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日常の大切さは終わった時に気づくもの  作者: KINOKO
第4章 国立神対策高等学校
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希望の先に

「うおおおおおおおお! やった! やったぞ!!」


 たった一人で、格上の相手を打ち負かした少年の喜びの雄叫びが、会場を木霊する。


「俺は、俺はぁ! やったぞぉ!!」


 俺は天高く声を叫び、全身で喜びを表す。見てますか? 杏先輩、仇は打ちましたよ!


「すげぇ! 魔力の差は歴然だったぞ!? あの神崎ってやつ、やるじゃないか!」


「えぇ、第一回戦からこんなに良い試合を見してもらったら、私たちも頑張らないと。」


「……………………少しはやるみたい。光理ほどではないけど、今回だけは褒めてあげる。」


 その雄叫びと同等か、それ以上の歓声の声が更に会場全体に響き渡り、俺の視界は黄色でいっぱいになる。



「勝ちました! 神崎さんが勝ちましたよ!!」


 ミツレは少し涙を浮かべて席を立ち、ピョンピョンと小刻みに跳ねる。


「ふっ、ったく心配させるなよ……………!」


「本当に良かったよぉ! 悠真くん、頑張ったねぇ!」


 両目からボロボロと涙を滝のように流す氷華と、それとは対照的に冷ややかだが安堵した表情を流風は浮かべる。


 会場が一気に喜びのムードに包まれていたが、それは数名を除いての話だった。


「ん? 坂田さん、どうしたんですか? そんな眉間にシワを寄せて。神崎さんが、勝ったのですから喜んでくださいよ。」


 そう、坂田と今回の試験を運営しているであろう須防や、その周りにいる職員の人たちは怪訝な顔色をしている。


「あ、あぁ……………すまない、少しな……………」


 坂田は、何かを言いたそうにしていたが、確信を持てないのか眉間にシワを寄せる。


「ん? それにしても何か変だ。」


 それまで、ほっとしていて安らかな表情を浮かべていた流風が、顔色を急に変えて視線を須防達、試験監督の方に目を向ける。


「どうしたのですか、流風? 何かおかしな点でも?」


 ミツレが、不思議そうに流風の方を見る。そして、流風は目を大きく剥いて、口をゆっくりと開く。


「単純な疑問なのだけど、決着がついたら、運営や試験監督から()()()()()()()()って言うのが普通じゃないのか?」


「ん? 何が言いたいのですか流風………………はっ! もしかして!」


 ミツレも、何かに気づいたのか顔色を真っ青に染め上がらせる。


「もしかして、神崎悠真は三門龍介に勝利していないのではないのか!? だって、試験監督のあのオッサン達は、()()()()()()()()()()()()()()()


 流風の一言で会場は再び静まり返り、その視線は須防達、この試験の運営の方に向けられる。

 もちろん、俺も流風の叫び声と、急に静まり返ったので須防の方に視線を向ける。


「審議! 審議中だ! 受験生は、席を離れないように!」


 須防はマイクを握りしめて席を立ち上がると、震える声でそう叫ぶ。

 隣にいる3名の職員らしき人たちは、パソコンを広げて何かを調べている。


「どう言うことだ!? 俺は、見たぞ! 神崎が三門龍介を斬った瞬間を!」


「わ、私だって見たわよ! 神崎悠真は、絶対に三門龍介を斬っていた!」


「どう言うこと……………? それに、なんか嫌な感じがする。」


 再び、会場がざわめく。不安や恐怖、底知れない何かに怯えている。

 確かに、そうだ。流風の言う通り、まだ俺は()()()とは須防に一言も言われていない!



「どういうことですか!? だって、神崎さんは勝ったはずじゃ…………………!」


 ミツレは、一気に血の引けた顔になる。


「流風だって分からない。でも、もしかしたら()()()()()()()()()………………」


 流風は頭を抱え込んで、最悪を想像しているかのようだ。


「いや、でもあそこに首が斬られた三門龍介って人の身体が………………あれ? ()()()()


 その不穏な一言で、会場の視線は須防達から、三門龍介の残骸に向けられる。

 誰しもが興味を失い、誰しもが視線を向けられることのなかったその場所から、あるべきものが消えていた。


「え、嘘……………だろ?」


 言葉が出ない。底をついた魔力や傷ついた体からよる疲れが原因ではない。

 ()()、そう、その何かに俺は恐怖しているのだ。何故かは分からないが、怖くて怖くてたまらない。

 砂煙が完全に消え失せり、円の中でただ一人呆然と俺は立ち尽くす。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を見ながら。


()() ()()()


 会場のざわめく声で埋もれて、誰もが気づかなかった反吐が出るような声音、それを切り裂くようにある男の声が俺の耳に届く。


「悠真! 伏せろっ!!」


「っ!? はい!!」


 聞き慣れた男らしい声、そう坂田の声だ。俺は、その声が聞こえた瞬間に、身体を反射的に伏せる。

 その瞬間、三門龍介の身体があったはずの場所から、凄まじい速度で横幅が3メートルはある手刀の形をした腕が飛んでくる。

 坂田のおかげでなんとか間一髪避けられたが、俺の背後の地面は大きく抉れる。


「おいおい、普通当たるだろうがよぉ………………」


 先ほどまでざわついていた会場は、その声を聞いた瞬間、静まり返る。


「は………………? 嘘だろ?」


 再び覆われた砂煙が、ゆっくりと消えていき、その中から声の主が顕現する。


「坂田が余計な事を言わなければ当たってたのに。まぁ、僕ちんもパパに助けてもらったから、おあいこ様ってやつかぁ?」


 ゴキゴキと首の骨を鳴らしながら、声の主はゆっくりと確実に、姿を表す。


「なぁ、神崎悠真ぁ?」


 そこにいたのは、身体が一切汚れていない、戦う前の三門龍介だった。

新居が、やっと落ち着いたので投稿できました。いや、一人暮らし最高です!!

あと少し、あと少しでこの章は終わるので最後まで付き合ってください!

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