一次試験の余韻に浸る
「じゃ、二次試験の説明をするぞー」
壇上に上がった須防は、マイクを片手に俺たちを見渡す。
「ま、二時試験って言ってもこれが最後の試験だ。」
壇上から、須防は俺たち受験生の人数を数えている。本当に200人なのかを確認しているかのようだ。
「試験内容は、受験者同士のタイマンだ。」
タイマンという須防が発した言葉で辺りがざわめく。
だが、無理もない。俺たちはあくまで神殺しの術を学ぼうと志願しているのだ。人と戦う必要は無いはずだ。
「おーい、おいおい。落ち着いてくれぃ。」
須防はマイクをトントンと叩き、不快な甲高い音を会場に響かせる。
その音で、受験生達は再び静かになる。
「お前らが言いたい事は十分に分かるぞ。人と喧嘩するために来たわけじゃないもんな。」
うんうんと、首を上下に振りながら須防は壇上の上をクルクルと歩く。
「だが、隊員同士で覇を競い合う階級別戦もある訳だし、人と戦う事も身につけて置いた方が良いんだよなぁ。」
なるほど、須防の言いたいことも少しは分かる。階級別戦と言うのは、いわゆる瑠紫達と行ったような模擬戦のようなもののことだろう。
「ま、それは建前で、本音は選別がめんどくさいからタイマンで戦わせて、勝った方を合格させるというシンプルなものなのはここだけの話な!」
まるで、イタズラを成功させた子供のような笑みを浮かべたピエロは俺たちを見渡す。
勝った方を合格させるか………………シンプルかつ、合理的な方法だな。
「よーし、説明は以上だ。対戦相手は試験官側で厳正にくじ引きで決めるから、不正はしないとここに誓おう。」
対戦相手はくじ引きで決まるのか。実力がほぼ同じ人同士で当たるかと思っていたが、これは予想外だな。
つまり、一次試験で最下位だった俺が一位の奴と当たる可能性もゼロでは無いと言うことだ。
「では、くじ引きが終わるまで15分ほど休憩としよう。各自、5分前には5階にある模擬演習場の方に行ってくれ。では、解散っ!!」
そう言うと、須防は煙玉のような物を地面に投げつけて視界を曇らせたかと思うと、俺たちの前から姿を消した。
「不思議な方ですね…………… 見た目といい………………」
「そうだな………………」
須防の煙玉が完全に消えたのと同時に、一次試験を突破した生徒達は席を立ち上がり、各々姿を蜘蛛の子のように散らす。
「じゃ、俺たちはどうする?」
これからどうしようか。15分休憩とは言っても微々たるものだ。
「少し早いですが、5階の模擬演習場に行っておきましょうか。」
「うん、それが良いかもな。」
「流風も賛成。」
「私も、それが良いと思うよ〜。」
そして、俺たちはパイプ椅子から立ち上がって一次試験の会場を後にする。
とりあえず、この坂田から貰った神高の地図を落ち着いて見るために、一旦外に出るつもりだ。
「お、いたいた。お前ら、こっちだ。」
外に出ようとしていたところを、坂田から呼び止められる。
「あ! 坂田さん!」
俺たち四人は、坂田の方に小走りで駆け寄る。
「お前らが一次試験を突破した事は、そこの電光掲示板と試験映像で確認してある。」
坂田が、指差した先には大きな電光掲示板がある。柱に食い込んでおり、存在感がある。
電光掲示板には、一次試験の合格者の名前が順位が高い順に表示されている。
「うげー、順位であんなにデカデカと掲示するなんてひでぇや。」
「神崎さんは、ドベですもんね。」
ミツレがニヤニヤとしながら、俺の肩に手を置く。
「ま、今は一次試験を突破した事がめでたい。ミツレ、氷華、流風、そして悠真」
坂田はそう言うと、ミツレ、氷華、流風、俺の順番で頭をワシャワシャと掻き乱す。
「おめでとう。お前らなら、二次試験も楽勝だ。」
そう言う坂田の表情は、朗らかな日曜日のように暖かく、心から祝福してくれているということがよく分かった。
「そういえば、先輩達はどこにいるんですか?」
坂田を含めて5人で雑談しながら、次の二次試験の会場に向かっているときに聞いてみる。
「アイツらか? あの四人は、九州地方の瓦礫撤去などの復興作業を行っているぞ。」
「九州地方………………!」
少し前にエキドナやカグツチなどと激しい戦いが繰り広げられた場所だ。
エキドナは人間を殺す事は目標にしてはいなかったが、その他の神民や神は先輩達を殺したのだ。
だから、九州地方にはあまり行って欲しくはないのだが……………………
「悠真、そんな怖い顔するな。前回の反省を踏まえて九州地方復興作業では、神対策局の局員が数名一緒に作業しているから、もしもの事があっても大丈夫だ。」
「そうですか! 良かったぁ、もう失いたくはないんです。」
「悠真……………」
神対策局の局員という事は、プロの神殺しの人たちだ。その人達がいるなら、もし神が攻めてきても大丈夫だろう。
「それに、ドクさんも今日の九州地方復興作業に参加している。ほら、大丈夫だろう?」
坂田は、あえてドクさんの名前を出す事で俺を安心させたのだろう。
「そうですね! ドクさんがいるなら安心です。」
「神崎さんに坂田さん! 何してるんですか〜? こっちですよ!」
俺と坂田二人より二次試験の会場に着いた3人が、こちらに手を振っている。
「おっと、長話が過ぎたようだ。さぁ、行ってこい。そして合格してこい!」
坂田は俺の背中をバンっと叩き、タバコに火を付ける。
「はいっ! あれ? 坂田さんは一緒に行かないんですか?」
「バーカ、俺は上の観客席で観てるよ。さぁ、俺のことなんてどうでも良いから行った行った。」
シッシッと坂田はタバコをふかしながら、手を振る。
「はいっ! 行ってきます!」
「……………………あぁ。」
俺は、坂田の方を見ていた視線をミツレ達3人に移す。
その瞬間、ほんの一瞬だけ坂田の表情が曇っていたのを俺は見逃さなかった。
俺は、もう一度坂田の方を見たが、その時には坂田の背中しか見えなかったのだ。
「神崎さーん? どうされましたか?」
「悠真くーん! もう少しで始まるよ〜」
「神崎悠真、急げ。」
坂田を呼び止めようとしたが、3人の声でその動きが止められる。
「いや! なんでもねぇ! 今から行く!」
そして、俺は今度こそ坂田から3人に視線を移す。小走りで俺は3人の元に向かう。
いよいよ、合否を決する二次試験だ。絶対に合格してやるぜ!
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