三日目
「こんにちは、ご主人!」
とある昼下がり。うとうととしていた男がやや驚いた様子で頬杖を止めて顔を上げた。
玄関に立つのは、金髪の美しいショートカットが印象的な女性。その表情からは非常に元気な印象が伺える。
「あら、お昼寝中でしたか?」
「いえ。つい暖かい日射しが気持ち良くてうとうとしてしまいました。」
大丈夫ですよ、と言って男は苦笑したように口端をあげた。
「それで?今日はどのような御用でしょうか。―リュカさん」
この前魂を入れた子はまだ健在ですよね。
男はリュカと呼ばれた女性に首を傾げて問いかける。
リュカはカウンターにやってくるなり、いきなり用件を切り出した。
「実は、また魂を入れて欲しいのだけど、お願い出来るかしら?」
男はまた驚いた表情をした。
「また……ですか?」
「ええ!」
男は不安を感じた。
以前話をしたが、魂の分だけ記憶が消えるリスクがある。――彼女も知っている筈なのだが――
「リスクがあるのは分かっているわ…でも、あの人を……」
リュカはカウンターから身を乗り出して男に訴えかけた。
「前に魂を入れて貰った時、一緒に来た男分かるわよね?」
「………あぁ、あの…」
貴女の婚約者ですね、と言いかけたが、男はその言葉を言うことを止めた。
以前リュカが婚約者と共に魂を入れに来たのは、生まれてくる筈であった二人の子供を、一時だけでも共に過ごしたいとの願いからであった。
「お子さんは今も?」
「ええ。…お人形に入れて良かったわ」
本当の子供みたいなの、と嬉しそうに笑みを浮かべるも、それは直後に寂しげに変わる。
「………その後にあの人が戦で徴兵されたわ」
この時代、全世界では至る場所で戦が繰り返され、一般人から徴兵する地域も現れている。
――故に仕事が増える訳なのだが。
「では今回は旦那様を?」
リュカは暗い表情のまま頷いた。涙も枯れ果てたと言ったような様子である。
「今回は記憶がありますから、お子さんの時の特殊な方法でなく、普通の記憶で行きますね」
「宜しくお願い致します」
リュカの返事を確認すると男は、またコアをリュカの手に握らせた。
因みに以前魂を入れた時は、リュカの子が生まれることが出来なかった水子故に記憶をリセットし、普通の子供が生まれる時と同じ仕様にしている。
男はコアを握ったリュカの手に触れる。
光はまた凝縮していき、直ぐ様慣れたように、持ってきた人形にコアを入れる。
「………完了しましたよ、リュカさん」
「……ありがとう。流石はご主人ね。」
顔を上げたリュカは辛そうながらも笑みを浮かべていた。
カウンターに袋をどさりと置く。
「これお代。……感謝するわ」
リュカは人形を抱えたまま玄関に向かって歩き始め、扉を開けて外に体を滑らせる。
扉を閉める寸前に一礼して去っていった。
「………皆様は一時の喜びを、私は命を繋ぐ石を…。正に取引ですね」
男はそう言いながら虹色の石を口に含んで笑った。