隠された真実
「な……………? どういうことだ? オシリス以前から神による攻撃は行われていただと!?」
クラスがざわめく中、俺は思わず勢いよく立ち上がってしまう。
「おーい、おいおい。まぁ、とりあえずはオレの話を聞いてくれ」
ざわめくクラスを、岩導は鎮める。そして、先から立ち上がったオレを含めた生徒や、驚いていた生徒たちは席に座る。
「国は、表向きには神の怒り……………まぁ、神による攻撃は50年前とオシリスの間には起きていないと報じている。それは、お前らも知っているだろう?」
あぁ、現にそうだった。テレビなどの情報、そして坂田などの神対策局に勤めている人たちからも、そう聞かされていた。
つまり、国や神対策局の人間は、俺たちに嘘をついていたのか?
「じゃ、ここで質問だ。何故、国は神に関わっていない人たちには、そのような嘘をついたと思う? そして、何故、こうして言うまでは、その事がバレなかったと思うか?」
静まり返る教室。先程までの喧騒が嘘みたいだ。皆んな、真剣な顔で考えている。
「はい」
その時、静まり返った教室の空気を切り裂くかのように、一人の少女が手を挙げる。
「九尾、言ってみろ」
一列目の後ろから二番目の席、俺とは対照的な席に座っている一人の少女が席から立ち上がる。
銀色の腰まで伸びた艶やかな髪、真っ直ぐと見つめる瞳を持った少女、そうミツレだ。
「嘘をついた理由としては、パニックを避けるためではないでしょうか? 50年前の事は、人類史最悪の災害だと言われています。その元凶でもある神が、何度も攻撃を仕掛けていると報道すれば、日本、いや世界の情勢が狂ってしまうと私は思います」
自分の意見を、一切噛む事なく凛とした表情でミツレは言う。やっぱり、アイツは凄いやつだ。
「うん、その理由で概ね間違いはないな。九尾の言う通り、一番の理由はパニックを避けるためだ。神が全てを破壊したあとに訪れた平和を、壊したくはないんだろうな」
ミツレの言う事は間違ってはいなかったらしい。確かに俺自身も、オシリスと出会うまでは、神とは過ぎ去った過去の災害だと思っていたからな。
そんな過去の災害が、今現在も起きており、いつ来るかは分からないと言われたらパニックになる自信がある。
「では、二つ目の質問はどうだ? 九尾や、この場にいる数名は神の強さを体感しているはずだ。飛来する災害とも言われる神の存在を、こうして秘匿に出来たのは何故だと思う?」
少なくとも、俺やミツレ、そして流風は神と対峙したことがある。
もしかしたら、このクラスには俺たち以外にも神と戦ったものがいるのかもしれないな。
「それは…………………」
ミツレは、顎元に手を当てる。どうやら、ミツレにも分からないらしい。
だが、分からないのはよく分かる。九州地方を襲ったのが特別大規模だったとは言えど、神とは超常的な力を持った存在だ。そんな奴らが、攻撃を仕掛けてきて、今まで隠せることのできた方法とは何なんだ?
「…………………簡単な話だ。対策局の連中が、今まで襲ってきた全ての神を討伐、もしくは撃退したんだろ?」
ジロリとミツレを、そして岩導を見ながら瓔珞はそう言う。
「あぁ、お前の言っている事は間違いではない。襲撃してきた神は討伐、もしくは撃退が行われたんだ」
まぁ、そうだよな。神が襲ってきたのであれば、それを対策するのは神対策局の役割だ。
ん? いや、待てよ? 確かに、神対策局の人たちは神殺しのエキスパートだ。だが、何かが引っかかる…………………
「だが、神は現状の九州地方を見たら容易に分かるが、あそこまでの損害を出す奴らだ。何故、奴らの存在を秘匿できた? 神の姿を隠せたとしても、周りの物までを隠すのは至難の業だ」
そうだ、引っかかっていた何かはソレだ。いくら神対策局の人間が、神を撃退や討伐しようと、周りへの被害は少なからずはあるはずだ。それを隠せるのか? いや、普通に考えたら無理だろう。
「今まで襲ってきた神は、全て討伐、もしくは撃退してきた。そして、瓔珞の言う通り、街への損害などはもちろん発生している」
やはり、そうなのか。自分たちの住んでいる街や村が、突然現れた神によって蹂躙されたら、一般人にも神が今現在も攻撃してきていると分かるはずだ。
「だが、それを国は秘匿にした。上層部は迅速な街の復興と被害にあった人たちへの秘匿義務を命じるんだ」
「秘匿義務を命じる? そんな事で人はパニックに陥らないのですか? そんなわけないじゃないですか! 神による攻撃は今もなお続いているということが、噂話になってしまいます!」
ミツレの言う通りだ。神による攻撃が起きたら人はパニックになるはずだ。それにより、家族や友達を失う人たちも出てくるはずだ。
なのに、どうして噂話の一つすら今まで起きなかったんだ? 暴動やクーデターだって起きてもいいはずだ。
「詳しい事は上層部や実際に被害にあった人たちしか知らないが、一神様が現地に赴いて秘匿義務の命令を出しているそうだ。国民の支持があり、なおかつ四頂家でもあるお方直々の秘匿義務なのだから、誰も漏らさないそうだ」
なるほど、世界の頂点に君臨する一神の命令なら逆らえないもんな。
いくら優しい人だとは言えど、四頂家は四頂家だ。その秘匿命令に逆らったら何が起きるから分からないもんな。
「そして、この事は神高に入学した生徒や、イレギュラーで神高に入学する前の者たちに言わなくてはならない事だ」
なるほど、神対策局に入るためには神高卒業が必須だと坂田が言っていた。
つまり、神と深く関わる者たちである神高の生徒達には真実を伝える義務があると言うことか。
「だが、オシリスによる大規模な九州地方全体を襲った攻撃によって、全ての人たちに神々は現在も攻撃をしてきているという事が公になってしまった。もう、この秘匿義務は意味を為さなくなってしまったな」
ハァとため息をつく岩導。そのため息の意味する事はハッキリとは分からないが、知ってほしくなかったといった表情を浮かべている。
「現に、神対策局の存在も公になったし、今週中には神よる攻撃が、これからも続く事を報じるそうだ」
そうか、今まで隠していた事が少しずつ露わになっていくんだな。
きっと、隠したくて隠してきたわけじゃないのだろう。平和な日常を過ごしてほしいから、それを脅かす存在である神の事は知ってほしくなかったのかな。
「よし、これでオレの話は終わりだ。じゃ、何か質問はあるか? 無かったら、この話を終わるぞ」
誰も手をあげないことを確認した岩導は、廊下の方に向かう。
「じゃ、入学初日にする事って言ったら学内見学だからな。席順に廊下に並んでくれ」
そして、俺たちは廊下に向かうのであった。
「よし、今日の授業は終わりだ。まぁ、学内見学と必要書類や教科書の交付とかばっかりで授業は出来なかったが、それは明日から行うからな」
なんだかんだで、もう夕方だ。本当だったら部活動などもあるが、まだ入部もしてないし今日はこれで終わりだな。
「じゃ、瓔珞と神崎は反省文を書くから居残りな。他の奴らは今日は終わりだ。気をつけて帰れよ〜」
「くそが」
「あー、すっかり忘れてた………………」
岩導がそう言うと、落胆している俺と瓔珞以外のみんなは、席から立ち上がって帰りの支度をする。
ミツレと氷華、そして流風と目があったが苦笑いをされた。三人には先に帰っているように言っておいたから、入学初日からボッチ下校かぁ…………………
「じゃ、お前ら反省文書けたら教卓に置いておけよ」
そうして、最後に岩導も教室を後にした。騒がしかった教室は静寂に包まれ、そこには夕日に照らされた瓔珞と俺しかいないのであった。
お久しぶりです! コミカライズの件は、連絡が途絶え、もしかしたら間違い連絡だったのかな?って思っている作者です笑
感想やアドバイスをいただけたら嬉しいですっ!