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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第4章 国立神対策高等学校
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招かれた闇の中

 真っ暗な部屋に照らされる灯りは、六本の松明のみ。

 そして、その奥にはボンヤリとだが鉄格子のような物が見える。


「俺は、何回かここに来たことがあると思うんだが? テメェは、俺が来たとことを覚えてるよな?」


 やはり、ここに来たことはあるはずなのだが、何故だか記憶が混濁している。


「あぁ、来たことがあるな。いや、正確には我が呼んだとでも言おうか。」


 しわがれた声の主はそう言う。コイツは一体何者なんだ………………?


()()()()()()()()()()()()か…………………」


 な、なんだ!? 俺の思考が読まれているだと!? 俺は、言葉を発してはいない!


「そんなに喚き散らかすな。頭に響くだろうが。」


 やっぱり、コイツは俺の頭の中を読めるんだ! なんか頭の中を見られてるってのは、気持ち悪いなぁ。


「うむ、気持ち悪いってのは分かるぞ。我だって、思考を読まれるなんてのは嫌だ。」


「いや、それならやめてくれよ!?」


 俺は、床に座り込んでいた体を立ち上がらせて、しわがれた声の主にツッコミを入れる。


「あれ……………? なんで俺は立ち上がれるんだ?」


 何故だ? 俺は、全ての魔力を使って放つ技である牛刀荼毘を使ったぞ? 

 あの技を使った後は、身体の自由が効かなくなり、ピクリとも動かせないはずだ。


「それに、よく見たら……………」


 あまりにも痛みが無いので、俺は恐る恐る右手の人差し指と中指を見てみる。

 そう、三門龍介によってグチャグチャにされて、無くなった指だ。


「な、なんでだ!? なんで無くなった指が元通りになってるんだ!?」


 無くなったはずの二本の指は、綺麗に生えそろっていた。

 それも、傷一つなく試験を受ける前と同じだ。


「しかも、身体の怪我も治ってる。骨も痛く無いし、二次試験を受ける前と全く同じだ………………」


 身体中を、三門龍介から痛めつけられはずなのに、怪我が無いどころか、痛みすらも感じない。


「そりゃ、そうだろう。ここは、貴様の()()()()だ。」


「精神世界………………?」


 なんだ、そりゃ? 夢みたいなものか?


「夢、か…………… 少し違うな。精神世界とは、貴様らが暮らしている現実世界と、貴様らが見る夢世界の狭間にある世界の事だ。」


 うぅ、ますます分からん…………… この、声ガラガラオッサンは何が言いたいんだ?


「誰が、オッサンだ。いつもなら即、現実世界に突き返すが、今回は特例だ。」


 少し、思い出してきた。俺は、この世界に何回か来たことはあるが、コイツの事は何も知らない。

 ましてや、ここがどのような場所なのかもよく分からない。


「話を戻そう。その精神世界は、普通は何も無い空虚なものだ。現実世界と夢世界を繋ぐ駅のようなものだと考えておけ。」


「はぁ、駅ねぇ…………………」


 なんか、親切に教えてくれているが、本当になんなんだ? 


「ん? じゃあ、精神世界には本来ならば、何も無い世界なんだよな?」


 何かがおかしい。そんなの矛盾しているじゃないか。


「あぁ、精神世界は何も無い世界だ。」


「じゃあ、()()()()()()? どうして、何も無い空虚な世界に、お前はいるんだ?」


 だって、おかしいだろ! コイツの言い分が正しいのならば、何も無いはずの精神世界にコイツはいるんだ!?


「さすがに違和感に気づくか……………… そうだ、生きとし生けるものならば、全ての生物が持つとされる精神世界、そこは何もなく、ただひたすらに無がある世界だ。」


 やはりそうだろう。何もない世界、それがコイツの言う精神世界って言うやつだ。

 なのに、何故その精神世界にコイツは存在しているのだ?


「だが、我を含めて数名は、精神世界に居住するしかなくなったのだ。いや、出れなくなったの方が正しいか?」


 居住? しかも、コイツは数名いるって言ってたよな? なら、コイツの正体は人間で、コイツみたいな奴があと何人かいると言うことか?

 つまり、俺と同じような境遇の人が、あと数名いると言うことだ!


「人間? うむ、それはどうだろうか。人間の定義というものは難しい。我が、人間かそれ以外かは人によって異なるであろう。」


 クソ! 思考が筒抜けってのは本当に気持ちが悪い!

 だが、何故かは知らないが、今のコイツは機嫌が良いらしい。探りを入れるのであれば、今がチャンスだ。


「そうか、まぁそんな事はどうでも良い。お前は、なんなんだ?」


「ほぅ………………?」


 随分とストレートな質問に驚いたのか、少しだけしわがれた声の主は、声が低くなる。


「そう、言われても困るな。あまり自分の事は言いたくない主義なのでな。」


 なんなんだよ、それはよぉ! 人の思考を覗き込んでおいて、それはあんまりだ!


「そう、怒るな。我だって、嫌な事ぐらいある。」


「はぁ、そうかよ。正体明かしてくれないのなら、名前だけでも教えてくれないか? なんて呼んだら良いのか分からねーだろ?」


 せめて、名前だけでも教えてくれたら、何かしらコイツの正体が分かるかもしれない。


「それだけは、絶対にダメだ! 我らの住んでいた世界では、源氏名ならまだしも、名を教えるなど絶対にダメな事だ。」


 我らの住んでいた世界? コイツは、俺たち人間界でない別の世界から来たということか?

 まさか、コイツの正体は……………


「たわけ! 我は、神でない。あんなゴミと一緒にするな!」


 しわがれた声の主の叫び声が辺りに響く。凄まじい叫び声だ、鼓膜が破れるかと思ったぜ。


「それと、我に名を求めるな。我は、まだ貴様を信用してはいないからな。」


「源氏名があるのならば、源氏名でもダメか?」


 コイツの言い方だと、まるで本名とは別の名前である、源氏名を持っているかのようだった。それならば、教えてもらえるかもしれない。


「ダメだ、貴様の思考からは、我の正体を暴いてやろうという邪な匂いが嫌というほど鼻に付く。」


「へいへい、そーですかい。」


 信用だと? 俺も、勝手に俺の心の中に住み着いたコイツの事なんて、信用してねーよ!


「我の事などどうでも良い。では、貴様を我の世界に呼んだ理由を、今から話すぞ?」


「いや、お前の世界じゃないからな!?」


 コイツ、さらっと今、自分の世界だと言いやがった! 

 俺の、頭の中でのシャウトを無視して、しわがれた声の主は話を続ける。


「貴様、あの反吐が出るような匂いのする四項家に何故負けた? 我は、それが許せんのだ。」


 今の、コイツ確実に四項家って言ったよな!? 


「お前、どうして四項家の事を…………………って、あぁ!? まだ、試験の途中じゃねーか!」


 そういえば、まだ試験の途中だった。すっかり、この気色悪い世界のせいで忘れていたが、まだ試験中じゃないか!


「心配するな、精神世界にいる間は全ての時は止まっておる。まぁ、ここにいられる時間は限りがあるがな。」


「全ての時が止まっている…………………?」


 つまり、精神世界で過ごした時間は、現実世界には反映されないということか。


「あぁ、止まっておる。だが、現実世界に戻ったとしても、貴様はあのゴミ一族の豚に頭を無様に潰されて終わりだ。」


 コイツ、俺が現実世界で戦っていたことも知っているのか。


「そして、仮想現実だったか? そこから解放されたお前は現実世界でも殺されて、あの場にいる者たち全てが殺戮されるのであろうな。」


「っ…………………!」


 少しずつ、現実世界で起きた事が再びフラッシュバックする。

 憎い、弱々しい自分が憎くてたまらない! いや、それよりも三門龍介が憎い。殺したい、三門龍介を殺したい!


「再び、負の感情が練られた来たか。褒めてやろう。」


 落ち着け、今はコイツの正体を探ることに集中しろ。

 現実世界のことは、今は忘れろ……………!


「忘れられるわけなかろう。だが、貴様の質問に一つだけ答えてやる。」


「なんだ? 何に、答えてくれるんだ?」


 正体も、名前も教えてくれないコイツに期待するのはあまり良くないが、聞いて損はないはずだ。


()()と四項家は深い繋がりがある。それも、負の繋がりがなぁ…………………!」


 辺りの大気が震える。コイツの四項家に対する怒りと共鳴しているかのようだ。


「まぁ、そういうわけで我の受け皿である貴様が、四項家に敗れるなど虫唾が走るのだ。」


「はぁ? それは俺も同感だが、何でお前が四項家の事を知ってるんだよ?」


 あれだけ怒る理由が、コイツと四項家の間にはあるはずだ。

 ん? ()()と言っていたよな? 先程言っていた数名も、コイツと同じように四項家に恨みを持っているのか?


「それ以上、我の内情を勘繰るな。貴様が、負の憎しみの感情を増幅させてくれたおかげで少し結界が緩んだ。()()()()だが、久しぶりに暴れられそうだ………………」


「は? 何言ってるんだ…………… う、うわぁ!?」


 しわがれた声の主が、そう言った瞬間、遠くにボンヤリと見える鉄格子の隙間から、凄まじい速さで何かが俺の方に向かって襲ってくる。

 ()()は、俺の首根っこをガッチリと掴んで、宙に俺の体を釣り上げる。


「何、しやがる……………!」


 視線を首が掴んでいる物の方にやると、それは手だということが分かった。


「なん………………だ、こりゃ…………」


 それは、手と言うにはあまりにも禍々しく、艶のある紫の手をしていた。

 手と言うよりも、一つ一つの糸が集合して出来た手のようだが。

 その手は、鉄格子の向こう側から伸びて、俺の首を掴んでいる。


「そう喚くな。我も、あの四項家を見てるとハラワタが煮えくりかえるからな。力を貸してやると言っているのだっ!!」


「や、やめろおおおおおお!!」


 掴んでいる手に力が加わり、首を捻じ切るほどの力が伝わったので、俺は悲痛な声を上げる。






―――――――――――少年がそう叫んだ瞬間、その目にはあり得ざることが見えていた。



「は? はああああ!? どうしてだ!? どうしてなのだ!? 僕ちんは、確実に頭を潰すほどの力を加えたぞ!?」


 俺の目の前には、喚き散らかす醜い豚、そして会場に座っている者たちの、目を丸くした表情が見えた。


「僕ちんは、僕ちんはぁ! お前の頭を潰そうとしたのだぞ!? 何故、何故なのだ! 何故、潰れていないっ!!」


 状況が理解できない。俺はさっきまで、あの声ガラガラオッサンに首を掴まれてたはずだ。


「そして、何故()()()()()()()!? 貴様は、もう立てないはずじゃなかったのか!?」


 三門龍介が、身体をガタガタと震わせながら俺を見ている。

 そして、俺はゆっくりと自分の視界を三門龍介から、自分の身体に移す。


「た、た、立ってるぅ!? 俺は、牛刀荼毘を使ったぞ!?」


 そこには、身体中はボロボロだが立ち上がる少年の姿があった。


「こ、こっちも何じゃこりゃあ!? 俺の右腕があ!?」


 少年が驚くべきものは立っている自分の体ではなかった。そう、()()だ。

 少年の右腕は、艶やかな紫色の甲冑のような物になっていた。

 だが、それは禍々しく、闇をも象徴するかのような物であった。


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