四日目
男は扉をゆっくり閉めた。
今日、男はカウンターに座っていなかった。
カウンター奥にある自室で何やら袋に荷物を詰めている。
「早めに行かないと、あの方は拗ねてしまいますからね……」
男は困ったように笑う。
これから男が向かおうとしている場所は、電車を乗り継いだ場所にある大きな町である。 袋の口を閉め、いつもは適当に着ているローブの前部分にあるボタンを閉める。
「さて……行きましょうか」
男は扉をゆっくり閉めた。
日頃森の小屋から出ない男に取って、町は慣れない場所である。
駅のある町は、森から徒歩で30分程ある。
男は半分歩いた辺りで休むことにした。
荒野の中央には、滅んだ町の廃墟がある。
「シェリフの影響…でしょうね」
小さく呟く表情は変わっていないが、その声音は憂いを含んだものに見える。
男は虹色の石をまたも、見慣れた袋から取り出して一つ飲み込む。
「……水よりもこれがないと…まずいですからね」
そう言いながら、休息を取った男はゆっくり立ち上がった。
駅までは後少し。
そう言い聞かせながら歩き始めた。
男がタオルで汗を拭い、顔を上げた。
久々にやってきた、見慣れた町―――ティニス。
ティニスの町は東西南北全ての町に繋がる電車が出ている、交通の機転とも言われる場所である。
男は切符を買い、ホームに向かった。
手にした切符には「アリウス行き」と書いている。
「アリウスも久しぶりですね……。お元気でしょうか」
懐かしそうに呟く男の視線は、アリウス行きの看板を直視している。
アリウス―――
正式名称はアリウス帝国。
「シェリフの惨劇」があったシェリフ村を支配下に置く大帝国で、世界の三大帝国の一つである。
―――男はゆっくり顔を上げ、他の客に紛れるようにしながら電車に乗っていった。