五日目
電車に揺られている。
男は窓際の席で目を閉じていた。
――――雨の降りしきる日だった。
気づいたら椅子に座らされていた。
時計の音がカチコチと鳴っている。外では雨が煩く降りしきっている。
………手も足も動いている。
キシキシ鳴り響く椅子の上から不思議そうに、その手足を見つめている。
………あれ?
………だって……
そこで男は目を開いた。
目の前を港の風景が通り過ぎていく。
「―――……まもなくアリウス、アリウス…終点です」
他の客が立ち上がると同じくして男も立ち上がった。
「私としたことが…昔の夢を見過ぎました…」
その表情は少しばかり青ざめていたようにも見えた。
男はアリウスの駅を出ると勝手知ったる場所を歩くように、スイスイと路地裏へ入っていった。
アリウス―――
アリウス帝国はティニスと違い、軍事的役割を果たしている側面がある故か、町の外壁が要塞のようになっている。
それもあってか、町は普段からピリピリした雰囲気が漂っていた。
町の中心街から外れた路地裏へ入っていった男は
とある一件の古びた家――
何やら男が店を構える小屋に似ている家だが――
その古びた扉に声をかける。
「――……失礼します、レグルス殿はいますか?」
何回かノックした後、錆びた音を立てて扉が開く。
中から顔を覗かせたのは、白髪混じりの髪と真っ白い髭が特徴的な老人。
暫く男を見ていたが、老人はやっと気付いたように鼻までずり下がっていた眼鏡をかけなおし、笑みを浮かべる。
「………おお、君か。そろそろかと思っていたよ」
「お久しぶりです。ご無沙汰しておりました」
取り敢えず中へ、とレグルスと呼ばれた老人に促されて男は入っていった。
「身体の調子はどうかね?」
室内にある椅子に腰掛けた男にレグルスが問いかける。
「七色石を摂取して身体はなんとか保っておりますが――――」
七色石と言うのは、男がお代として受け取っていた虹色の石のことであり、この男に取ってはなくてはならない物になっている。
「―――その顔は何かあったな?」
「…………はい。なんと言いますか……"ブレる"のです」
男はそう言うと、普段は誰にも見せないローブの下の―――自身の腕をレグルスに見せた。
その腕ははっきりとした肌色………つまり―――
「やはり人形の身では普通の人間のようには行きませぬな……」
自身を人形と称した男は寂しげに笑っていた。
その腕に触れたレグルスは呆れたような表情を浮かべる。
「無理をするところは昔から変わらないな…お前は」
その子供を見るような視線に、男は照れたように笑っていた。