O:CARAT《オー・カラット》事変 貴方に出会うものは碌でもない
dimは街を物色していた、すると何やら喧しい集団の垣根があった。ひょいと跳び越えて行けそうだけれどdimはそれをしない、何か予感がしたから。悪い予感は度々当たるのだ、得てして危機察知というやつに優れているdimである。だからこそ、今O-ctなんて街で学生なんて身分に修まっているのかも知れない。
隙間から見えたのは、大きな―植物の分厚い図鑑にしか載っていなかった“アウグシカ”だ―赤い花の鉢植えのプランターだけ。血が騒ぐのか怒声を響かせる集団だった、何れ自警団なりが取り押さえに掛かるだろうけれど。物騒なのでスススと通りを避けた、細い裏通りは小柄なdimには丁度良いくらい。こどもの身分ではそれなりに身長の高い方だが。
「よう小僧、手前ここが誰の支配域か知ってるか?」嘲るように仁王立つ大男が道幅ギリギリの体躯を見せ付けるように厳つい顔を近づけた。要は金払え、それが無くとも身包み剥いだって良いんだぜ?と恫喝しているようだった。
「へえー…。その程度で」―御前みたいな分際で何言ってるの?―と男には聴こえた。地に引っ繰り返り目を白黒させた大男を雑巾代わりにして、靴の汚れを拭っている小柄な少年ことdim。この通り一帯を取り仕切る件の大男は、まあそれなりに身形が良かった―あくまでも仕立てがであって顔つきは寧ろ残念無残だとだけ記しておく―趣味の悪い着合わせに顔を顰めながら土を粗方取り終わる。
「ちぇっ、賞金首でもなければ、犯罪集団でもない」金に為らないなら…せないね、小父さん。笑い返すdimに男は震えが走った、鈍い勘が告げている。この餓鬼は殺すことに違和感が無いと、戦慄するその意識を刈り取ったのは果たして誰だろう。
失神したらしい大男に興味をなくしたdimは何事も無く、道を歩いていく。
光が差し込まない裏通り―肉弾戦だけなら右に出るものがいないと謳われた、大男が無名の敗北を喫した。暫らく通りには束の間の平穏が訪れたとか、訪れていないとか。そして、この事実を知りえた者は少ない、大抵は口を閉ざした。だって大男が恐ろしいもの。けれど、そうじゃない人間と言うのは色々いる、dimの挙げた奴らとか。それ以外の何者だとか―。物語は仕舞が見えない。
そして、何もこの場にいた(目撃した)だけでない者だって。ほら、あの笑っている…。