通の高校だ。
俺はこの時までは、クラス数十人で1年間を共に過ごして青春出来ると思っていたんだ。
だが、俺は少し浮かれていたのかもしれない。世界は常に乱れているんだ。
えー、本当にコミカライズの話はどうなったんでしょうか笑
不採用なら連絡してくれないと、少し期待してしまう情けない自分がいます。