【第一幕 一場】 開演_口上
※悪役令嬢の婚約破棄テンプレ前提です!
※アンチ「ざまぁ」です!
※固有名詞が出ないのは仕様です!
(あ、タイトルは悪役令嬢の名前ではないです、念のため)
「そなたとの婚約は破棄させてもらうっ!」
宣誓にして先制。
いきなりな発言に周囲はどよめいた。
王国、王都、王立の学びの園。
身分平等な校風を謳いつつ、しかし在籍するのは貴族の子女ばかり。
そんな学園で、卒業が見込まれる学生を慶ぶ宴が、当夜は催されていた。
のちの晩餐会、舞踏会の予行でもある。
そのため普段の制服は脱ぎさって、本物の社交界の夜会さながらの正装を身にまとう、若き紳士淑女が群れていた。
豪華に飾り付けられた会場の、その中央が舞台となって――
茶番劇は幕を開ける。
「……いったい、なんですの? 突然に」
先手に返す言葉。
小首を傾げ、優美に扇を広げて、口許を隠す素振り。
そこに動揺は――ない。
ないはずだ。
さて。
では、ここで衆目を集めている道化、もとい役者の紹介をしよう。
「そなたには身に覚えがあるはずだっ!」
「あら、分かりかねますわ」
「ほう。心当たりがない、と?」
ひとりめ。先の科白で注目を集めた主演男優。
汝驚くことなかれ。
なんと我が王国の王太子なのだ。
正妃から生まれた第一王子。
両親の造作の美しい部分のみを奇跡的に調和させた、非の打ち所がないご尊顔と巷では評判だ。
裏を返せば中身については……残念としか評しようがない。
いっそ本当に役者になれば、相応の人気を博するのではないか?
「ええ。わたくしには見当もつきませんことよ?」
ふたりめ。巻き込まれた主演女優。
一方的に婚約破棄を告げられた公爵令嬢。
冷酷に見えるほど怜悧な美貌……なんて第一印象をいだかれやすい。近しい者ほど笑って否定するのだが。
憚りながら王太子の婚約者である。
おそらく信じられまいが、前世の記憶を持っている。しかも別の世界の、だ。
その知識によれば、この世界は創られた物語と、うり二つ。
この茶番でさえ既定の流れ。
割り振られた役柄は――『悪役令嬢』。
無論、舞台に上がった役者はまだまだいる。
「恥を知りなさい」
「とぼけてんじゃねえ!」
「白を切るのはやめてよね、姉上」
三人めから五人め。ひとまとめにして差し支えない助演男優。
王太子の幼馴染にして側仕えだ。
それぞれに整った見目で人気があった。以前の話だが。
まずは司法院の宰相である伯爵の子息――堅物。
次に近衛騎士団の団長である侯爵の子息――脳筋。
そして国務院の宰相である公爵の子息――軽薄。
いずれも主だった高官、かつ上級貴族家の嫡男である。
我が王国の未来を担う――“はずだった”若者たちと称するのが妥当か。
前途を嘱望されていた彼らの、この体たらく。
それぞれの家長も、さぞや嘆いていることだろう。
もし勘当するような事態に発展したとしても、痛手は浅いに違いない。
「み、皆さん、やめてください……私が悪いんですぅ」
そして最後。
わざとらしく怯えた仕草、あからさまに作った口調。
そんなに露骨で大丈夫かと心配したくなる彼女は、助演女優。
可憐な容姿は、まるで小動物のような風情をかもし出している。
特筆すべきは学園の制服を着ている点か。
この場に相応しい礼装を用意できるほどの経済力、あるいは人脈を持たない、つまりは平民である。
学園が平等を謳っている手前、有用な平民を取り立てる義務が生じる。
そこで白羽の矢が立った気の毒な少女だ。
かくして役者は揃い踏み。
演目は差し詰め――『悪役令嬢の逆襲 序幕 道化どもの跳梁』といったところか。
私はため息をついた。こっそりと。
始末の見え透いた茶番といえど、気を抜くことは許されない。
ここから先は臨機に応じなければならない。
己を敵対視している相手に合わせて――。
初手、テンプレ。
あと二話分、同時更新します。