誰も止められない
「あああああああああ! 俺の指がああ!!」
ダメだ! 痛すぎる! 俺が今まで経験した痛みの中で一番痛い!
叫んでなんとか紛らわしているが、叫ぶのをやめたら失神してしまいそうだ。
「ブッヒャッヒャッヒャ! おいおい、なに泣いてんだよ!」
右手を左手で囲い込むようにして、背中を丸めていた俺は三門龍介を上目遣いで睨みつける。
「フーっ! う、うわああ!!」
「あ? まだ、そんな目できるのかよ。良い加減に僕ちんを敬えよ!!」
睨みつけた俺を気に食わなかったのか、三門龍介は容赦なく俺の顔面を蹴っ飛ばす。
「グハァ!! う、うう……………」
三門龍介の靴裏を顔面に受けて俺は、背中から擦るように後方に吹っ飛ばされる。
「ハァハァ……………… こんなとこで終われるかよ!」
左手で刀を持ち、それを杖のようにして再び俺は立ち上がる。
だが、もう身体が限界だ。度重なる三門龍介の攻撃と利き手である右手が使い物に無くなってしまった。
このままだと、何もせずに三門龍介にいたぶられて負けるだけだ。
「ブッヒャッヒャッヒャ! まだ立つのかよ! ゴキブリ並みのしぶとさだな!」
そう言うと三門龍介は、今までしたように黄金の腕を俺に向かって放つ。
「だが、そのしぶとさだけは褒めてやるよ。まだお前は踊れそうだ!」
黄金の拳が、俺の頬や腹部などを殴りつける。その度に、俺の身体は後退していく。
「くっ………………くそがあああああ!!」
体の至る所を殴られて、あと少しで円の外に俺の身体が出ようとした時、最後の力を振り絞って爪先に力を入れて踏ん張る。
そして、利き手ではない左手で刀を鞘から抜いて、三門龍介の黄金の腕を切り捨てる。
「ゴホッ! ハァハァ……………」
向かってきた数本の腕は切ったが、無理に身体を動かしたせいで俺は膝をつく。
「ブッヒャッヒャッヒャ! まだ攻撃の姿勢を崩さないとはな。」
三門龍介がこちらに歩み寄ってくる。ダメだ、もう刀を振る気力も残っていない。
今の俺には、奴を睨みつけることしかできない………………
「そのしぶとさだけは僕ちんのお墨付きで認めてやるよ。だがなぁ………………!」
そう言うと、三門龍介は膝を地面に付いている俺の前髪を掴んで、力を込めて引っ張る。
「その目だけは気に食わねぇんだよ! 僕ちんは四頂家だぞ!?」
顔を真っ赤にして、唾があたるぐらいの距離で三門龍介は叫ぶ。
「ハァハァ………………四頂家? そんなの関係ない! お前は杏先輩の遺品をぶち壊した! その時の坂田さんやミツレ、そして残された先輩たちの気持ちが分かるのかよ!?」
顔を思いっきり横に振って、前髪を掴んでいた三門龍介の手を振り離す。
「あぁ? 分かるわけねーだろ! 何度も言わせてんじゃねーよ! 僕ちんは四頂家でお前らは僕ちんのオモチャなんだからよぉ!!」
俺の前髪を触っていた手をゴシゴシとハンカチで拭き、背中から生えた黄金の腕で俺の頭を掴む。
「お前は、杏先輩を姉貴って言ってたよな…………………? 実の家族が殺されて悲しくなかったのか!?」
あの時、三門龍介は杏の事を姉貴と言っていたはずだ。
つまり、杏は四頂家の血を引く者であるはずだ。
何故、そんな人が千葉神対策局の一員として命の危険を冒していたのかは分からないが、それでもこのクソ野郎とは実の姉なはずだ! どうして、あんな事を平然にできるんだ?
それに、三門龍介の父である三門龍麻呂も杏を侮辱していた。本当に家族なのか疑わしいぐらいだ。
「実の家族ぅ? ブ、ブッヒャッヒャッヒャ! アイツが? パパァ? 聞いた今の? 最高に面白い冗談だよね!」
「おお、面白すぎて顎が外れるかと思ったわ! そこの神崎悠真とかいう下々の民、なかなかやるではないか!」
この醜い身体をした三門家の二人の笑い声と、会場のざわめき声が辺りをこだまさせる。
面白い冗談だと? コイツ、何言ってるんだ!?
「笑わせてくれた礼にアイツの正体を教えてやるよ! 杏、いや龍杏は確かに四頂家であるパパの血が入っているから、僕ちんの姉とも言えなくもないだろう。」
龍杏? それが、杏の本当の名前なのか?
「だがなぁ、三門家は誰もアイツも家族とは認めていない! アイツの母親は、三門家の所有物である遊び用の女だからだ!」
遊び用の女? そういえば、初めて三門家に行った時に派手な装いの女の人がいたな。あの人たちのことか?
いや、そんな事は今はどうでもいい。家族とは認めていないだと?
「何でだよ…………………」
ハラワタが煮え繰り返りそうだ。コイツは、どうしてここまで腐ってるんだよ…………………!
「あぁ?」
「お前らと同じ血が流れて、同じ屋根の下に住んでいるんじゃないのかよ! どうして、そん」
「黙れぇい! 貴様ぁ! 麻呂達、三門家を愚弄するつもりか! 次、あのバカの名前を出したら処刑するぞ!」
俺の言葉は、観客席に座っている三門龍麻呂の怒声によって遮られる。
「まぁまぁ、落ち着きなよパパ。コイツは僕がちゃんと痛めつけるからさ。」
そう言うと、三門龍介の黄金の腕の力が強くなる。そして、頭を掴んでいた腕は少しずつ宙に浮いていき、俺の身体も浮遊していく。
「グ、グアアアアア!!」
「ほほほ、そうかそうか。麻呂とした事が少し声を荒げてしまった。麻呂は少し風に当たってくるから、躾けておくように!」
「りょーかい、パパ!」
そして、三門龍麻呂は席を立ちノシノシと何処かに消える。その後にSPのような黒服の男が二名付いて行く。
「さーてと、次はどういたぶってやろうかなぁ!」
三門龍介は、黄金の腕で頭を掴んで俺の身体を思いっきり上空に投げる。
「グアアアアアアア!! くそ、なんて圧だ!」
凄まじいGが体全体を襲う。そして、遙かなる上空に進んでいた俺は、ある一点でピタリと止まり、地面に向かって急降下する。
「さぁ、こんなのはどうだ!」
地面に向かって頭から急降下する俺に向かって三門龍介は、十数の黄金の拳を飛ばす。
「くそっ! 三の」
「遅い遅い遅い遅い遅い遅い! ノロマなハエだな!!」
三の力を使って、三門龍介の黄金の拳よりも早く地面に着いて反撃の機会を窺おうと思ったが、俺が三の力を起動する事はなく、無数の黄金の拳が俺を襲う。
「グアアアアアアア! くそがああああああ!!」
「ブッヒャッヒャッヒャ! 最高に面白れぇよ! なぁ、おい!!」
奴の数十の拳が、俺の身体全体を襲う。まるで、ポップコーンマシンの中で踊り狂うとうもろこしの種子のように、俺は空中で舞う。
そして、数十の拳を受けた俺はべチャリという音を立てて、地面に落下する。
「ゴホッ! ハァハァ………………」
地面に顔をつけたまま、俺は吐血する。ダメだ、今ので内臓の一部がやられた。
痛い、痛いよ………………全身が痛すぎる…………………!
「もう、ダメだ………………」
意識が遠のいて行くのがハッキリと分かった。今、気絶したら俺は三門龍介に負けたことになって二次試験敗退だ。
それは、神高の受験に落ちたと言う事を意味している。
だが、もう限界だ。仮想空間で現実の肉体に影響はないと言ってはいるが、精神的な問題には影響が大いにあるはずだ。
こんなとこで俺の復讐劇は終わりたくないが、もう…………………
「おいおい! まだ気絶して勝手に負けるんじゃねーよ!」
「ゴホッ!? う、うう………………」
意識が遠のき、目が自然に閉じようとしていた時に、右頬に衝撃が走る。
ゆっくりと目線を上に向けると、ニヤニヤとした顔で俺を上から見ている醜い男が立っており、俺の右頬に足を乗せている。
「これで、終わりなんて寂しい事させんなよ。まだ、おわんねーぞ? お前の精神を完全に壊すまではな!」
三門龍介の足に力が入る。それにより、俺の顔は地面にめり込んでいき、ミシミシという音が頭の中を直接響く。
「グアアアアアアアア!!」
「ブッヒャッヒャッヒャ! 泣け! もっと泣け! 僕ちんをもっと楽しませろ!!」
自然と両目から涙が溢れる。この涙は、痛みによるものではない。自分の情けなさによるものだ。
「もう我慢できません! 神崎さんを痛めつけて、あなたはその先に何を望むんですか!?」
観客席に座っていたミツレが立ち上がり、怒声を三門龍介に向ける。
観客席に座っていた人たちはミツレの方に視線を移しており、隣に座っている氷華は涙を浮かべていて流風は氷華の肩に手をやっている。
坂田は、歯軋りをしながら右手を額にやって顔を下に向けている。
「あぁ? また、お前か女狐。僕ちんは四頂家だぞ? オモチャで遊んで何が悪い?」
三門龍介の足に更に力が入る。その度に、俺の頭はミシミシと軋む。
「グアアアアアアア! ミ、ミツレ! お前は先に着いてろ………………」
これ以上、ミツレの言葉で三門龍介の機嫌を損ねたらまずい。
奴の視線が俺でなくミツレに向くのだけは避けなくてはならない…………………!
「っ! あなたはバ」
「龍介様! それ以上はあなたの評判にも関わりますよ? もう、やめてください。」
何かを言おうとしたミツレの肩に手をやり、言葉を遮る。
立ち上がった坂田の目は、真っ直ぐと三門龍介の方を見ており、その目は静かに怒りで燃えていた。
「坂田ぁ? お前がそんな事言っていいのか? 数年前のパパとの契約、息子である僕ちんにも適用されるんじゃないのか? パパの機嫌を損ねるような事をしたらどうなるのかなぁ?」
三門龍介は、首をゴキゴキと鳴らしながら坂田の方を見る。
契約? 何のことだ? そういえば、今思えば坂田は三門家に対して何か弱みを握られているかのような態度をしていたな。それは、契約というものが関係しているのか?
「っ! で、ですが!」
「坂田ぁ! それ以上、口を開いたら分かるよな?」
三門龍介の怒声により、坂田の言葉は遮られる。そして、坂田は顔を下に向けながら席に座る。
「三門龍介様、坂田の言う通りです。少しやり過ぎではないでしょうか? その者はもう限界です。それ以上の蛮行は父上に咎められますよ?」
今までチャラチャラとした声だった須防が、真剣な面持ちと声音で三門龍介に声を向ける。
「今度は貴様か、須防。パパは寛大だから許してくれるし、パパが躾けろって言ってたから大丈夫だ。それとも何だ? 一職員である貴様の言葉一つで、三門家が貴様ら神高に与えている支援額を下がっても良いのか?」
「くっ………………! そ、それは………………」
「分かったのなら席に座って黙って見てろ。」
須防は、拳を固めながら席に座る。そして、何処かに電話する。
その電話に対しては、三門龍介は何も言わなかった。
「それと観客共、貴様らもだ! それ以上、神崎悠真を励ますような言葉を吐く者は一族もろとも死刑するからな!」
その一声により、三門龍介を睨んだり俺を心配するような声をあげていた人たちは一気に静まる。
その結果、先ほどまでザワザワしていた会場は一気に静まり返る。
「ブッヒャッヒャッヒャ! さぁ、続きといこうじゃねぇか!」
ダメだ、誰もコイツを止められない。この場にいる誰もが。何かしらの弱みをコイツに握られているせいだ!
いやー、やっぱり気持ち悪いキャラの表し方分かりません笑
どうしても、ネタキャラみたいになってしまうんですよね〜
それにしても、ここまで主人公ボコボコにされ過ぎですね。
実は、主人公を苦しめるのが私は大好きなんですよ。
全てのなろう作品における事ではないですが、主人公が楽して強くなるのがどうしても許せないんです。その反動なのかもしれませんね笑