四頂家の一つ、二皇家
「四頂家……………?」
ざわめくクラス、そして俺は思わず、ポロッと言ってしまった。
教室に入ったタイミング、それと俺がポロッと言ってしまったという二つのタイミングが重なったせいか、二皇 瓔珞と名乗る男と目が合う。
「ん? お前は……………!」
目線を俺に合わせたまま、瓔珞はゆっくりとこちらに歩いてくる。
「あぁ、やっぱりそうだ。神崎悠真、だったか?」
コイツ、俺の名前を知っているのか? いや、二次試験の三門龍介との一悶着で、俺は悪い意味で有名人だから無理もないか。
「そうだと言ったら、どうするんだ?」
「っ……………! 神崎さん!」
四頂家に対して敬語を使わない俺に対して、クラスの皆んながざわめく。ミツレは、俺の服の裾を軽く引っ張る。
俺が四頂家に敬語を使わないのは、ただイキっているという理由ではない。
この場には、俺の不祥事を告げ口するような人がいないのと、今コイツに敬語を使ったら舐められると判断したからだ。
「四頂家である俺様に敬語を使わない、うん、やはりお前は神崎悠真だ」
瓔珞は、更に俺に近づいてきて、顔と顔がぶつかるスレスレまで近づいてきた。
「まぁ、そんなに睨むなよ。俺様は、龍介さ…………… ゴホン! 龍介に使ってた、あの紫色の腕、いや甲冑の正体が知りたいんだ」
再び、クラスがざわめく。四頂家の一つである二皇家が何故、神高に龍介と同じように入学しようとしてるのかは知らんが、まさか俺の紫の腕の事についてか?
いや、それはないな。あの力は、暴走に近い形で三門龍介との戦いで発言した力だ。アレが初めてだったから、奴らが入学しようとした理由ではないな。
「アレは俺にもよく分からないんだ。試合後、バイタルチェックを何度も行ったが、結局、アレの正体は分からなかった。すまないが、満足いく回答を出来るとは思えないな」
バイタルチェックや、神対策本部での精密検査などが何度も行われたが、結局は何も分からなかった。
俺の口からは、あのしわがれた声の主については誰にも言っていない。
もし言ったりしたら、アイツが何をするか分からないからな。
「なんだとぉ? 貴様の目は、何かを隠している目だ。王である俺様には分かるぞ。もう一度、問おう。二皇家、次期当主である二皇 瓔珞に隠し事はしてないのか?」
その瞬間、瓔珞の雰囲気は一変した。それまでの瓔珞は、三門龍介に近しいものを感じていたが、今は違う。
そう、どちらかと言うと神々や坂田、そして一神と言った強者と同じ雰囲気を纏っているのだ。
コイツは、口だけの三門龍介とは違う! 本当に、王になろうとしているのだ。
「ッ……………………!」
その圧倒的なオーラの前に、俺は怖気付いてしまう。何故だ、身体が恐怖を感じてるだと!?
「ま、待ってください! あなた、今なんて言いましたか?」
隣に居たミツレが、怖気付いた俺を庇うように立ち塞がる。
「お前は、確か九尾 ミツレだったか? 質問に質問で返すとは腹立たしい奴だが、特別に、もう一度だけ言ってやろう」
ハァとため息を吐くと、瓔珞は口を開く。
「二皇家、次期当主である二皇 瓔珞に隠し事はしてないのか?………………だ。何か変なことはあったのか?」
いや、ないはずだ。瓔珞の言う通り、一切変なことは言ってないと思う。
「いえ、あります。次期当主という部分ですよ」
ミツレが不敵な笑みをほんの少し浮かべる。挑発のつもりなのか?
「ッ…………………!」
ミツレがそう言った瞬間、明らかに瓔珞は動揺した。それまでの威圧的な強者のオーラはなくなり、前の瓔珞に戻る。
「二皇家の次期当主は、現当主の二皇 覇狂様の一人息子、二皇 覇昇様だと、現当主が言っていたのを私はテレビで見たことがあります」
「一人息子? おい、ならコイツは…………」
どう言うことだ? 瓔珞は、四頂家の一つの二皇家ではないと言うことか?
「苗字が一緒、もしくは偽」
ミツレが、何かを言おうとした瞬間、瓔珞はミツレの胸ぐらを掴み上げる。
クラスは、悲鳴と共にざわめきを増す。
「おい! これは俺とお前の問題だろ。ミツレから手を離せよ」
俺は、反射的にミツレの胸ぐらを掴んでいる瓔珞の手を掴む。
「おい! 聞いてんのか!?」
だが、瓔珞は俺のことを無視し、何やら俯いて何かをブツブツ言っている。
「おい! いい加減に」
俺が少し力を加えた瞬間、瓔珞は俺の手を振り解き、ミツレと俺を睨む。
「俺様は……………… 俺様は! 王になるべくして生まれた男だ! お前たちには、お前たちには分からないと思うがなぁ! ……………ねぇんだよ」
最後、あまりにも小さな声だったので、何と言ったのかは聞き取れなかった。
だが、ほんの一瞬だけ、瓔珞はどこか悲しげで、儚い表情を浮かべていた。
「ハァハァ…………… 少し取り乱してしまったな。王として、情けないな。当初の俺様の目的を遂行せねば」
今コイツ、当初の目標って言ったよな? つまり、俺の暴走した力の正体を知りたがっていたのは、四頂家としての目的ではなくて、瓔珞個人の目的だと言うことか?
「神崎悠真、生身でしたいところだが、それは御法度らしい。この階にもシュミレーションルーム、仮想現実があるから来い。俺様は先に行ってるぞ」
急に冷静になった瓔珞は、俺やミツレ、そして後ろにいた氷華や流風を押しのけて消えた。
静まり返る教室、俺も空いた口が塞がらない。
「え、アイツ何なんだ急に…………………」
何とか振り絞れた声音は、何とも情けのないものだった。分からない、挑発してきたと思えば、急にキレて、そして冷静になって戦いを申してきた。
アイツは、一体何がしたいんだ?
「だ、だ、だめですよ! 神崎さん!」
「おわっ!? びっくりしたぁ!」
ミツレが、耳元で大声を出したので、思わず身体がビクッとなる。
「そうだ、神崎悠真! 奴は危険だ! もし、本当に四頂家ならお前は………………」
「悠真くん、いきなり喧嘩はだめだよ! 確かに感じの悪い人だけども…………………」
ミツレや氷華、流風が俺を止める。そして、再びクラスも騒がしくなる。
「まぁ、確かにアイツはよく分からんし、危ない奴だな」
四頂家である奴と戦ったり、口論したりするのはめんどくさい。
「お、おぉ! 神崎さんにしては素直ですね」
だが、そんなところで退いたりしたら、仁に顔向けできないな。
俺の答えは、ただ一つだけだ。
「いや、俺は行く。二皇瓔珞と戦う」
俺が言葉を発した瞬間、ミツレが俺の両肩をガシッと掴む。
「正気ですか!? リスクしかありませんよ!? 相手は四頂家、それに、かなりの実力者です。危険です!」
クラスは、過去一番で騒がしくなる。そして、あちこちから、やめた方がいいと声が聞こえる。
「仮想現実だし、仮想現実の設定を弄って、痛みをゼロにするから大丈夫だ」
千葉神対策局や東京神対策局で、仮想現実の設定のやり方は何度もやったから、やり方は頭に入っている。
「で、ですが……………」
ミツレの顔色はあまり良くない。心配しているのだろうか。
「私は、四頂家に苦しめられる神崎さんを、もう見たくないんです!」
「ミツレ………………」
あぁ、そうか。ミツレは、三門龍介との試合を引きずっているのか。
確かに、あれは痛覚も現実と同じだったし、指の欠損の感覚も味わった。
そう言った面では、俺の今までの戦いの中でも一位を争う過酷なものだっただろう。
「おう、アレはツラかった! 指と腕の無くなる痛みなんて味わう物じゃないし、精神的にもかなりヤバかった」
これは、嘘偽りのない俺の本心だ。痛かったし、怖かった。今思い出しても、背中に寒気が走る。
「そう思うなら、やめてください!」
でも、やらなくちゃならないんだ。ここで逃げたら、仁に鼻で笑われてしまう。
それに、俺にだって細やかなプライドがあるんだ。売られた喧嘩は買わないといけないだろ。
「大丈夫だ、もうあんな情けない目には遭わない。それに、アイツは多分だけど」
言おうとしたことがあったが、これは99.9%あり得ないことだ。言わない方がマシだろう。
「そう言うわけだ。行ってくる」
そう言って、俺はミツレ達を避けて教室を後にする。二皇瓔珞、アイツは一体何者なんだ?
お久しぶりです! リアルの課題が片付いたので、投稿しました!
これから、少しずつペースを上げれそうです!
感想やアドバイス、お待ちしております!