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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第4章 国立神対策高等学校
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少女の怒号

「あぁ……………? また、貴様か女狐。お前も物分かりが悪い奴だ。この雑魚の次に痛めつけられるのは貴様だぞ?」


 三門龍介は、ため息をついてミツレの方を睨みつける。


「黙れっ! 黙れ黙れ黙れ黙れ! 神崎さんの事を馬鹿にするな!」


 ミツレは、涙を浮かべ普段のお淑やかな()()()()調()ではなく、怒りの形相を浮かべ、激しい口調になっている。


「おい、それ以上言ったら女狐、お前も」


「取り消せ! 神崎さんの努力の日々を無駄だと言った事を取り消せ! この大馬鹿野郎がああああ!!」


 三門龍介の言葉を遮った挙句、更にはコイツが一番嫌がるような言葉をミツレは吐き捨てる。

 ミツレの怒りの叫びが終わり、静まり返った会場に火が付くのは、一瞬の出来事だった。


「貴様ぁ…………… 貴様ぁ!! この女狐ぇ!! 僕ちんの事を大馬鹿野郎だとぉ!? そんな汚らわしい言葉、パパにも言われた事ないぞ!! 許さん! 絶対に許さん! 今すぐ殺す! 絶対に殺す! 殺す殺す殺す殺す殺すうううう!!」


 目をはち切れんばかりに開いた三門龍介は、ミツレを睨みつけ、その足をミツレの方に向けようとする。


「りゅ、龍介様! 落ち着いてください! まだ試験の途中です!」


 三門龍介の形相にやばいと思ったのか、須防は三門龍介を宥める。

 そして、ミツレは涙を浮かべてはいるが、三門龍介を睨みつけたままだ。

 そのミツレの前に、立ち塞がるように坂田が立つ。無言だが、その顔は何かを覚悟したかのような顔つきをしている。

 氷華や、流風も三門龍介を睨みつける。いや、それだけじゃ無い、会場にいる受験生全員が、三門龍介を睨みつけている。


「これが落ち着いてられるか! 試験は仕切り直しだっ!!」


「仕切り直し!? そんなの出来ませんよ!」


「僕ちんは、四頂家だぞ!? 世界のトップの一族だっ!! 僕ちんの言う事を聞け!!」


 あぁ、だめだ。コイツに話は通じない。怒りで我を忘れている。


「しかも、女狐だけではない! この、ドブ臭い会場にいる全ての下民が、僕ちんに向けて嫌な目を向けている!」


 三門龍介は、会場全体を指差しながら叫ぶ。そう、会場にいる受験生全員が睨みつけているからだ。


「試験は中断して、ここにいる全ての下民の処刑を行う! これは、四頂家の命令だっ!!」


 コイツの目は本気の目だ。本当に、試験など無視して、会場にいる全ての人を殺す気だ! ダメだ! 俺が阻止しないと……………!


「まずは、事の原因の女狐からだ! どう痛めつけてやろうかなぁ!………………あ?」


 三門龍介が円の外を出ようとしたその瞬間、俺は最後の力を振り絞って、奴の足首を左手で掴む。

 もちろん、握る力などない。だが、それでいい。三門龍介の意識を俺に向けさせるんだ!!


「おいおい、円の外に出たら()()だぜ? この戦い、俺の勝ちで良いのかよ?」


 普通の奴だったら、こんな煽りは無視するだろう。だが、プライドの高い三門龍介は違う!


「貴様ぁ!! まだ、その減らず口が出てくるか!」


 三門龍介は歩みを止めて、地面に横たわる俺の方に、くるりと振り向く。

 思った通りだ、コイツをこの場に留めておくのは簡単だ。三門龍介の意識を、俺だけに集中させる!


「俺は気絶もしていないし、円の外に押し出されてもいないからな。このまま、お前が外に出てくれるなら俺の勝ちだ。」


 三門龍介は、プルプルと震えながら歯軋りをする。その顔は、真夏の太陽に照らされたトマトのように真っ赤に染まっている。


「うぐぐぐぐ…………… 貴様は、僕ちんをイラつかせるのが上手いようだなぁ………………」


「まだ、勝負は終わっていない。」


 いや、もう()()()()()()。魔力も使い果たしたし、何より牛刀荼毘の副作用で体が動かない。

 先程、三門龍介の足を掴んだように少しだけ動かす事は可能だが、体を起き上がらせて剣を振るうなどは出来ない。


「終わっていなぃ? もう、お前は負けたんだ。」


「いや、負けていない。何度も言わせるなよ、円の外側にも出てないし、気絶もしていないからな。」


「貴様ぁ………………!」


 情けない事だが、今の俺にはコイツを煽る事ぐらいしかできない。

 負けは確定しているが、少しでも三門龍介の意識を俺に向けさせるんだ。皆んなに向けられた怒りを少しでも冷ませて、俺だけに向けろ………………!


「はぁ、もう良いや。」


 顔を真っ赤に染めていた三門龍介は、不気味なぐらいに落ち着く。

 真っ赤に染まっていた顔は、スーッと熱が冷めていき、冷ややかな目で俺を見つめる。


「え…………………?」


「よくよく考えたら、お前の下手くそな煽り文句に耳を貸す前に、早く脱落させれば良かったんだ。この仮想現実でお前を痛めつけても意味がない、()()()()()を痛めつけてやらないとなぁ………………!」


 ニチャァと汚い笑みを浮かべ、舌舐めずりをする。最悪だ、一番嫌な方向に進んでいる! コイツの意識が、俺じゃなくて現実世界の俺に目をつけやがった!


「手っ取り早く、頭を潰してやるよ。それも、じっくりなぁ! ブッヒャッヒャッヒャ!!」


 落ち着いた表情をしたと思ったら、もう元通りだ! 

 いや、怒ってはない。この顔は、完全に弄んでいるやつの顔だ!


「千手 降魔印(ごうまいん)


 三門龍介は、人差し指を俺の方に向ける。すると背中から、あの黄金の手が同じように無数に出てくる。

 だが、先ほどと同じような無数の手による攻撃ではなかった。その複数の手が、グニャグニャと水飴のようになり、一つの大きな手となったのだ。

 そして、その横幅が5メートルはある巨大な黄金の手は、指先を地に向けるような形になる。

 小指、薬指、中指の指先はゆっくりと手の内側に向けられ、人差し指と親指の指先が地を向いている。



「こ、この感じ! やっぱり、嫌な予感は的中でした! あの時、ビルを倒壊させて私たちを下敷きにしようとしたのは、あなただったんですね!」


 ざわめく会場に、ミツレの声が響き渡る。あの時ってまさか………………


「あぁ、そうだ。あの時は、女狐と神崎が視線の隅に入ったからな。つい、カッとなって反射的に攻撃してしまった。あの時に、脱落していればこんなことにはなっていなかったのになぁ……………」


 やれやれとでも言いたそうに、三門龍介は首を横に振るう。


「あの時の攻撃はお前だったのか。そんな卑劣な手を使うのは、お前ぐらいだと思っていたよ。」


 あの時、ミツレが嫌な顔をしていたのは脳の隅っこに、こびりついている。

 あんな表情は、三門龍介の前でかしない表情だったと、今思い出したぜ。


「はっ! まだ、減らず口を言えるか。今から、頭を潰されるというのによぉ。」


 巨大な黄金の手は俺の頭上に降りてくる。そして、人差し指で俺の顔全体にそっと触れる。


「そうだ、冥土の土産に良い事を教えてやるよ。まぁ、冥土って言っても、本当に死ぬわけではないか。本当の冥土は、()()()だ。」


 少しずつ、指先に力を込めていく。俺の顔全体が、地面にめり込んでいく。


「ぐ、があっ…………… 良い事だと?」


 この期に及んで、コイツは何言ってんだ? 三門龍介にとっての良い事なんぞ、嫌な予感しかしない。


「あぁ、とっても良い事だ。龍杏についてだ。」


 三門龍介の口から、龍杏という言葉が出た瞬間、全身に鳥肌がボワッと浮かび上がる。


「龍杏じゃない、杏先輩だ! やめろ、お前の口から杏先輩の事なんて聞きたくない。」


 嫌な予感しかしない! 聞きたくない! 耳を塞ぎたいが、体が動かない。


「おいおい、釣れないなぁ? 確か、あれは僕ちんが14歳の頃だったかなぁ?」


 ニヤニヤと吐き気を催すその顔は、体が動くのならば殴りたい。顔面が変形するまで殴りたい!


「お、良い顔してんじゃねーか。その絶望に歪んだ顔、嫌いじゃない。ブッヒャッヒャッヒャ!!」


 ダメだ、もう怒りの感情のコントロールが効かない。

 今まではコイツに痛みを教えさせて、杏先輩や三門龍介に虐げられた人たちの分まで敵討ちだと考えていたが、()()()()()()()()()()()


「あれは、僕ちんの屋敷に彼岸花が咲いていたから、9月の下旬ごろだったかな。あの時、龍杏の」


「おいっ!!」


 三門龍介の声を何者かが遮る。甲高い声のミツレでない、男らしく俺が尊敬している努力家の声が会場に響き渡る。


「ゴホン……………それ以上は、私と三門家の契約に反するのでは? 」


 ほんの一瞬、カグツチと対面した時と同じ、修羅のような顔になっていた坂田だが、咳払いをして、いつものクールな顔つきに戻る。


「あぁ………………? 一瞬だけ、不敬な声が聞こえたが聞かなかった事にしておこうかな。たしかに、三門家と坂田は契約を結んでいたな。パパに何か言われても困るし、これ以上言うのはやめておこう。」


 いつものクールな顔つきに坂田は戻ったが、目だけは変わっていない。その眼光の鋭さは、怒りによって増している。


「興醒めだ、さっさとお前を脱落させて会場の下民の掃除を開始する!」


 指先に一気に圧が加わる。ミシミシと顔だけでなく体全体が地面に押し付けられている。



「い、いやあああああああ!! 神崎さぁぁん!!」


「ゆ、悠真ぁ!!」


「やめて! 負けるとこなんて見たくない!」


「神崎悠真っ!!」


 四人の悲鳴と、会場にいるすべての人の悲鳴が俺に降り注がれる。

 くそっ……………! ここまでか! 俺の、神への復讐の道のりがこんなとこで終わるなんてよぉ……………………!


 頭が潰されると思い、俺はそっと目を閉じる。試験に合格したかった…………………







「情けない、全くもって情けない。我の受け皿は、ここまでに弱いとはな。」


 試験に脱落し、三門龍介による殺戮が始まると思っていたが、目を開けると、そこは会場ではなかった。

 深い、深い真っ暗な闇の部屋。松明のような明かりが両壁面に3つ付いているだけで、視界が悪い。

 そして、このしわがれた嫌になる声は……………………!


「久しぶりだな、お前もあんな憎しみに溢れた表情をするとは。いつもヘラヘラしているお前にしては、上出来だ。」


 しわがれた声の主は、上機嫌なのか少しだけ声のトーンが上がっている。

 確か、ここに来たのは何回かあるはずだ。記憶が混濁しているが、確実にある。


2日連続投稿です! まぁ、本当は一つの話が長すぎたから、二つに分けただけなんですけどね笑

もしかしたら、三つに分けられたかもしれないなぁ〜

まぁ、悔やんでも仕方ありませんね! もう、この章はラストスパートです!

この章が終わったら、番外編を書こうと思ってるのでお楽しみに!

前回の番外編の反省を生かして、次は5話ぐらいに分けて投稿する予定です!!

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