神殺しの学舎の一員に
ジリリリリリリリリリリリリリ! ジリリリリリリ!
静寂な朝とは似合わない目覚まし時計の爆音が、少年の耳を突き抜ける。
「ん……………… ? あぁ、もう朝か」
目覚まし時計の電源を片手で落として、俺は布団から起き上がる。
まぁ、正確に言えば、坂田との朝のトレーニングの後に二度寝をしたわけだから、二度目の朝だと言うことになる。
「ふぁ………………… よく寝たなぁ」
カーテンを開けて、そして窓を開ける。春の暖かい風が部屋いっぱいに広がる。
初春、いや春真っ盛りと言った方が正しいだろう。だが、爽やかな風と共に、新しい物語を自然が祝福してくれているということは同じだ。
「よし、朝飯を食べに行こう」
俺は、首の骨を鳴らしながら自分の部屋を出る。木製の扉を開けると、ブロンズ色の髪の毛を肩まで伸ばした少女と、ばったり出会った。
「あ、おはよう! 悠真くん!」
彼女は、ニコッと笑みを浮かべて、俺に挨拶をする。その笑顔ら、一切の穢れも無い晴天のようだ。
「うん、おはよう! 氷華」
俺と氷華は、肩を並べてミツレや先輩達、そして坂田と言った千葉神対策局の仲間たちがいる一階に向かう。
「それにしても、まさか高校生に無事になれるなんて思わなかったなぁ」
「いや、まじでそうだよな。編入手続きや進学先の受け入れが、見つからない学生が多いってテレビで言ってたもんな」
そう、数ヶ月前に九州地方全域で発生した、オシリスによる襲撃、通称神の怒りによって九州地方は崩壊した。
「私たちは神と戦うことを決めたから、神高に入学できたかもしれないけど、普通の学校に行く人達は大変みたいだよね」
氷華の言う通り、九州地方の学生達は、今も受け入れ先の学校を探している人が過半数だと言う。
「九州地方が崩壊したからなぁ。学生だけでなく、大人たちも新しい仕事を見つけるのに、苦労してるって言うもんな」
もちろん、学生だけが苦労しているのではない。今までは普通に仕事をしていた人達も窮地に陥れられたのだ。
「それとさ、昨日ニュースであった妖獣の人たちの問題も山積みだよね」
「そういえば、そんな話もあったな。確か、妖獣界から妖獣の人たちがやって来たから、職が無いってやつか」
先日のニュースで報道していた、妖獣反対団とか名乗る奴らの話だ。
「妖獣反対団、全く物騒な名前だよな。何も、日本に全ての妖獣の人たちが来たわけじゃないのにな」
「うん、世界各国に妖獣の人達は難民として受け入れられたって報道されてたから、職が無い事は無いと思うなぁ」
氷華の言う通り、妖獣界から転移してきた妖獣達は、世界各国に散り散りになってらしい。
もちろん、家族がいる人は家族と一緒などの手配はしたそうだ。
だから、職が無いのは妖獣のせいではない。一度何かを失って、立ち直れない負け組の集団が妖獣反対団なのだ。
「ま、妖獣反対団は今のところは、ただ騒がしい連中らしいし、少ししたら落ち着くだろ」
妖獣反対団は、今のところはSNSなどでしか活動していないらしい。
だから、政府も悪ふざけとして放置しているという話があるが、妖獣の人権問題では? という政治家も多々いるのが現状だ。
「それよりも、早く朝ご飯食べようぜ。もう、お腹ペコペコだ」
「ふふふ、そうだね。早く行こうか」
俺と氷華は、少し駆け足気味で階段を駆け降りる。
そして、一階のリビング、いや大広間と言った方が正しいか? まぁ、とりあえず扉を開ける。
「おう、起きてきたか。悠真、氷華おはよう」
扉を開けると、坂田や、ミツレ達が起きていた。どうやら、俺と氷華が、起きるのが最後だったようだ。
「おはようございます! 坂田さん」
「今日から、本格的に神高の生徒になるんだ。しっかりと、朝飯を食べておけよ」
俺と氷華は、坂田から背中を押されて、いつも食事をしている席に着席する。
「神崎さん、氷華、おはようございます」
「氷華、それと神崎悠真、おはよう」
俺の左に座っているミツレ、そしてその左に座っている流風が、俺と氷華に挨拶をする。
「おう! ミツレ、流風おはよう!」
「ミツレちゃんと、流風おはよう〜」
朝の挨拶を終えた俺たち四人は、少し急ぎながら朝飯を食べる。
今日のメニューは、BLTサンドイッチと牛乳と言った洋食だ。食事は全て、合法ロリもとい、女将さんが作っているのだが、彼女の洋食を食べるのは何気に初めてかもしれない。
「そういえば、先輩達は何処に行ったんだ? 姿が見えないんだけど」
いつもだったら、大体一緒の時間に朝食を食べている先輩達の姿がない。
「あぁ、先輩達なら少し前に学校に行きましたよ。日直の日だと言ってましたね」
なるほど、日直の日だったのか。それなら、少し早めて行かないと行けないのかな。
「ごちそうさま。流風達も急がないとね。初日から遅刻なんて恥ずかしい」
口元のパンクズをティッシュで拭き取り、流風は食器を持って台所の方に持っていく。
「流風の言う通りですね。私達も早く食べましょう」
「そうだな、遅刻だけは勘弁だ」
俺たちは、ささっと朝食を完食し、各々着替えなどの準備に取り組む。
「よし、皆んな準備できたみたいだな」
俺たち四人は、制服を身に付け、スクールバッグ片手に玄関に向かう。
この期待と少しの緊張に包まれた新学期の気分は、今でしか味わえないものだ。
「あ、言い忘れてた! お前ら、渡したいものがあるから少し待ってくれ」
その新学期特有の気分を、髭剃りを片手に持った男が中和する。
「坂田さん? どうしたんですか?」
「いやー、マジで危なかった。ほら、渡したい物ってのはこれだ」
俺たちは、坂田から学生証と鍵を受け取った。
「学生証と、これは何の鍵ですか?」
ミツレが、鍵を訝しげに見る。まぁ、それは俺も同じだ。
「自転車の鍵だ。ほら、港のテレポート場所までは少し距離があるだろう? 美香達も自前のチャリでそこまで行っているんだ」
なるほど、これは自転車の鍵だったのか。確かに、あの港までは車で5分ほどかかるから、自転車は必須だろう。
「それと、学生証はマンホールに、かざしてくれ。あと、今のうちにクラスを確認しておいた方が良いだろう」
坂田の言った通りに、俺たちは自分の学生証に記載されているクラスを確認する。
「私のクラスは、B組でした」
「やった! ミツレちゃんと一緒だ! 私もB組だよ!」
「流風も、ミツレと一緒なのは癪だけどB組」
そして、3人の視線が俺に向かう。な、何だこの緊張感は!?
俺は、恐る恐る自分のクラスを確認する。
「えっと……………… B組だ。俺も、B組だったぜ!」
何か、心の枷が一つ取れた気がした。やっぱり、コイツらと一緒のクラスの方が楽しいからな。
「やった! 四人とも一緒ですよ」
「うん! これは嬉しいね!」
「はぁ、まぁ三人よりも四人だな」
新入生四人は今日から神高の1のB組に配属されることが決まったのであった。
「お前ら! 一緒のクラスで嬉しいのは承知だが、遅刻するぞ! 早く行け!」
坂田が、タバコを吹かしながら俺たちに言う。時間を確認すると、確かに、そろそろ行かないと遅刻してしまう。
「うお! 確かにやばいな! 坂田さん、行ってきます!」
俺たちは、坂田に挨拶をして玄関に向かう。自転車は、各々の鍵の色が示す物に乗ることにした。
俺は黒色の自転車、ミツレは赤色、氷華は青色、そして流風は白色だ。
「よし、行くか!」
俺たちは、自転車に跨ってペダルを漕ぐ。少し走ると、海が見えてきた。
俺の地元は内陸の方だったので、潮風を切って進むこの感じは、実に新鮮だ。
少し走ると、寂れた例の港が見えてきた。俺たちは、駐輪場に自転車を止めて、防波堤の方に向かう。
防波堤の先端には、例のマンホールが見えた。坂田がやっていたように、俺たちは自分のカードをかざす。
ほんの一瞬、眩い閃光に包まれた新入生四人は、寂れた港から姿を消す。
そして、次に目を開けると、神殺しを学ぶ異質な学舎に足を踏み入れていた。
「いつ見てもデカイ建物だなー」
俺が、ビル型の校舎を下から眺めていると、ミツレがため息混じりに言ってきた。
「これから毎日見ることになるんですから、早く行きますよ」
俺たちは、一年生のクラスがある階層に向かう。一年生のクラスは、2階のようだ。
そして、階段を使って2階に行き、1のB組の教室の前に着いた。
「よし、行こう!」
「ええ、そうですね」
「うん! 楽しみだなぁ」
「ほんの少しばかり、心が躍るな」
俺たち四人は、教室の扉を開ける。これからの1年間、一緒に苦楽を共にする仲間達との出会いの瞬間だ。
だが、そんな希望に満ち溢れた俺たち四人の表情は、教室の中にいた一人の男の発言によって曇るのであった。
「今日から、ここが俺様の城だぁ! 四頂家の一つ、二皇家の二皇 瓔珞の城に加える!」
長髪の金髪の碧眼が、教壇に足を乗せてそう叫ぶ。今、コイツは四頂家と言ったよな?
かなり期間が空いてしまい、申し訳ありません!
リアルの課題と、モンハンで忙しくて忙しくて・・・・
いやー、RISE楽しすぎやしませんか!?