溢れた思い
「私と契約してくださいませんか? 私も、あなたと同じように神がとても憎いです。一緒に神と闘いませんか?」
そう言うとキュウビは、俺の前で頭を下げた。会ったばかりのやつに頭を下げるほど、この子は神が憎くて憎くてしょうがないのだろう。
だが、俺はキュウビの願いには答えられない。だって、俺は大切な人やペットを守れなかったんだ。
そんな俺が人を神達から守れるはずがない。俺の復讐は、誰にも迷惑がかからないように一人でやるんだ。
「どうですか? 私と契約してくれますか?」
キュウビは、頭を上げて綺麗な眼で俺を見つめる。
「ごめん、 俺には人を守るなんて事は出来ない。沢山の人が俺の前で死んだのに何もできなかった……………」
キュウビは、俺の手をギュッと握る。俺は驚き、キュウビの顔を見る。キュウビは、少し困ったような顔をしている。
「似ていますね……………」
少しだけ、悲しそうな表情でキュウビは俺を見つめる。
「え?」
「あなたは、昔の私と似ています。あなたの眼からは、憎悪、憎しみ、怒りそして、悲しみ。そんな感情が溢れています。」
コイツに何が分かるんだ!? 俺は、大切な人を目の前で殺されたのに何もできなかったんだ!
「そんな事は無い! 俺は! 俺は………………!」
キュウビを頭ごなしに罵倒しようとしたが、俺の口からは何も出ない。
身体が震えて俺を哀れんだのか、キュウビは俺をギュッと抱きしめる。抵抗しようと、腕を振り払おうとするが、徐々に俺の身体は、キュウビの温かい体温に包容される。
「あなたが、責任を感じる事はありません。あなたは、何も悪くないです。自分に素直になってください。」
俺は、その言葉で体の奥から何かがこみ上げてきた。この感じはなんだ? とても暖かく、安心できるこの感じは………………
その時、体の奥から込み上げてきた何かは大きく破裂した。
「俺は、大切な人が目の前でいなくなるのが嫌なんだ! キュウビと契約したら、また俺の前から大切な人が奪われてしまう…………………そんな事はもう嫌なんだ!!」
俺は、涙が止まらなかった。会ったばかりの女の前で泣くのは、男としては恥じるべき行為なのかもしれない。
だが、今の俺にはそんな事はどうでも良かった。俺は、キュウビの胸の中で赤子のように泣きじゃくる。
「泣かないでください。全部、神が悪いんです。それに、私はあなたの前から絶対に消えませんよ? ずっと、あなたの隣にいます。 絶対に………………」
キュウビは、再びギュッと抱きしめる。泣きじゃくる俺をなだめるキュウビの手は、ほんの少し震えていた。
どれくらい泣いたのだろうか、いつの間にか寝落ちしており、目が醒めると俺の身体は横になっていた。
しかし、頭が何か柔らかい物にのっている。俺は不思議に思い、体制を変えて正面を向いてみる。
そこには、長い銀髪の少女がいた。
「うわあ!?」
俺は、とっさにキュウビの膝から落ちる。
「やっと、起きましたか? もう大丈夫ですか?」
俺は、嫌な予感がしたのでキュウビに質問をしてみることにした。
「俺、どれぐらい泣いてた? あと、どれぐらい寝てた?」
「30分は泣いてましたよ。あと、1時間ぐらい私の膝の上で寝てました。」
キュウビがそう言った瞬間、俺の頬は一気に赤く染まり上がる。
「1時間!? そんなに寝てたのかよ!?」
「はい。寝てましたね。寝顔もバッチリ拝見させてもらいました」
そして、追い討ちをかけてきたキュウビの言葉で、もっと頬が赤くなる。
「頼むから、泣いてた事は黙っててくれ………………」
すると、キュウビは立ち上がり、衣服についた土埃を払う。
「はい、考えておきます」
「お前絶対に言うだろ!? 顔が少し笑ってるぞ!」
「い、いえ! 誰にも言いませんよ……………」
そう言うキュウビだが、そっぽを向いており、さらには肩が少し震えている。
「おいいい! 絶対に笑ってるだろ!」
コ、コイツ! 絶対に笑ってやがる!
「プッ! アッハッハッハ!」
キュウビは、クルリと体をこちらに向け、口を大きく開けて笑う。
堅苦しかった今までの彼女からは、想像出来ない満面の笑顔だった。キュウビの笑顔に俺は、少しドキッとした。
「わ、笑ってるじゃん!」
「だって……………さっきまであんなに悲しそうな顔をしてたのに、もうこんなに元気になっていて……………アハハハハハハ!!」
もしかしたら、キュウビなりの気遣いだったのかもしれないな。落ち込んでた俺を励ますために、わざとオーバーに笑っているのかもしれない。
でも、その笑顔が今の俺にはとても効くな…………………
「笑いすぎだろ! でも、ありがとな。なんかキュウビのおかげで吹っ切れたよ。」
キュウビは、自分の長い九本の尻尾で涙を拭く。
「いえいえ、私はあなたなら立ち直れるって信じてましたから。」
いいや、キュウビは間違っている。俺は、キュウビがいなかったら立ち直る事は出来なかっただろう。
もし、あの場にキュウビが来なかったら俺は死んでたし、助かったとしても絶望に支配された俺は、神に対して悪い復讐の仕方をしていただろうな。
「そっかな……………」
「さ! 避難所がある山口県まで行きますよ! 多分、空を飛べる妖獣が辺りにいるはずです。あ! いましたよ! おーい!」
キュウビが手を振る先の遥か上空には、大きなドラゴンがいた。ドラゴンは、俺たちに気づくと急降下をする。
「マジモンのドラゴンだ…………」
RPGでしか見たことがない赤色のドラゴンが、俺たちの目の前に降りてくる。ギロリとした凶暴そうな眼、全てを引き裂きそうな鋭い爪と、大地を踏み締める脚はまさにゲームの中にいるドラゴンそのものだ。
「誰かと思えばキュウビか! 今まで、10人ぐらいは救助したな! でも、この見た目だからよお…………怖がられて大変だぜ……………」
見た目が怖い割には、優しそうな声をした赤色のドラゴンはゆっくりと着陸する。その大きさは、15メートルはありそうだ。
「バハムートでしたか。山口県まで良いですか? 私は空は飛べないんで…………」
どうやら、キュウビは空を飛ぶ事は出来ないらしい。まぁ、翼が無いと飛ぶ事は出来ないよな。
「おお! 良いぞ! 乗った乗った!」
バハムートと言われたドラゴンは、威勢の良い声をあげる。そして、バハムートは俺の方をギョロリと見る。いくら、味方のドラゴンとは言えど、その眼で見られたら少しだけ身体が慄いてしまう。
「大丈夫だったか? 身体中ボロボロじゃないか!早く行くぞ! 兄弟!」
兄弟? まぁ、よく分からんが良いやつそうだ。
「きょ、兄弟? よく分からんが頼む!」
俺は、バハムートの背中にまたがる。ゴツゴツとした背中には、鱗があるが意外に乗っても痛くない。強いて言うなら、鱗は硬いのでケツに食い込んで少し痛い。
「全速力で飛ばすぞ! しっかり捕まれよ!」
大きく翼を羽ばたかせて、バハムートが宙に浮く。す、すごい! 本当に空を飛んでいる!
「ええ、よろしくお願いします」
「行くぞ〜!」
バハムートは、目的の山口県に向かって飛び出す。それにしても、めちゃくちゃ速い。新幹線ぐらいあるんじゃないか?
「あわわわわわわわ!! 速い!ヤバい! 落ちる!」
俺が、慌ててふためいていると、俺の前に座っているキュウビが後ろを振り向く。
「しっかり! 私の腰辺りに掴まってください!」
「あ、ああ!」
プニュプニュとした何かを俺は掴んでしまった。柔らかいな………… しかし、少し膨らみが小さい。
何か視線を感じたので、俺は前を向く。向いた先には、顔を真っ赤に赤面させたキュウビがいた。
どうやら、俺はキュウビの胸を両手でがっしりと掴んでしまったようだ。
「 これは、わざとではなくて、掴まってって言われたからその……………!」
「言い訳は聞きません! 破廉恥!」
容赦なくキュウビの平手打ちが、俺の頬を直撃する。その衝撃で、俺は体勢を大きく崩す。
「ヤバい! 落ちるぅぅ! うわああああ!!」
俺は、遥か上空から落ちた。落馬ならぬ、竜落である。
「あ! 神崎さん! ゴメンなさい!」
「ゴメンなさいの前に助けてくれぇ! うわああああ!!」
一瞬にして、キュウビの声が聞こえなくなった。ヤバイ! このままだと死ぬ!
「バハムート! 神崎さんが落ちました! 助けてあげてください!」
「助けてあげてって……………お前が突き落としたみたいなモンだろ!? ったく………… しゃーねーな!」
さっきまでゴマ粒ぐらいの大きさでしか見えなかったバハムートは、体勢をほぼ垂直にして俺の方に急降下する。
「助けてくれぇ!!!」
「神崎さんの声です!」
横10メートルほどのとこにいるバハムートと俺の目が合う。
「そこか! 待ってろ!」
バハムートは、体勢を今度は横向きに変えて、俺の方に飛行する。
「神崎さん! こっちです! 私の手を!」
そして、キュウビの差し出した手に掴まる。なんとか助かった………………
「し、死ぬかと思った………」
まだ、心臓がバクバクとしている。今日だけで、何回走馬灯を見たんだ?
「ったく、女子の胸を触るからです! もう触ったりしたらいけませんよ!」
も、もう触れないだと!? それだと、俺は一生童貞のままじゃないか!
「もう、一生触れないのか!?」
「また、突き落としますよ?」
キュウビの目が、ゴミを見るような目で怖かったので、これ以上は言わないでおこう。
空の旅はもう少し続きそうだ……………
下手クソです!
アドバイスお願いします!