三者三様事始
今回は外伝的立ち位置のお話になります。
三者三様事始
1
お使いって一口に言っても、出発地から目的地までの『お使いレベル』の距離には限度ってものがあるわよね。なんだってこんなオウカの外れの、そのまた外れの、ほぼラシナ国境沿いとまで言える程の辺境の地に、わざわざこのあたしが、たかが紙切れ一枚届けなきゃならないっていうのよ。荷物配達専門をウリにしてる組織があるんだから、その人たちに頼めばいいのにさ。
これはすでに『お使い』を通り越して『配達』ってレベルだわ。
まぁ……大事な文書だからって言うのは分かるよ。町の地主さんに確実に届けなきゃならない、冒険者組合の新規支部所設営の嘆願書だから。それに二つ返事で引き受けたのはあたしだし。
あたしはちょっと安請け合いし過ぎたかなーなんて、自分の安直さに文句を言いつつ、街道をてくてく歩いていた。嫌ではないんだけど……めんどくさい。
街道に沿うように植えられた木々には、春を告げる花の蕾がそりゃもう、こぼれそうなくらいたくさん芽吹いている。春の訪れが遅いラシナが、一年で一番綺麗に輝く季節はもうすぐね。
あたしはファニィ・ラドラム。物流の橋渡しで栄えたオウカの国で、ちょうど中心の町ある、冒険者組合の補佐官見習い。総元締めであるトールギー・ドルソーはあたしの実父の親友であり、あたしの養父でもある。
今年十五歳になったあたしも、いつまでもタダ飯食らいの子供でいる訳にはいかないって思って、養父の運営する冒険者組合で働く事にしたの。
冒険者組合っていうのは、冒険者とか何でも屋とか言われる、とにかく報酬をもらってどんな仕事でも請け負いますっていうシステムのアレ。そこで元締めの手伝いをしつつ、冒険者としてもやってこうかなーと、去年から勉強と実習を始めたばかり。
でもなんだかあたし、この仕事が向いてたみたい。自然と体も頭も思い通りに動くんだもの。元締めの娘であり、主に事務作業をこなしているせいか、まだ見習いとはいえ、補佐官なんてお偉そうな肩書きももらっちゃった。
よーし、これからも頑張るぞー!
他の熟練者とチームを組んでとか、そういうのはまだ無理だからと、やっと単独でできる初めての仕事をもらったんだけど、それがこの新規支部所設営嘆願書をオウカとラシナの国境沿いの町を治めてる地主さんに届けるという、非常に単純かつ、つまんないもの。
そりゃあ……いきなり盗賊の捕縛をしろとか、魔物を退治しろとか、そういう危険な仕事を望んでた訳じゃないけどさ。でもこう、もうちょっと刺激がほしいというか何というか。
うー、ダメダメ! こういう小さい事からコツコツ経験を積み重ねる事が大切なのよね! あたしの冒険者としての経験値はまだゼロだもの!
あたしは自分に言い聞かせて、書類の入った鞄をしっかりと担ぎ直した。
オウカの町を出てから三日、街道を歩き続け、あたしはようやく目的の町である『グムルフ』というところに着いた。発音のしにくい名前の町だけど、北方のラシナでは標準的な発音域らしい。
ラシナというのは、透き通るような真っ白い肌と、ナイフみたいにとんがった長い耳が特徴の人種が多くいる国。日照時間が他の国より短いから、肌や髪の色の色素が全体的に薄いらしい。組合にもラシナ出身者はいるけど、結構美形が多い。そういうのも民族的な特徴なのかしら?
町に入って、メモを見ながら目的の住所を探す。とりあえずメインストリートの方まで出てきたんだけど、ラシナの文字ってちょっと特殊で、あたしはあんまりきっちりとは読めないんだよね。発音も特殊だし、形も標準文字をフニャッと崩したみたいだし、もっと外国人にも親切な作りにならなかったのかしらね?
なんとかたどたどしくも、ラシナ文字の看板を辿りつつ地主さんの家を探して歩いていると、あたしは何かに躓いて転んだ。あたしの足が引っ掛けたものが、キーだかキャーだか、悲鳴染みた声を上げる。
看板辿って、上向いてキョロキョロしながら歩いてたあたしの、完全な足元不注意。
「ごめんごめん。大丈夫?」
ぷにゅっとした感触だったから、小さい子供か野良犬か。とりあえず謝るあたし。
立ち上がりながらお尻の砂を叩いて落としていると、あたしが躓いたのは物凄く小柄でほっそりした子供だった。
持っていた荷物をぶちまけたのか、辺りにお菓子やら文房具やら本やらよく分からないものやらが散乱している。
「よそ見してて蹴飛ばしちゃったけど、怪我とかしてない?」
あたしはその子の荷物を拾い集めながら声を掛ける。その子は両手で顔を覆ってヒックヒックとしゃくりあげていた。
体型が小柄というより、小さすぎて発育不良気味というか、もうとにかく小さいから年齢不詳! だからって訳じゃないかもだけど、すっごい泣き虫なのかも。転んだくらいで泣かれても困るわ。
「ホントごめんねー。もう泣かないで。お姉ちゃん謝るから」
一生懸命なだめていると、その子は目元をぐしぐしと擦りながらゆっくり顔を上げた。
うっわぁ……めちゃくちゃ可愛い!
雪みたいに真っ白い肌と、細くてサラサラの蜂蜜色の髪。透き通った淡いブルーの瞳は宝石みたいに丸くて大きくて、ピンク色に染まった頬は柔らかそうで、思わずプニプニ突っつきたくなっちゃう。幼児ってくらいの年頃だから俯いてる時は気付かなかったけど、髪の隙間からナイフみたいに尖った耳の先が見える。ラシナの子なのかぁ。
ラシナってやっぱり美形が多いんだね。こんな小っちゃな子でも、凄く整った顔立ちなんだもの。うーん、このお人形みたいな子、持って帰って部屋に飾っておきたい! ……なんてね。
「落としたものはこれで全部かな? ホントごめんね」
あたしが彼女の荷物を差し出すと、彼女は両手を口元に当てたまま、ボソボソと何かを呟く。あたしが訝しげに首を傾げると、彼女はちょっとだけ声を大きく張り上げた。でもまだ蚊の鳴くような小さな細い声で、周りの雑踏に揉み消されちゃう。
「……あ……の……こちらこ、そ……ってしま……ごめ……なさい……」
「あなたもゴメンナサイなの? じゃあお互い様だね。でもこれからはもっと周りよく見て歩くようにするね。あなたも小っちゃいんだから、周りの大人に踏まれちゃわないように気を付けてね」
彼女はあたしから受け取った荷物を大きな鞄の中へとぎゅっと押し込む。そして鞄を重そうに抱えて立ち上がった。
「重そうだけど大丈夫?」
彼女はコクコクと頷き、ペコリと頭を下げてあたしに背を向けて走って行ってしまった。あんな小さい子もお使いなのかな?
ちょっと気になったけど、あたしは彼女の姿が見えなくなるまで見送り、自分の用事へ戻る事にした。
2
無事に書類を地主さんに届けて、トールギーパパ……じゃない、元締めの意向を伝えるという任務完了。地主さんはここに冒険者組合の支部を作る事には乗り気で、あたしの話を真剣に聞いてくれた。そして前向きに検討して、改めてお返事を寄越してくれると約束してくれた。
うん! 初任務成功だね!
あたしは初めての仕事を無事に終えて、誇らしげにグムルフのメインストリートに戻ってきた。すぐ帰ろうかとも思ったんだけど、今から街道に向かったら、野宿なんて事になりそうなくらい、お日様が傾いていた。
そっか。ここはもうほとんどラシナの国みたいなものだもんね。ラシナは朝も遅いし、日が暮れるのも早い。なら安全に帰宅するためにも、この町で一泊した方が安全よね。レディーが一人で野宿なんて自慢にならないわ。
あたしはそう考えて、めぼしい宿を見つけてドアノブに手を掛けた。だけどドアはあたしが開けるより早く内側に開かれる。
「はにゃ?」
ドアの内側に立っていたのは、目を見張る程のすっごい美人。出るトコは出て、引っ込むとこは引っ込んでて、完璧にあたしは負けている。あ、いえ別に初対面の相手に向かって、プロポーションの勝負を挑むつもりも勝ち負けを決めるつもりもないんだけど。でもこんな完璧な美人を目の前にすると、やっぱ同性としてなんかちょっと悔しい……かな?
長い睫と宝石みたいな透き通った紫色の瞳。長い銀髪はサラサラで、それを背中に垂らしている。胸元を誇張するように大胆に襟の開いたドレスを着ていて、華美になり過ぎない程度のお化粧をしていて、こういう旅人が立ち寄るような町には不釣り合いな感じ。絵本で読むような舞踏会で踊ってるお姫様ってイメージが近いかも。そして今、気付いたけど、髪の隙間からナイフみたいな長い尖った耳が突き出ていた。この人もさっきの可愛らしい女の子と同じ、ラシナの民なんだわ。
やっぱりラシナの民って、見目麗しい美形が多いのかも。
「まぁ、大変ですわ。わたくしったら知らない方にドアをぶつけてしまいましたのね。大丈夫でしたの? お怪我はしていませんかしら?」
声も綺麗。しかも随分おっとりした上品な喋り方。やっぱりお嬢様?
「え? ああ……えっと。ドアが急に開いたからちょっとびっくりしたけど、でもぶつかってないから大丈夫ですよ。それにドア、内開きでしたし」
「わたくしったらコートの事を考えていると、いつも誰かにご迷惑をお掛けしてしまいますの。困りましたわね。あら、でもドアを誰かにぶつけた衝撃はありませんでしたわ。不思議ですわね」
あたしの話を聞いてなかったのかな?
「だからドアは内開きであたしはぶつかってないから大丈夫なんですけど……」
「あら? そういえばコートはどこへ行ってしまったんですの? あなた、コートを見かけませんでしたの?」
なんなの? 一息ごとに話題がコロコロ変わってなんだか付いていけない。
「……コートって誰? あたし、あなたとは初対面なんですけど」
あたしかちょっと怪訝な目で彼女を見ながら答えると、彼女は指先を唇に当てて小首を傾げた。美人は何をしても様になるわね。
「まぁ大変! わたくしどなたかと勘違いしておりましたわ。コート、どうしましょう? あら? コートがいませんわね。あなた、わたくしのコートをご存知ありませんこと?」
話題が変わったと思ったらまた元に戻る。
「だから、あたしはあなたと初対面……」
「コート、どこへ行ってしまったんですの? わたくしを置いて行ってしまうなんて酷いですわ。帰ってきたらメッですわよ」
……何、この人? 言ってる事が支離滅裂で、あたしと全く会話が噛み合ってない。そもそも会話する気、あるのかしら?
「コート、わたくしあなたに相談がありますのよ。わたくしったら、知らない方にドアをぶつけてしまって……」
「だからあたしはぶつかってないってば!」
またそこに戻るの!? ちょっと苛ついて、思わず声を荒げる。
「あらそうでしたの? ではコートはどこですの? コート、出ていらっしゃいな。わたくし一人で寂しいですわ」
あたしを無視して、ちょっと変な美人はあたしの脇を擦り抜けて外へ出て行ってしまった。一体なんだったの? ちょっと寝ぼけてるのか、頭が緩いのかもしれない。変な人だけど、放っておいて大丈夫なのかなぁ? お嬢様って事は世間知らずかもしれないでしょ? 他人事だけど何だか気になるわ。
あたしは軽い脱力感に見舞われつつも、宿の受付カウンターまで進む。カウンターの奥では別のお客さんと、備え付けの家具がどうのこうのとクレームを付けられている宿主のオジサマが一人でいた。
クレームを言っていたお客さんは不服そうにカウンターを離れて二階へと上がっていく。あたしはそれを見送って、宿主のオジサマに宿泊手配をしてもらえるよう伝えた。
「一泊で。あと明日の朝、モーニングコールもお願いします」
「はいはい、ありがとうございます。では宿帳に記名をお願いします。あ、代金は前金になりますので」
あたしは宿帳に丁寧に名前を書き、鞄からお財布を取り出した。
すると入口のドアがゆっくりと開き、大きな鞄がロビーに入ってきた。あ、いえ、鞄じゃなくて、大きな鞄に隠れるくらい小さい子供が一人。
「……あれ? さっきの子、だよね?」
大きな鞄を抱えてたのは、さっきあたしが蹴飛ばした物凄く可愛い女の子。彼女もあたしに気付いて、顔を真っ赤にして小さくペコリと頭を下げてきた。
うーん、やっぱりこの子、可愛いなぁ。仕種がいちいち可愛くて、本当にお人形さんみたい。
「あ、コートニスちゃん。おじさん、止める暇がなかったんだけど、ついさっきお姉さんが出てっちゃったんだ。大丈夫かな?」
宿主のオジサマが彼女に声を掛ける。すると彼女はいきなり狼狽しだして、慌ててドアを開けて外をキョロキョロと見渡す。
ん? コートニスちゃんって、この子の名前よね? コートニス……コート、ニス……お姉さん……ラシナの民……。
もしかしてさっきのちょっと変な美人、この子のお姉さん? それにしては随分年齢が離れてるみたいだけど……。
彼女は外に目的のお姉さんの姿を見つけられなかったのか、不安そうにオジサマの方を振り返る。
「コートニスちゃんを捜すみたいな事を言ってたようだけど、おじさん、他のお客さんと話しててちゃんと見てなかったんだ。ごめんよ」
あの子が何も言わなくても、そこそこ意思の疎通ができるんだ、このオジサマ。さすが客商売ね。
「ねぇ、オジサマ。あの子のお姉さんってどんな人?」
あたしは気になって聞いてみる。
「え? さっき君とドアの所でちょっと話してた、背の高い銀髪の美人がいたろ? あの人だよ」
「やっぱり。でもさっきの人とあの子じゃ、親子くらい歳が離れてるんじゃないの?」
「お姉さんとコートニスちゃんとは十六歳離れてるんだって。コートニスちゃんは幼く見えるけど、あれでももう六歳だよ。春には七歳になるんじゃなかったかな。お誕生日会をしてあげる約束をしたから」
えっ、あの子が六歳? どう見ても三歳か四歳の幼児そのものじゃない。
これにはちょっと驚いたけど、でも十六歳も歳の離れた姉がいるっていうのも珍しいわよね。ご両親が再婚同士なのかしら?
「お姉さんはかなりおおらかでマイペースな人でね。小さいけどしっかり者のコートニスちゃんが面倒見てるんだよ。ちょっと恥ずかしがり屋だけどね、いい子だよ」
あたしとオジサマが話してると、コートニスは今にも泣き出しそうな顔のまま、大きな鞄を抱えてそのまま外へと出て行ってしまった。お姉さんを捜しに行く気かもしれない。
「あの子、一人で出て行っちゃったよ? 大丈夫なの?」
「この町には結構長い事いるから、道は大丈夫だと思うけど……」
ああもうっ! なんだかもどかしい! あの二人が妙に気になるし。
「二人の親は何してるのよ! ちょっとぽよーんなお姉さんと、あんな小っちゃい子を放ったらかしにするなんて!」
「お姉さんと二人で旅行中なんだよ。ウチに長期滞在してくれてて」
無責任な親ね! 頭の中がお花畑な姉と幼児の二人だけで旅行させるなんて、一体なに考えてんのよ! 危ないじゃないの!
「あたしあの子を追い掛けるわ! オジサマ、部屋に荷物、お願い!」
あたしは自分の鞄をオジサマに預け、急いで宿を飛び出した。
あーあ、あたしもお節介だなぁ。
コートニスの姿を捜すと、幸いまだすぐ近くにいた。夕方の買い物客でごった返すメインストリートの人の波を、逆流できずにあっちの人にぶつかり、こっちの人にぶつかりして、建物の隙間に追いやられていた。そして極め付けに太ったおばさんにぶつかられ、そのまま転んで蹲ってグスグスと泣き出してしまっていた。どうやら心が挫けちゃったらしいわね。
あー、全くもう……黙って見てらんないわ。
「コートニス。あたしがお姉さん捜すの手伝ってあげるから、もう泣かないの。可愛い顔が台無しになっちゃうよ?」
ポケットからハンカチを取り出し、あたしはコートニスの涙を拭ってあげる。コートニスは真っ赤になって、あたしをじっと凝視している。
「一人じゃ危ないから。ね?」
「……でも……ご迷惑……から……一人で……」
「迷惑じゃないよ。あなたみたいに小さい子、放っておけないもん。手伝っちゃダメ?」
コートニスはまん丸い目を更にまん丸くして、あたしをじっと見上げてきた。かっ、可愛い……。
「ありが……う……ござ……ます」
モジモジしながら何回もペコペコと頭を下げるコートニス。よし、照れて耳の先まで真っ赤になってるけど、コートニスの許可が下りた。
これってあたしが自分で見つけた人探しの初依頼って事になるのかな?
「あたしはファニィ。オウカの冒険者組合の補佐官見習いなの。だからコートニスはあたしの依頼主ね。あ、これはあたしのお節介だから、報酬はいらないから安心してね」
「……冒険者……組合……」
あたしの言葉をオウム返しに繰り返すコートニス。
「コートニス……です。よろしくお願……します……」
物凄く引っ込み思案なんだよね。声が小さいし、あたしの方を見ながらちゃんとお話しできないみたい。でもそういう仕種もこれまた可愛らしい事この上ない。
「あ……姉様……ジュラフィス……です。お顔……は……」
「さっき見たから覚えてるよ。お姉さんの名前はジュラフィスさんね。了解」
あたしは片手でコートニスの手を引いた。コートニスも小さい手で、あたしの手をぎゅっと握り返してくる。
「あんな美人は滅多にいないから、きっとすぐ見つかるよ。安心してね」
コートニスがコクコクと頷く。
あたしはコートニスの手を引いて、ジュラフィスさんを捜し始めた。
3
初任務から冒険者組合に戻ってきて、最初の春を迎えた。組合の中庭でも春の花々が咲き誇り、そして散りはじめ、町全体が花の甘い香りで包まれている。オウカの春はもうそろそろ終わりかな?
年中通して比較的温暖なこのオウカでも、春の訪れは人々の心を柔らかく癒してくれた。
あれから何度か、いろんなチームにくっ付いて冒険者としての依頼をこなし、あたしは補佐官見習いから正式に補佐官へと昇格した。あたし自身はまだ早いんじゃないかなって思ったけど、組合のみんなも元締めも、あたしの補佐官昇格をお祝いしてくれた。
みんなが期待してくれるなら、今以上に頑張らなくっちゃね!
まだ慣れないながらも補佐官として元締めの手伝いをしていたある日、元締めがふいに、新人面接にあたしを同席させると言い出した。あたしが面接を受ける訳じゃないけど、なんかそういうの、緊張するなぁ。
「のう、ファニィ。今日、面接を受けに来る予定の者だが……付き添い同伴だとの事だ」
「付き添い? そんなので大丈夫なの?」
組合のみんながいる前では、元締めとの会話は敬語を使う。だけど二人っきりの時は親子だからか、タメ口になっちゃうのよね。
「受け付けた事務官も一度断ったそうだが、どうしてもと食い下がるので、とりあえず面接だけはという事にしたのだが……やはり落とした方がいいだろうな」
「そうだね。そんな甘えた根性で組合員やってほしくないな」
以前にも、騎士団で剣技を鍛えてきましたって言いつつ、ママの付き添い付きという、筋金入りのどこぞのボンボンが来た事があったらしいけど、元締めのビシビシ突っ込んだ質問に段々しどろもどろになって、結局は半泣きで逃げるように帰ったらしい。当然だよね。
執務室のドアがノックされ、受付の事務をしている女性の声が聞こえた。今日面接の人を案内してきたんだろう。
「どうぞ、お入りください」
あたしがドアを開けると、そこには背の高い美女と小柄な幼女が立っていた。
「あっ!」
いつだったかグムルフって町で、迷子のお姉さん捜しに付き合った姉妹。ええと、お姉さんがジュラフィスさんで妹がコートニスだったかな。
迷子のお姉さんを無事に見つけて、その日は三人で一緒に夕食をとって、翌日にさよなら、また縁があれば会おうねって帰ってきたんだっけ。
「知り合いか?」
「え? ええ、知り合いっていうか……ホントにちょっと見知ってるだけなんだけど……」
うっかり元締めに普段の口調で答えてしまった。
「あ、いえ。以前少しだけ、依頼先で知り合った姉妹です」
すぐ言い直す。
相変わらずコートニスは緊張して真っ赤な顔して、ほとんど聞き取れないような声で「失礼します」って言いながら、ジュラフィスさんに隠れるように室内に入ってきた。
「ご無沙汰しておりましたわ、フィネッタさん」
「姉様。ファニィさん、です」
すかさずお姉さんのフォローをするコートニス。
「まぁ、失礼しましたわ。ファニィさんでしたわね。思い出しましたわ」
絶対覚えてなかったでしょ! 相変わらず天然街道まっしぐらなようね、ジュラフィスさん。
でも彼女の突拍子もないボケのお陰で、いい意味でも悪い意味でも、あたしの緊張が解けた。
でもここに来たって事は、この二人が組合に? いやいや無理でしょ。いくらジュラフィスさんが付き添いだって言っても、コートニスは六歳だったはず。組合の規定では十五歳以下は無条件にペケ。だって子供を冒険に駆り出すなんて、本人は良くても世間体が悪いじゃない?
「和気藹々としている所をすまないが、組合には年齢制限の規定があってね。十五に満たない者を加入させる訳にはいかないのだよ」
元締めは渋い声で本題を切り出した。
「ごめんね、コートニス。あなた六歳だったよね?」
コートニスが慌てて首を振る。
「あ、あの……こ、この前、七歳……に、なり……ました」
「うん、そっか。誕生日おめでとう。でもそれでもまだ、十五歳じゃないからダメなんだ。わざわざ来てくれたのに本当にごめんね」
「い、いえ……あの……」
コートニスは真っ赤になって俯いてしまう。そしてきゅっとジュラフィスさんのドレスを掴んで、彼女に助けを求めるかのように顔を上げた。ジュラフィスさんはにこりと微笑むだけ。
「あっ、あのっ……違うんです。お、お世話に……な、りたいのは、僕でなくて、ね、姉様で……えっと……僕が付き添い、です。姉様は、二十三歳で、規定……違反してません」
「子供が大人の付き添い……かね?」
さすがの元締めも訝しげに二人を見る。あたしは二人に椅子を勧めてから、急いで元締めの側へ寄って耳打ちした。
「お姉さんのジュラフィスさんはちょっと頭緩くて、それでいつも妹のコートニスが付き添ってるらしいの。しっかり者とは言うけど、あのあがり症だから、意思の疎通は結構面倒よ」
あたしとしては、二人がここに来た理由が何となく分かる。あの時、あたしが冒険者組合の補佐官見習いだって名乗ったから、旅行ついでに顔を見せてくれたんだろう。それなら普通に遊びに来てくれるだけでも良かったのに、面接を受けたいだなんてややこしい事を言ってくるから。
「ゴホン。とにかくだ。組合としては、君たちを受け入れることはできない。申し訳ないが退席願うよ」
「あ、あの……姉様……お役に……」
コートニスがなおも食い下がろうとしてくる。なんで? 顔見せに来てくれただけじゃないの?
「コートニス、だったか。言いたい事があるならはっきり言いたまえ」
強面の元締めに促され、コートニスは更に萎縮してしまって、ポロポロと涙をこぼし始めてしまう。あーあ、泣かしちゃった。
「まぁ! コートを泣かせるなんて酷い方ですのね! わたくし、許しません事よ!」
ジュラフィスさんが形の綺麗な眉を寄せ、すっくと立ち上がる。そして目の前の巨大なテーブルにドンと手を付いた。
ビシッとテーブルに大きな亀裂が走る。
……え? あたしは亀裂を二度見する。
「は?」
元締めも思わず声を上げる。
そのテーブルは組合の力自慢の男の人が五人掛かりで運ぶ、重くて丈夫で巨大な物。それに手を付いたくらいで亀裂が入るなんて……脆くなってたの?
「ね、姉様! こ、壊しちゃ……だめです。ごめんなさいしないと……」
「あら、申し訳ない事をしてしまいましたわ。つい力が入ってしまいましたの」
え? え? 力が入ったって、この頑丈なテーブル、ジュラフィスさんが壊したって言うの? あの細腕で?
「何が起こったんだ……」
元締めが呆然として亀裂の走ったテーブルを見つめている。
「……す、すみません。あの……あの……ね、姉様は……その……と、とても力持ちで……えと……きっと組合、の……お役に立てると……」
「うふふ。わたくし、これでも体を動かす事はとても得意なんですの。コートったら、わたくしが冒険者組合に入れば、きっとみなさんのお役に立てると申しますのよ。わたくしも迷子さんなコートを見つけてくださったファニィさんに、ぜひご恩返しがしたいと思っていたところですし、いけませんかしら?」
あの時迷子になってたのは、コートニスじゃなくてジュラフィスさんなんだけどな。どうも彼女の中では事実に認識の違いがあるらしい。
「……少し聞くが……このテーブルを割ったのは君の力かね? ではこれを持ち上げられるかね?」
「このテーブルを持ち上げればよろしいんですの?」
と、ジュラフィスさんは大して苦労する様子もなく、巨大なテーブルをひょいと持ち上げてしまう! 組合の男の人五人がえっちらおっちら運ぶこの重たいテーブルを、細腕の女性であるジュラフィスさんがよ! しかも頭の高さに!
テーブルを持ち上げろと言い出した元締めも、ぽかんと口を開けてその様子を眺めている。できる訳がないと踏んでいた予想があっさり覆されたので、驚きの言葉も出てこないんだと思う。
この場でこの異常な現場に驚いていないのは、ジュラフィスさん本人とコートニスだけ。
ジュラフィスさんは持ち上げたテーブルを左右にひょいひょい揺らしながら、コートと元締めをきょろきょろ見回している。本当に重い物を必死に持っているようには見えない。
「も、もういい! もういいから下ろしなさい! 重いだろうに」
「うふふ。わたくしはこの程度では疲れません事よ」
優雅に微笑みつつ、ジュラフィスさんはテーブルをそっと下ろした。床からズシンと低い振動が伝わってくる。
手品でも何でもなく、まぎれもなく彼女が一人で軽々と持ち上げたのは間違いなかった。あの重たいテーブルを。
「……ふぅむ……確かにその腕力は組合にとって何かしら有益かもしれんな」
「で、では……その……姉様は……」
コートニスが少し嬉しそうに両手を胸元に置いて元締めの方を見る。だけどすぐ恥ずかしがって視線を逸らした。
「しかしファニィの話では、君の姉君は、君無しでは他人との意思の疎通もままならないそうだが? それに君もまだ幼く、まだ一度もワシの目を見て話をできていないではないか」
「それは……その……」
確かにジュラフィスさんの怪力は、元締めが言うように組合で扱う仕事によってはとても有益かもしれない。でも悪いけど、頭の中がお花畑じゃねぇ……。
「力自慢なだけでは、組合には……」
「あら? ねぇファニィさん、少し離れてくださいましね」
元締めがそう言いかけた時、あたしはジュラフィスさんに思いっきり突き飛ばされた。多分本人は軽くのつもりなんだろうけど。
「きゃっ!」
あたしは壁に鼻をぶつけ、ぶつけた鼻を押さえながら振り返ると、ジュラフィスさんがコートニスを片手で抱きかかえ、そしてさっきのテーブルを片手で掴んで元締めの前に立てかけつつ、その影に隠れた。
刹那、天井からぶら下がっていた大きな照明が、派手な音を立てて床へと落ちた。落ちた衝撃で照明の硝子が割れ、破片がテーブルに突き刺さる。ジュラフィスさんがテーブルを元締めの前に立てかけてくれなかったら、破片は元締めを直撃してたかもしれない。そしてあたしを突き飛ばしてくれなかったら、あたしはあの大きな照明の下敷きになっていた。
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
「あ……危なかったぁ……」
状況を理解して、今になって冷や汗が滲み出てくる。
「……留め金が少し……老朽化しています」
ジュラフィスさんに下ろしてもらったコートニスが、照明と天井を留めていた金具を見ながら首を捻っている。そして小さい手でその留め金に差していた油を指先に取って臭いを嗅いだ。
「あっ……だめです。この油、違う種類が二種類混ざっています。この二種類を混ぜると、金属の老朽化を早めてしまって、こんな重い照明などの留め金には不適合となります。それに……一度修復した跡がありますね? この隙間に混ざった油が入り込んで、留め金の破損と劣化の相乗効果で……」
そこまで一気に言い掛け、ふとコートニスが我に返った。そしてかぁっと顔を赤くして俯く。
「ひっ……す、すみませ……っ! ぼ、僕……で、出過ぎた真似を……」
え、ええと……ええと……今の出来事、整理するよ?
ジュラフィスさんは物凄く怪力で、しかも誰も予想し得なかったような照明落下という事故を、恐ろしく鋭い危険察知能力を発揮して見事に防いだ訳よね?
そしてコートニスは幼い外見からは想像できないような知識を総動員して、その事故の原因をいとも容易く見抜き、あたしや元締めに説明した。
……つまりこの姉妹は、外見からはとても判断できないような、まさに超人的な能力を持ってるって事になるのよね?
元締めとあたしは顔を見合わせる。
ふいに元締めは席を立ち、部屋の隅の書棚から一冊の古めかしい本を手にして戻ってきた。そしてそれをコートニスに手渡す。
「コートニス。これが何か分かるかね?」
あたしが横からのぞき込むと、コートニスは遠慮気味に本を丁寧に広げた。すると彼女の表情が驚きの表情に変わる。
「わぁ……す、すごいです……あの、これ……今から七十六年前にコスタ地方の山岳宮殿跡地で七人の高僧によって執筆されたという幻の聖書ですよね? ……でも……あれ? 違います。これはその写本ですね。この文字の癖は言語学者のスエット氏のものだったかと。でもそれでもすごいです……こんな幻とまで言われた聖書の写本をこの目で見ることができたなんて……」
「もういい。そこまで詳しくはワシも知らん……」
元締めが額を押さえて小さく首を振ると、コートニスはまた肩を竦ませて俯いてしまった。
「す、すみません……また僕、出過ぎた真似を……」
コートニスの知識もスゴいんだと思うけど、でもそんなスゴい本がウチの執務室に無造作に置いてあったというのもスゴい状況なのかもしれない。あたしにその価値は分かんないけど、コートニスが最初に本を見た時の表情の輝きが、この本のスゴさを物語っている。
ああ……ったく『スゴい』の大量叩き売りでもしてるのか、あたしにはもはや何がスゴくて何がスゴくないのかもよく分かんなくなってきたわ。
「この二人は共に、とんでもない能力の持ち主のようだな」
「そう、みたいですね」
元締めの表情に迷いが生じていた。ああ、うん。分かるわ、その気持ち。
ジュラフィスさんとコートニスの特技やら知識って、組合にとっては物凄くプラスになると思うの。しかも即戦力。だけどお互いが思考能力とか年齢とかそっち方面で難があるというか規定違反というか……明らかに大問題なんだけど。
「ファニィ、時に相談だが……彼女らをあと八年待たせてみてはどうだろう?」
八年……ジュラフィスさんはいいとして、コートニスの七歳足す八年は十五歳って意味よね?
「う、ん……二人ともスゴい逸材なのはあたしも分かりますけど……八年って……長いですよ?」
「しかしお前でも十五まで待たせた」
元締めのこの言葉はちょっとだけ嬉しかった。だってあたしに期待してくれてたって意味でしょ?
「……あ……あの……僕は、き……規定に反していますから……その……姉様にお仕事の説明をする時だけ、えと……か、通わせていただければ……」
普段はジュラフィスさんだけ組合にいて、お仕事の説明の時だけコートニスが通ってくるって事? そんなの面倒じゃない。
「ジュラフィス、コートニス。一つ質問するが、君たちの両親は組合への加入の事を知っているのかね?」
元締めの質問に、ジュラフィスさんはにこりと微笑みながら、でもきっぱり言い切った。
「わたくしとコートはもう家に帰りませんことよ。戻るつもりは一切ありませんわ。あの家とは一切の縁を切ってまいりましたもの」
表情は穏やかだけど、強い反感の意思を感じる。それはジュラフィスさんだけでなく、コートニスも同じだった。
「……あ、あの……僕と姉様は……い、家を……出てきました。帰りたくありま、せん……」
ジュラフィスさんとコートニスがお互い見つめ合って、頷き合う。
「家出中か」
「早い話がそうなるようですね」
道理で、グムルフの町でのジュラフィスさん迷子事件の時も、この社会不適合な二人だけで旅行してるなんて変だと思ったわ。
「……よし、決めた」
元締めばパンと手を打つ。
「ジュラフィスの腕力は認めるが、頭が付いてこないのなら組合員としての団体行動は無理だ。コートニスの知識は組合にとって有益となるが、年齢が七歳と、まだ幼すぎる」
「……や、やはりだめ……ですよね……」
コートニスが寂しそうにジュラフィスさんの手を握って俯く。
「だから今回だけ、君たち二人を特例として、組合へ迎え入れよう」
元締めの言葉に、コートニスが驚いて顔を上げた。
「二人は常に共に行動するように。そして専属の教育係を付ける。ファニィ、君が二人の面倒を見たまえ」
「へ?」
いきなり名前を呼ばれ、あたしは間抜けな声をあげる。
「君にもそろそろチームメイトが必要だと思っていた。少々癖の強い者たちだが、君ならば二人と上手くやっていけるだろう。いや、君だからこそ、この二人の面倒を見てやれるだろう」
あたしのチーム……!
なんかまだ、すっごい照れ臭い。あたしは補佐官だけどまだ新人で、冒険者としてもまだまだ勉強する事いっぱいの見習いなのに、もうチームを持たせてもらえるなんて。
「え、あ……あのっ……ぼ、僕……も……ですか? 僕、まだ十五歳じゃ……」
「特例だと言っただろう? コートニスとジュラフィスは二人で一人と考えておる。君はしっかり姉のフォローをし、組合に貢献しなさい」
普段いかつい顔をした元締めが、優しい笑顔を作ってコートニスに微笑みかけた。コートニスは萎縮しつつも、嬉しそうに目を輝かせる。
「……っあ……ありがと……う、ござい……ます……っ! うれしい、です!」
コートニスが顔を真っ赤にしてぺこりと頭を下げた。そしてジュラフィスさんに抱き付く。
「姉様! ぼ、僕、姉様とずっと一緒にいていいそうです」
「うふふ。良かったですわ。やはりコートはわたくしの自慢の弟ですわね」
ジュラフィスさんがコートニスの頭をなでなでしている。あは、そりゃそうよね。こんな可愛い妹ににっこり笑いながら「ずっと一緒」だなんて言われたら、きっとあたしだって……って……弟? 今ジュラフィスさん、弟って言わなかった?
「……弟っ? 今、弟って言ったの!?」
あたしが思わず詰め寄ると、コートニスはひっと小さく悲鳴をあげてジュラフィスさんに抱き付いた。
「ええ、コートはわたくしの自慢の弟ですわ。それがどうかしまして?」
ジュラフィスさんがのほほんと答える。あたしが振り向くと、元締めが目を血走らせて二人の組合員申請書類を読んでいた。
「おっ、弟って……男の子……? コートニスは男の子なの? 女の子じゃなくて?」
「は、はい……僕……男です……けど……」
あたしはコートニスの前にしゃがみ込み、彼女……いえ、彼の頬をむにっと摘まんでみた。子供特融の柔らかい、ぷにぷにでほわほわのほっぺた。
「ふぁ、ふぁにぃ……補しゃか……さみゃ……なに……いたいれすぅ……」
何言ってるのか分かんない。
「ぷっ……」
思わず笑いがこみ上げてくる。ぐりぐりおっきな青い目に涙をいっぱい溜めて、必死に訴えるコートニスの頬から手を離し、あたしは苦笑して〝彼〟を見つめた。
「ねえ、コートニス。あたしを先輩って思わずに、ジュラフィスさんと同じお姉さんだと思ってくれる?」
あたしの問い掛けに、コートニスは可愛らしく微笑んで両手を口元に添えた。
「はいっ! あの……あの、僕もそう言ってくださるとうれしいです」
うふっ、可愛いなぁ!
もうこうなったら、男の子だろうが女の子だろうが関係ないよ。コートニスはあたしの大事なチームメイトで弟! ジュラフィスさんはあたしの大事なチームメイトで、手の掛かるお姉さん!
「トールギーパパ! あたし、二人と仲良くやってけそうよ!」
振り返ると、元締めは資料を手にしたまま苦笑していた。あっ、ついパパとか言っちゃった。
「コートニスの年齢ならば、他の組合員の女子と同じ寮でもさほど問題もないだろう。ファニィ、ジュラフィスとコートニスに、女子寮の部屋の準備をしてやってくれ。ちょうど二人部屋が空いていたはずだ」
「了解です」
あたしはジュラフィスさんとコートニスの手を取った。
「ようこそ、冒険者組合へ! そしてよろしく、あたしのチームメイト!」
「よろしくお願いしますわ、ファニィさん」
「よ、よろしく……です。えへへ」
二人の手を引き、あたしは執務室の出入り口に向かう。
「ジュラフィスさん、コートニスってホントに男の子なの?」
「うふふ。見れば分かりますでしょう? わたくしの自慢の弟ですのよ」
見れば見る程、女の子なんですけど。
「コートニス、あんたってよく女の子に間違われるでしょ?」
「は、はい……でも、あの……そんなに気にしてません。僕は僕ですし……さほど大きな、問題では……ないと思ってます、から……」
今は良くてもその内、気にした方がいいと思うんだけどなぁ。
あたしは新しいチームメイトを案内すべく、執務室を出た。
能力的には問題ないどころか飛び抜けてスゴすぎる面子だけど、でもこの二人、きっといろいろ問題引き起こしてくれちゃいそうな、そんな漠然とした予感がする。でーも! そういうのひっくるめて、あたしは二人を心から歓迎していた。
ジュラフィスさんとコートニスは今日からあたしの大事なパートナーなんだもの!