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Light Fantasia  作者: 天海六花
20/20

学び舎が完成する頃に

     学び舎が完成する頃に


       1


 朝採れの新鮮なお野菜のサラダに、固ゆでの卵をスライスしたものを添えて。南国らしい少し酸味のあるソースをかけた焼き魚。ライスには食の進む添え物があって、スープは濁りのあるもので、まろやかですけれども少し辛味のお味でお芋が具材ですわ。

「お替わりはなんぼでもあるさかい、遠慮せんとってな」

「ええ、どれも美味しそうですわ。いただきます」

 わたくし、タスクさんのお母様の勧めで、たくさん朝食をいただきましたの。でも途中から少しびっくりなさったお顔をされていましたけれど……わたくし、とてもおなかが空いていたんですもの。ちょっぴり食べ過ぎて、はしたない事をしてしまいましたかしら?

「おいこらコート! 起きろ! お前、味噌汁で顔洗うなよ!」

 昨夜、夜更かしさんしていたコートが、眠そうにこくりこくりしてスープにお顔を浸けてしまいそうになっていた所を、タスクさんが間一髪引き戻しましたわ。

「す、すみません……ジーンの建築についてのお話がおもしろくて、つい遅くまで伺っていて……」

 コートはそう弁明しながら、またおねむさんのお目目ですの。

「姉貴。いくらコートがせがむからって、ガキを夜中遅くまで引っ張り回すなよな」

「なんでウチって分かったん?」

「コートの好奇心を満たせるような知識を持ってるなんつったら、姉貴しかいねぇだろうが」

 うふふ。コートはとてもお勉強が好きなんですの。とてもお利口さんですから、わたくし、姉として鼻が高いですわ。

「あ、これ美味しい」

 ファニィさんがライスの付け合せを、ポリポリと小気味良い音を立てて召し上がっていますわ。

「ファニィ、漬物ばっか食ってたら、後で喉乾いてとんでもない事になるぞ」

 食が進むんですもの。仕方ないですわよね。

「ねぇ、タスクさん。デザートはなんですの?」

「ジーン流の朝飯にデザートは付いてません。あー、お袋。ジュラさんになんかお菓子やっといてくれよ。この人は甘い物胃に入れるまで口閉じないから」

 まぁ、タスクさんたら酷い言い分ですわ。わたくしいつもより遠慮していますのよ。お替わりも七回しかしていませんもの。

 お母様がタスクさんの言葉を受けて、わたくしだけにカップケーキをくださいましたの。クリームがたっぷり練り込まれたカップケーキですわ。とても甘くて美味しいんですのよ。

「タスク。トウチャン会心の佃煮はどや!」

「はいはい、美味い美味い。だから黙って食ってくれ。俺の皿によそうのも、もう結構」

「愛想あらへんなぁ」

 タスクさんとお父様はとても仲がよろしいのですわね。羨ましいですわ。

「ファニィ、出発するなら早い内にしろよ。昼間は日差しが凶悪なくらい強くなるからな」

「へ? あ、うん……分かった……」

 ファニィさんの表情がふいに暗くなりましたわ。でもその原因、わたくしでも分かりますのよ。

 だって……オウカに向けて出発するという事は、タスクさんとお別れなんですもの。もうタスクさんのお料理、もう食べられないんですのね。寂しいですわ。

「……ね、ねぇ。もう一日、ご厄介になっちゃダメかな?」

「駄目だ。お前は組合の補佐官なんだから、とっとと帰って完了報告しろ」

 タスクさんがファニィさんの言葉をぴしゃりと拒絶なさいましたわ。タスクさんって厳しいですわね。

「ぼ、僕……その……も、もうちょっとジーンの建築や魔法について、お話が聞きたいです」

「駄目なモンは駄目だ。お前もとっとと帰って仕事しろ。出てくる前にからくりの設計依頼があるとか言ってただろうが」

「まぁ、タスクさん。酷いですわ。コートは……」

「ジュラさん、オウカに戻ったらファニィがケーキ食い放題に連れてってくれるそうですよ」

「まぁ本当ですの? ファニィさん、急いで帰りませんと!」

「ちょっ、ちょっと! あたしそんな事、言ってないよ!」

 ケーキ食べ放題。素敵ですわ。

 イチゴのショートケーキに、アップルパイ、カボチャのタルトにモンブラン。クリームたっぷりのミルフィーユも捨てがたいですわ。考えただけでうきうきしてきますの。一体何から戴きましょう? わたくし、全部残さず戴きましてよ。


 その時ですわ。ダイニングのドアがノックされて、可愛らしいメイドさんがタスクさんのお父様にお手紙を持っていらっしゃいましたの。

「急ぎの用事か? ちょっと失礼」

 タスクさんのお父様が席を外され、お手紙に目を通されましたの。そしてお母様に耳打ちなさいますわ。

「まぁ……そうなん? ミサオ、ちょっと来なさい。タスクはファニィさんらのお相手しとき。皆さん、ゆっくり召し上がっといてくださいね」

 お父様とお母様、ミサオさんが揃ってダイニングを出て行かれましたの。タスクさんも不思議そうに首を傾げていらっしゃいますわ。

「忙しそうだね。やっぱり早めに切り上げた方がいいかな?」

「女王からの召喚だったりしたら、みんな出払う事になるからな」

「ミサオさんは賢者様だもんね」

 ファニィさんが肩を落として呟きましたわ。

 しばらくしてみなさんが戻ってこられて、お父様がファニィさんのお傍に立たれましたの。

「ファニィさん。みんなでお見送りしたいんで、出発は昼過ぎにしてもろてええですやろか? 暑さ厳しい時にすんませんねんけど」

「え? ええ、構いませんけど……」

 お昼過ぎという事は、こちらで昼食を戴けるんですのね。うふふ。楽しみですわ。今度はどんなメニューが戴けるのかしら?


       2


 お屋敷の中は、タスクさんのお父様の魔法で一定の気温になるように空気の暑さを調節されているんだそうです。だから外よりずっと過ごしやすかったのですね。魔法ってやはり、僕のからくりよりずっと便利なものかもしれません。

 タスクさんのご両親や、ミサオお師匠様が、どうしても見送りたいのだけれど、でも用事で手が離せないのでお昼過ぎまで待っていてほしいと仰られ、僕たちはお屋敷で思い思いの時間を過ごしていました。でもなんとなくリビングに、集まってきて、お話する事にしました。やっぱり人様のお家だと、ちょっと落ち着かないです。

「茶でも持ってくるか?」

「もうおなかタプタプだよ。それにもうすぐお昼だし」

 お話といっても、特に話題がある訳ではありません。ですからちょっとだけ、暇を持て余していました。

「見送りとか、そんなに気を使ってもらわなくても大丈夫なんだけど」

「いやまぁ、お前らは一応タイガーパールと俺の恩人だし。親父たちの気持ちも汲んでやってくれよ」

「いいけど……」

 ファニィさんが両手を膝の上に乗せて、暇そうに指をポキポキ鳴らしていらっしゃいます。

「……タスク、考え直さない?」

「しつこい」

「でも……」

「俺の決心は変わらない」

 タスクさんとファニィさんが、先ほどから小声で何か言い争っていらっしゃいます。いつもの口喧嘩とは少し違うような……。

「あの……ファニィさん、どうかなさったのですか? タスクさんに何か質問でもあったんでしょうか?」

 僕はつい好奇心で問い掛けてみました。

「うん、まぁね。こいつってさ、あたしが一世一代の大決心して告ってやったってのに、へらーっと笑いながらお預け突き返してくるんだもん。タスクだってあたしを特別な目で見て……あ!」

「うぐっ!」

 ファニィさんが仰った言葉に、タスクさんの顔色が変わります。ファニィさんも慌てて口を塞ぎ、でもすぐ僕の前で両手をブンブン振ります。

「違っ……違うの! ちょっと勘違い! あたしの気持ちはどうだってよくて関係なくて、コートの応援ばっちりしちゃうからっ! 任せといて!」

「ちょっと待て! 俺はノーマルだと何度言わせ……」

「……あの……僕、知ってます……けど……」

 僕はちょっとだけおかしくなって、短くため息を吐いて答えました。

「え? 知ってる、って……?」

「その……ファニィさんとタスクさん。お互いを好き合っていらっしゃるのですよね? 知ってます。というか、丸わかりです」


 僕、タスクさんが好きです。ファニィさんも本当の姉様のように好きです。だからお二人が惹かれ合っているのなら、僕は静かに見守るだけです。それに僕には大切な……ですもん。

「いやっ、そのっ……そうじゃなくて! だからコートから盗っちゃうつもりじゃなくて……えとえっとぉ……ごめんっ!」

「おおお前は可愛いよっ! うん、弟として! 俺ノーマルだしっ!」

 タスクさんとファニィさんの狼狽ぶりが少しおかしいです。僕、つい笑ってしまいました。お二人がきょとんとして僕を見ていらっしゃいます。

「僕の事なら気にしないでください。僕、タスクさんとファニィさんならいいと思ってますから」

「お前……マジで?」

「だってコート、タスクの事が好きだったんでしょ?」

 僕は膝の上の鞄をぎゅっと抱き寄せ、くすっと笑いました。

「はい、今でも大好きです。でも、なんかもういいかなって」

 だって僕には……。

「僕にはもっと好きな人、いますから」

 ファニィさんが両手をご自分の頬に沿えて僕に詰め寄ってきました。

「わっ! それってコートの新しい恋? それともエイミィ? あ、市場のコハク君? どんな子? どんな子がコートの新しいお気に入り?」

「ふぁっ……そ、それ、は……恥ずかしいから秘密です!」

 僕は顔が熱くなって、助けを求めて姉様の腕に抱き付きました。そうですよね、姉様?

「ファニィさん、コートはわたくしの自慢の弟ですのよ」

「姉様は僕の自慢の姉様です」

「はぐらかさないでよー」

 これだけは絶対にファニィさんにもタスクさんにも言えません。僕、今度こそ本当の本当の〝好き〟なんですもん。

「僕は諦めます。だからファニィさんのこと。悲しませちゃイヤですよ、タスクさん?」

「お、おう……」

 タスクさんの褐色の肌が、ほんのり赤く染まります。そのまま口元を押さえて顔を背けられました。照れるタスクさんも素敵だと思います。

 ファニィさんは僕にはいつもお姉さんぶるのですけれど、でも今はすごく照れていらして、可愛らしくていらっしゃるんです。そういった素直で照れていらっしゃるファニィさんも、とてもいいと思います。

「あ、でも……ファニィさんと仲良くなっても、僕とも今まで通り仲良くしてくださいね」

「ああ、そりゃ間違いないな。コートもジュラさんも、ファニィも、俺にとってはかけがえのない仲間だよ」

「うふふ。みんな仲良しさんですのね。わたくしも仲良しさんは嬉しいですわ」

 姉様が僕の頭を撫でてくださいました。

 ファニィさんとタスクさん。素敵な人同士が幸せになるのって、僕もすごく嬉しいです。タスクさんとは今日でお別れですけど……でもきっとまた会えますよね? 僕もファニィさんも姉様も、信じて待っています。


       3


 ファニィたちを見送るために、親父とお袋、姉貴が正門に集まっていた。朝食の席で急な用事が舞い込んだみたいだが、そっちはもう大丈夫なんだろうか?

 俺はファニィたちを見送ったら、当分は骨折の治療に専念だな。それから俺にできる何か新しい学問か何かを探して……やる事は漠然としてるが山積みだ。

「ウチのサイン入れた通行許可書。これ、ここの統括区の番兵に見せたら自由に出入りできるよってからね」

 姉貴がファニィに自分のサイン入りの通行許可書を渡している。そういや外との出入りが不便なんだよな。来る時も引っかかったし。なんせここって女王のお膝下に当たる区域だから。

「ありがとう、ミサオさん」

 ファニィが大事そうにそれをウェストポーチに入れる。

「ほな、みなさん。あんじょうようやってな」

 お袋の言葉に首を傾げるファニィ一同。あ、通じなかったか。

「元気でなって言う意味だよ」

「ああ! そうなんだ。ありがとうございます。そちらもお元気で」

 ファニィが親父とお袋と握手する。コートとジュラさんが姉貴と。

「じゃあ……」

 ファニィが少し暗い表情をして、だがそれを振り切るように首を振って、パッと明るい顔になった。

「じゃあ、帰ります。お世話になりました」

「こちらこそ、おおきになぁ」

 姉貴がニコリと微笑み、そして親父に目配せした。ん?

「なぁ、ファニィさん。組合の元締めさんにこちらを」

「はい?」

 親父が厚い封筒をファニィに手渡す。

「ええと、依頼料金なら昨日の夜に戴きましたけど……」

「そうやのうて、元締めさんから頂いた手紙の返事ですわ」

 は? 手紙? そんなもの、預かってたっけ?

 俺が昨日からのやり取りを思い出そうとすると、親父がバンといきなり俺の背を叩いた。俺は数歩、たたらを踏む。

「こんなんでええんやったら、更に魔法学、頭に詰め込んでお出ししますて、伝えてくれなはれ」

「は? どういう意味だ、親父?」

 俺もファニィも意味が分からず頭の上に疑問符を並べ立てる。ジュラさんは当然として、コートも訳が分からないらしい。

「あれ? ファニィさん、聞いとりまへんの? なんやオウカの冒険者組合併設で、近い内に魔法学と古代語のアカデミーっちゅうか、総合学問所みたいなん作るから、ジーンから何人か魔法使いやら学者やらを派遣してほしいっちゅう手紙でしたで? 筆頭にタスクを名指しして、ぜひ寄越してほしいゆうてはりましたわ」

 親父の衝撃発言に、俺たちは絶句する。

「そっ……」

「なんだよそれ! 俺、聞いてねぇぞ!」

 魔法学と古代語のアカデミーだ? 元締めもヒースも、そんな事は一言だって言ってなかったじゃねぇか! しかもなんで魔法使いでもなくなった俺の名前を筆頭に……って……魔法使いじゃなくなった……からか?

 俺の脳裏を、あの厳めしい面の元締めがよぎる。その顔はニヤニヤ笑いの、したり顔だった。


 ……やられた……! 完璧にやられた! 一杯食わされた!

 ヒースの口添えか、コートにすら悟られるようなファニィの態度の変化のせいかは分からないが、元締めはどうにか俺を、オウカに残すための策を親父に手紙で打診したらしい。俺のためというより、ファニィのために! ファニィが気に掛ける俺を、オウカに引っ張り込むために!


 ……っんなんだよ、娘にゲロ甘なあの元締めは! 「能力の無くなった者を組合には置いておけん」とかほざきやがったくせに、娘の恋心成就のために俺を騙すとは! というか、自分の補佐であるファニィやコートまで謀りやがった!

 俺は騙された悔しさと、だがそれを上回る嬉しさで、もう笑いを堪えている事ができなくなって、腹を抱えて大笑いした。ファニィも元締めの真意に気付いたのか、俺の肩をバシバシ叩きながら大笑いしている。

 だから痛ぇよ! そっちの腕折ってんだから、力任せに肩叩くな! 響いて痛いんだよ! けどその痛みもなんかおかしい! 笑えて笑えて……ああ、腹痛ぇ!

「ふっざけんな、あの髭親父よ! 粋な事してんじゃねぇよ!」

「トールギーパパを悪く言わないでよ! やる時はやるでしょ、あたしのパパだもん!」

 俺とファニィの馬鹿笑いに驚いて、まだ意味が分からないでいたコートが、ふいに元締めの真意に気付いて俺のベルトを掴む。

「じゃ、じゃあ! あのっ、あの! ま、またタスクさんとご一緒にいられるんですね?」

「ああ! 今すぐは無理だけど、もう一度頭っから魔法勉強し直して、アカデミーとやらの校舎が出来上がったくらいに、オウカに講師として押し掛けてやるよ!」

 〝冒険者〟は無理でも〝講師〟なら。魔法が使えなくなった俺にだって、知恵を貸すという形でファニィの力になってやれるじゃないか! ファニィの傍にいてやれるじゃないか!

「まぁ! ではまたタスクさんのお食事がいただけるんですのね?」

「ジュラさん、俺は講師になっても食堂でバイトが前提ですか?」

「あら、違いますの?」

「ははっ! いいですよ。新メニュー持ってオウカに帰りますよ!」

 なんだってやってやろうじゃないか! 俺で役に立てる事ならなんだってする。それが元締めへの恩返しだし、ファニィたちとまた一緒の生活ができる条件なんだからな。

「行方がはっきりしてるんやったら、ウチらもまたいつでもあんたに会えるやん」

「ご立派な就職だぜ、俺。もう魔術師が、なんて誰にも言わせねぇよ!」

 お袋と親父を見て、姉貴を見て、誰もが笑顔だった。俺を〝魔術師〟として扱わない元締めの懐の深さに、親父たちも感心している事だろう。

「あははっ! じゃあ突貫工事で校舎仕上げて待ってるから、早く帰ってきなさいよ、タスク!」

「手抜き工事はするなよ」

 俺は花が咲くように笑うファニィの額を小突いた。


       4


 夏が過ぎて、秋が過ぎて、冬が過ぎる。

 あたしは一つ歳をとって、十九歳になった。年中気候が温暖で、もう目の前に来てる春だけど、まだちょっと肌寒い。

 オウカ冒険者組合の敷地の隣に建設中の、オウカ魔法アカデミー。魔法だけじゃなく、各国言語や古代語や、冒険者としての基礎も学べる、要は冒険者養成所としての施設と言える。

 春には開校の予定だけど、でもすでに入学希望者は予定数を遥かにオーバーしている。講師もあちこちの国から集めた言語学者や、引退した冒険者を揃えて、ここの学長にはヒースがなる予定。

 〝ヒースの方が学ばなきゃならない事があるんじゃないの?〟なんて茶々を入れたら、ヒースは顔を真っ赤にして怒ってたっけ。でもヒースのフォローにコートがいるから、まぁ任せても大丈夫かな?

「うう、今日さっぶい……」

 あたしは上着の前をゴソゴソと併せて、かじかむ手でペンを取る。やん。書類のサインが歪んじゃう。

「ファニィ、講師がまた一人到着したぞ」

「あ、そう。じゃあヒースが寮に案内してあげなさいよ。あたし、忙しいから」

 あたしは執務室の机に山積みになった書類を見て、うんざりしながら溜め息を吐く。

「へぇー。いいのか?」

「何がよ。アカデミーの学長は、名目上はあんたなんだから、講師の世話はあんたの担当でしょうが」

「お前がそれでいいならいんだけど。そっかぁ……そうなのかぁ」


 イラッ。


 何が言いたい訳? あたしは唇をへの字にまげて、コツコツと指先を机に叩きつける。

「そっかぁ。じゃあ俺は一年ぶりに奴と喧嘩でもしてくるか。止める奴がいないから、さぞ大騒ぎになるだろうなぁ」

「あんた心入れ替えて、横柄な態度取るのはやめたんじゃないの? また泣かすわよ」

「あーあ。せっかく〝お兄ちゃん〟が気を使ってやってるのに、それをふいにする〝妹〟の、なんて可愛くない事か。こんな〝妹〟に惚れてる奴の気がしれないな」

「さっきからやたら絡んでくるわね。一体何が言い……」

 あたしがヒースを睨むと、ヒースはにやにや笑いながらあたしの様子を見ている。そしてチラチラと執務室のドアの方へ視線を走らせていた。

 あたしは眉を顰めて机の上の書類の束を片手でちょっとずらし、向こう側を見て……バッと勢いよく立ち上がった。ヒースが声を潜めてあたしの様子を笑っている。

「相変わらずお前は、誰彼構わず不遜で横柄な態度なんだな。ヒースはお前の〝兄貴〟だろうが」

 その憎ったらしい皮肉とか、眼鏡なんか掛けてインテリぶってる様子とか、少し髪が伸びて大人っぽくなった雰囲気とか、そんなのどうでも良かった。あたしは机に足を掛けてそのまま書類の上を乗り越え、〝彼〟に抱き付いた。ヒースの目がある事なんて、この際関係ないわ。

「バカッ! 待ちくたびれたわよ!」

 思いっきり、あたしらしい出迎えの言葉を吐き掛けた。

「校舎が出来上がる頃って約束は守ったろ」

 それはそうだけど……あーもー! 頭の中、滅茶苦茶になってきた。ヒース、トールギーパパも、ちょっとだけどっか行って!

 あたしは嬉し泣きの泣き顔を見られたくなくて、タスクの肩に顔を押し付けた。

「肩は貸してやるけど、鼻水付けるなよ」

「思いっきり汚してやるわ!」

 皮肉を皮肉で返し、あたしは彼に抱き付く両手に力を込めた。


全20話にお付き合いくださいましてありがとうございます。

Light Fantasiaはこれにて閉幕となります。

外伝や続編については薄ぼんやりとしたものはありますが、今のところ、予定はありません。

この4人が皆様の心に少しでも引っかかってくださったのなら、この作品は大成功です。

本当に最後までお付き合いありがとうございます。

また何かの作品でお会いできる事を願っております。

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