模擬演習場到着
俺たち四人は、二次試験が行われる模擬演習場に足を踏み入れる。
「ここが、模擬演習場…………………」
そこは、まるで遥か大昔に人々を沸かせていたローマのコロッセオのような場所だった。
ぐるりと観客席が辺りを囲っており、そこにはもう既に多くの人たちが座っている。
そして、俺たち受験生は観客達からの視線の的となっており、会場の中央に集められる。
「よぉーし、全員揃ったようだな。」
模擬演習場の上空に、須防の姿が映し出される。実態がないフォログラムであり、少し透けている。
「俺は、ここからお前たちを審査しているから安心してくれ。ちゃんと、責務は果たすつもりだ。」
須防の姿をした巨大なフォログラムは、上空を漂うように移動し、観客席の中で一部分だけせり上がっている部分を指差す。
そこは、唯一ガラスのようなもので覆われており、その中には須防以外にも二人の人影が見える。
「では、さっそく二次試験を始めるとしよう。先程、くじ引きでの結果集計が終わった。」
ザワザワと辺りが騒がしくなる。俺は、どんなやつと戦うんだ………………?
「だが、その前に二次試験のルール説明といこう。」
須防、マイクをトントンと叩いて不快な音を出す。その音は、嫌な音でたちまち騒がしかった受験生たちは静かになる。
「一つ、二次試験は生身での試験ではなく、一次試験と同じように仮想現実で行うものとする。」
なるほど、タイマンとか言ってたから生身の体で戦うのかと思っていたな。
一次試験と同じと言うことは、痛覚は無しで瑠紫達とやったような感じだろう。
「二つ、一次試験と同じと言ったが、痛覚などは現実と同じ設定にする。」
再び、ザワザワと辺りが騒がしくなる。まぁ、そりゃそうだよな。
痛覚が現実と同じって事は、本当に人と戦闘をするって事なんだから。
「ゴホン! 三つ、模擬演習は赤線の内側で行う事。」
赤線と言われて、辺りを見回す。どうやら、俺たちがいる場所は赤線の外側らしく会場の中央に、直径50メートルほどの赤線で描かれた円がある事が分かった。
「そして、この赤線から身体全体をはみ出して地に足を着いた者、気絶した者を敗者とする。以上だ!」
つまり、ただの攻撃よりも相手を吹っ飛ばすほうが良さそうだな。
俺の今の実力だと、吹き飛ばすような事は出来なさそうだ。
「では、さっそく始めるとする。今から、試合を行う2名以外は指定された観客席に転送をする。そして、その二人の試合が終わり次第、次の二人を再び今いる場所に転送するので、心しておくように!」
急に、始めると須防が言い出したので辺りが騒がしくなる。
「神崎さんっ!」
「ミツレ!!」
不安になったのか、ミツレが俺に手を差し伸べる。そして、俺はその手を握ろうとするが、ミツレの手を握る事はできなかった。
そう、ミツレは転送されたのである。いや、ミツレだけではない。俺の周りにいた氷華や流風、そして他の受験生も次々に姿が消えて、観客席に転送される。
「くっ! まさか、初っ端から俺か………………?」
人が密集していたこの場所から、どんどん人が少なくなっていき、次第に視界から人が消えていく。
「さぁ、厳正なるくじ引きで決まった第一回戦の対戦相手が決まった!」
須防の甲高い声が響き渡り、俺はガランとした模擬演習場に残される。
いや、この言い方は間違っていた。俺の対戦相手と俺の二人のみだ。
「では、両者赤いリングの中に入ってくれたまえ! えーっと、名前は………………っ!?」
約50メートル以上先にいる対戦相手が、どのような人なのかよく見えない。
性別は男だという事が分かるのだが、顔までは判別できない。
一瞬声音がおかしかった須防の言う通りに、俺は円の中央に向かっていく。
そして、少しずつ対戦相手の顔が見えてきた。
「ブッヒャッヒャッヒャ! 僕ちんの儚い踏み台になる可哀想な下々の民は誰かと思えば、お前か!」
忘れることのできない腹の奥底の物が吐き出しそうになるほどの汚い声、スイカのように飛び出た醜い腹、そして、自分達一族以外の人の事をゴミのように見る男が、再び俺の目の前に現れた。
「っ………………!? どうして…………」
「僕ちんが眩しく過ぎて声も出ないか! まぁ、無理もないか! 三門 龍介様が貴様ら下々の民の前に現れたのだから!」
まるで、自分がこの世界で一番偉いかのように自信満々な表情をしている男。
そう、コイツは実の姉である杏先輩の遺品をぶち壊し、更にはまるで死んでくれて嬉しいかのような発言をした四頂家の一族の一人、三門龍介だ。
いやー、やっぱりクズキャラってどう表現して良いか分かりませんね。
個人的に、自分が腹立つ要素を全部ぶち込むイメージでやってるのですけど、イライラしましたでしょうか?