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Light Fantasia  作者: 天海六花
16/20

和解

     和解


       1


 タスクさんの作ってくださった美味しいお食事を戴きながら、わたくしは少し憂鬱な気分になりましたの。ですからお食事がちっとも美味しくありませんわ。

 ……いえ、お味はとても美味しいのですけれど、なんだか味気なく感じてしまって……ええと、違いますわ。とてもわたくし好みのお味なんですのよ? でも喉の通りが悪い、というのかしら? あら? わたくしどうしてしまったのかしら? 美味しいのに美味しくないだなんて、なんだか上手く説明できませんわ。

「ジュラさん? 口に合いませんか?」

「いいえ、とても美味しいですわ」

「顔が嬉しそうじゃありませんけど? ジュラさんは飯を食う時はいつも、凄く幸せそうな顔をします。でも今日は神妙な顔してます」

 タスクさんがわたくしの顔を覗き込んできましたの。わたくし、嫌々なお顔でお食事を戴いていたんですのね。作ってくださったタスクさんに申し訳ない事をしてしまいましたわ。

 多分ですけれど……お食事が美味しくないのは、コートもファニィさんも傍にいらっしゃらないからですわ。タスクさんはお話し相手になってくださっていますけれどお茶を飲むだけで、わたくし一人でお食事なんて、とても寂しいですもの。

「ごめんなさいね。コートがいないものですから……」

 タスクさんが困ったように頭に手を乗せられましたわ。

「コートは……あー、帰ってきてから、ずっとヒースの看病ですからね。ジュラさんよりヒースを優先してる事が気に入らないんですか?」

「コートはわたくしの自慢の弟ですの。コートはとてもお利口さんで、優しい子ですから、ヒースさんの事が心配なのですわ。でも……わたくし、やっぱりコートと一緒がいいんですの。わたくしがワガママさんなのかしら?」

 タスクさんが困ったような顔をなさいますわ。わたくし、ワガママが過ぎましたかしら?

「じゃあ……それ食べ終わったら、一緒に見舞いに行きますか?」

「まぁ! タスクさんがご一緒してくださるんですの? 嬉しいですわ」

 わたくしが微笑むと、タスクさんは照れたようにお顔を赤くされましたの。うふふ。タスクさんもファニィさんと同じでとても優しくて、わたくし、お友達として誇らしいですわ。

「そうですわ。ファニィさんもお誘いしませんこと? 皆さん揃った方が、お部屋も賑やかになってよろしいかと思いますの」

「あ、いやそれはちょっと……あくまで見舞いなんで、なるべく静かにした方がいいですよ」

 そうですの? わたくしは賑やかな方がいいと思ったのですけれど……。

 でもタスクさんがその方が良いと仰るなら、その方がよろしいですわね。

 わたくしは考える事がとても苦手で、いつもコートに難しいお話はお任せしていましたのよ。今はそのコートが忙しくていませんから、お傍にいる方のお考えの通りに行動すれば間違いありませんわ。タスクさんもコートと同じくらい頭がよくていらっしゃるから、タスクさんのご指示に間違いなんてきっとありませんわ。

「では急いで食べないといけませんわね」

 わたくしが一生懸命早くお食事を戴こうとすると、タスクさんが声をあげてわたくしの手を抑えましたの。

「ゆっくり食ってください。急いで食うと腹に負担が掛かりますから。ジュラさんもまだ病人だって事、忘れないでくださいね」

「でもコートに早く会いたいですわ」

 タスクさんは苦笑なさって、わたくしの手を離しましたの。

「じゃあできるだけ〝ゆっくり急いで〟食ってください」

 難しい事を仰いますわね。でもわたくし、やってみますわ。

 わたくしはお魚を飲み込みやすいように、なるべく小さく切り分けてお口へ運びましたの。うふふ。一口を小さくすれば戴きやすくなって、早くお食事を終えられますわ。名案ですの。


 お食事が終わって、わたくしとタスクさんは揃って医務室へ向かいましたの。ヒースさんに付き添っているコートもそこにいるんですのよ。

「コート、入るぞ。ジュラさんもいるから」

 タスクさんはドアを数回ノックして、お部屋に入られましたわ。わたくしも静かに続きましたの。

「あ、姉様。タスクさん、も……」

 コートは白いカーディガンを羽織ってヒースさんのベッドに腰掛けていましたわ。そしてヒースさんはわたくしたちの顔を見ると、ぷいとお顔を窓の方へ背けてしまいましたの。

 あらあら。ヒースさんは相変わらず恥ずかしがりやさんですわね。うふふ。でもわたくし知ってますのよ。ヒースさんは本当は、コートととても仲良しさんなんですの。でもたまにコートに意地悪な事をするので、以前わたくし、ヒースさんをメッして差し上げた事があるんですのよ。それからヒースさんはますます意固地になってしまって。素直でないのですわ。

「ヒース、お前……いつ目が覚めたんだよ」

 タスクさんが驚いたようにヒースさんのベッドの傍へ寄りますわ。でもヒースさんは答えませんの。

「ファニィ、呼んでくるか? お前の事、すっげー心配してたぞ」

「あ……えと……ヒース様。どう、なさいますか?」

 コートが呼び掛けても、ヒースさんたらお返事しませんの。いけませんわ、そんな小さな子みたいな拗ね方。やっぱりメッですわね。

 でも今は。今はコートをいい子いい子したいんですのよ、わたくし。

「コート、いらっしゃい」

「は、はい。姉様」

 わたくしが椅子に座って向かって両手を広げると、コートはヒースさんの方を何度か気にしつつ、わたくしのお膝にちょこんとお座りしましたの。

 うふふ。コートをこうして抱っこするのは久しぶりですわ。わたくし、嬉しくてコートの頭を何度もなでなでしてあげましたの。

「タ、タスクさん。あの……ファニィさんをお呼びするのは、遠慮していただけますか。そ、その……申し訳ないのですけれど……タスクさんも、姉様も……」

「あ? ああ……騒がしいもんな。悪かった。でもジュラさんは静かにしてるから、しばらく置いてやってくれないか? ずっとお前に会いたがってたから」

 タスクさんがお部屋を出て行こうとした時ですわ。

「……コートニス」

「は、はいっ」

 ヒースさんが急にコートを呼ぶので、コートはびっくりしてわたくしの膝の上で身を乗り出しましたの。まぁまぁ。危ないですわよ。

「ファニィを呼んできてくれ。それから……お前とジュラフィスが出て行け。ファニィとおれと……タスクで話をさせろ」

「は? なんで俺?」

「黙って待ってろ。クソ魔法使いが」

 コートはわたくしのお顔を見上げて、それからヒースさんに向き直りましたの。

「じゃあ、あの……僕、姉様と出てきます。え、えと……少ししたら、戻ってもいいですか?」

「ああ」

 コートがわたくしの膝の上から、わたくしを見上げてきましたわ。

「姉様、僕とお散歩に行きましょう。タスクさん、ヒース様をお願いします」

「あ、ああ……分かった……」

 タスクさんは複雑な表情でいらっしゃいますわ。

「姉様、ファニィさんを呼んできましょう」

「分かりましたわ」

 わたくしはコートの手を引いて、医務室を出て行きましたの。そしてファニィさんを呼ぶために、執務室へと向かいましたわ。


       2


 とにもかくにも居心地が悪い。空気が悪い。雰囲気が悪い。

 なんだってヒースの奴はコートを追い出して俺を残しやがったんだ? 俺なんかヒースにとっちゃ、俺と同じかそれ以上に気に食わない相手だろうが。

 俺とヒースは無言のまま、ファニィの到着を待っている。

 壁に寄り掛かって腕組みしたまま、俺はひたすらこの見えない重圧に耐えていた。ヒースの言葉なんか無視して出て行っても良かったんだが、そうしたらしたで、また奴が何だかんだと喚き散らして鬱陶しい事態になり兼ねない。

 重圧に耐えられなくなったのか、先に口を開いたのはヒースだった。

「お前……なにか話せ。息が詰まる」

 ムッ。死にかけてるクセにやたらと高圧的かつ身勝手な物言いだな。俺は無視を決め込む。

「何も話さない気か?」

 無視。相手にしたら更につけ上がりやがる。

「……お前が喋らないなら、おれが話す」

 は? 仲良くお喋りしましょうってか? ふざけんな。

 軽く嘲笑でもしてやろうかとヒースの方を向くと、ヒースは窓の外を見たまま俺を無視し、勝手に喋り出した。

「お前、見たのか?」

 いきなり何だ?

「……お前、ファニィの〝食事〟を見たのか? 見て、それでもあいつをあいつとして許容できるのか? 他の〝モノ〟に見えないのか?」

 訝しげに俺はヒースを見る。相変わらず俺に一瞥すらくれない。

「おれが六つの時……母さんは死んだ。赤い目の魔物に〝食われた〟んだ」

 こいつ……ッ!

 ファニィがガキの時に魔物化した事件を覚えてて知ってるのか?

「あの日……おれは三つ年下の幼馴染と一緒に遊んでいた。夜遅くまで遊んでいて、満月が浮かんだ頃、急に幼馴染は赤い目の魔物になって、おれや母さんを襲った。幼馴染の両親と親父が必死に止めようとしたが……赤い目の魔物は親父を除く三人を食い殺した。おれは母さんがとっさにクローゼットに押し込んでくれて難を逃れたが……クローゼットの中から全てを見ていた。幼馴染が魔物に豹変する姿も、母さんが生きたまま食い殺される姿も」

 ヒースはこちらへ目を向ける気もないのか、窓の外を見たまま、その日に起こった出来事を淡々と語る。

「満月が朝日と入れ替わる頃になって、全ては終わっていた。血溜まりの中で訳も分からないといった様子で泣きじゃくる幼馴染を、親父は抱き締めていた。泣きながら……抱き締めていた。ファニィを……許していた」

 ファニィは確か、ヒースは自分を恐れていると言っていた。幼いヒースがあの事件を目撃していたのなら、そりゃあファニィを恐れて当然だろう。自分の親を殺した〝魔物〟を恐れる心は、何の力もない子供にとってこの上ない恐怖であるし、生きた人間を食らう魔物の姿なんて見たなら、それは確実にトラウマになるだろう。

「親父はファニィを引き取ると言い出し、おれは反対しなかった。それからおれもファニィも成長して……ファニィはあの日の事を何も覚えていなくて、誰からも好かれる明るい女になった。人への思いやりや責任感も強く、組合のみんなに請われて補佐官になった。おれは……」

 ヒースが片手を目の上に翳す。窓からの光が眩しいのだろう。

「誰からも愛される彼女に……憧れた。おれから母さんを奪った奴なのに、恐ろしいはずなのに、ファニィにずっと……ファニィの人柄にずっと、おれは憧れていた。おれはファニィをなじる事でしか、自己表現ができなかった。ガキなんだ。どうやってその気持ちを伝えればいいのか分からないまま、体だけがデカくなった……いい歳ぶら下げて、ガキなんだよ、おれは」

 どうやら自覚はあるらしい。プライドだけが高く、感情が行動に伴っていないという事に。

「お前は〝赤い目の魔物〟をその目で見たんだろう? なのになぜ、恐れない? なぜ、受け入れられる?」

 俺は少し考え、口元に手を当てた。そして一つの答えを出してやった。

「お前と同じだと思う。俺はファニィの〝特異性〟に惚れたんじゃなく、ファニィという人間に惚れたんだ。お前と同じで、あいつがファニィだから、惚れたんだ」

「……そうか」

 ヒースが黙り込む。俺は言葉を続けた。

「俺がお前よりもう一歩踏み込めたのは理由がある。俺とお前との違い。それは俺もファニィも〝特殊〟な人間だという共通点のせいだ。俺はそこにも惹かれるものを感じていた。ファニィの場合は〝混血〟という事。俺の場合は〝魔術師〟である事。どちらも人から忌まわしき存在として見られているんだ」

「まじゅつ、し? 魔法使いでなく?」

「暗黒魔術師。死の魔術を操る、忌まわしき力の使い手。魔法使いの中で、この世に存在すべきでないとされる、異端の存在。それが俺だ」

 ヒースは初めて俺の方へ顔を向けた。その表情は複雑で、俺の言った事が理解できないといった様子だった。

 まぁ当然の反応だな。魔法の知識の無い人間に、魔法使いと魔術師の違いはすぐに理解できるものじゃないという事は、これまでの経験から何度も繰り返されてきた、平行線の押し問答だ。

「お前はファニィと同じだという事か?」

「異端であると言う意味では。ただ、ファニィの置かれた境遇と、俺の境遇は全く異なるものだ」

 ヒースは自分の中で俺の言葉を整理しようとしたようだが、結局完全な理解へは思考を導けなかったらしい。途中で諦めた様子が見えた。

「同じような異端だから、ファニィを受け入れられたのか、お前は?」

「違う。ファニィという個人に心底惚れたからだ。だから俺は、ファニィがどんな過去を持っていようと、どんな重責を背負っていようと、彼女の傍にいたいと、彼女の心を一緒に支えてやろうと、心から思っただけだ。だから自然と全てを受け入れられた」

 ヒースのとび色の目が泳ぐ。そして声無く笑った。

「……強いな、お前。人としての器も……でかい。おれなんかが……到底太刀打ちできる相手じゃなかった」

 ヒースは自虐的な表情になる。

「強くなんかないさ。ただ少しだけ、他人からの批難の目に耐えられる部分があっただけだ」


 さっきまでヒースを嫌な奴だとしか思えなかった俺だが、これまでヒースが内に秘め、悩んで苦しんできたという吐露を聞いたら少しだけ、奴に同情できるようになった。だから今はそれほどこいつが忌々しいとも鬱陶しいとも思わない。いや、思えなくなってきていた。

 コートの言う通り、こいつは自分で自分を追い詰めて苦しんでいたんだろう。


「ファニィが……おれなんかより、お前に傾倒していく理由が……やっと分かった。負け、だよ」

「勝ちも負けもあるか。ファニィは誰にも縛られない。ファニィは自由なんだ」

 ヒースが悪意も自虐もない、きょとんとした不思議そうな目で俺を見た。

「お前……ファニィが好きなんじゃないのか?」

「ああ、好きだよ?」

「おれが引くと言ってるんだから、ファニィはお前のものじゃないか。なんで喜ばない?」

 俺は肩を竦めて見せた。

「あんな跳ねっ返り、俺の手には余る。だからあいつは自由でいいんだよ」

「惚れてるのに掴まえないのか?」

「惚れてるから手放すんだよ」

 俺の言葉を聞いて、ヒースはクックッと笑い出した。ああ、その笑い方。元締めとそっくりだ。さすがは血の繋がった親子。

「お前、変な奴だ」

「てめぇに言われたくない」

 ヒースがゆっくりと手を伸ばしてきた。俺は苦笑し、その手を掴む。力のない緩い握手だった。

「じゃあファニィはしばらくお前に預けておいてやる。絶対取り返しに行って、今、言った事を後悔させてやる」

 俺はヒースの手を強く握り返してやった。

「せいぜい男を磨いてこいよ。俺は更に先に進んでてやる」

「言ってろ」

「何度でも追い返してやるさ」

 俺たちは妙にお互いの言動がおかしくなり、笑い出した。


 その時、医務室のドアが勢いよく開く。驚いてそっちへ顔を向けると、ファニィが真っ赤な顔をして肩を怒らせて立っていた。

「な、何よ! 珍しくあんたたちが会話してると思って黙って聞いてたら、ヒ、ヒトの気持ちもそっちのけで、預けるだの奪い返すだの……ッ!」

 ファニィが時々声を詰まらせながら喚く。

「盗み聞きとはご高尚なご趣味で。ヒース。お前の義妹、マジで最悪にいい趣味してるな」

「何を言うか。お前こそ、この高飛車不躾悪態吐きのろくでもない女に惚れてんだろ」

「言ったな」

「言ったさ」

 俺とヒースがニッと笑って目配せし合うと、ファニィが床を踏み鳴らしてこっちへやってきた。

「ヒトを無視して勝手に喋んないでよ! あ、あたしはね!」

「うるせぇ!」

「やかましい!」

 そして俺とヒースの声が重なる。

「これはおれとタスクの問題だ!」

「これは俺とヒースの問題だ!」

 見事にハモる。ファニィは口をパクパクして言葉を失っている。

「お前の気持ちはすでにタスクに完全に傾いてるだろうが! 選択肢がタスク一択しか残ってないクセに、ピーチク嘴挟むな!」

 ヒースがベッドの上から怒鳴る。するとファニィが両手をバタバタさせて悲鳴染みた声を張り上げる。

「キャーッ! 本人目の前にして言わないでよ! ……って、タスク! キャーッ! 聞かないでよ、聞くんじゃないわよ! あんたなんかあんたなんかあんたなんか!」

 ファニィが真っ赤になって必死に反論するが、なんか……もはや全てが駄々っ子か跳ねっ返りの下手な言い訳にしか聞こえない。そして……クソ可愛いったらありゃしねぇ。なんなんだ、このクソ可愛い生き物。

 俺は思わず苦笑する。

「こいつにこんな可愛い反応示す一面があったんだなぁ……」

「今更気付いたのか? 可愛いだろ、おれの妹は」

 おもわずしみじみ呟く。ヒースは俺の隣で腹を抱えて笑っていた。


        3


 僕と姉様の体調も随分回復して、そしてヒース様も腕の骨折はあるものの、もうすっかりお元気になられました。なによりも、組合の皆さんを集めて頭を下げられ、そして改心するので自分を徐々にでいいので認めてほしいと、皆さんに真剣にお願いなさったんです。

 ヒース様は本来、真面目でお優しいかたです。だから組合の皆さんも最初は、ヒース様のあまりに急変した態度に少しとまどわれたものの、ファニィさんの口添えもあって、最後は拍手でヒース様を迎え入れられました。

 本当に良かったです。ヒース様はこれからもっとご自分に自信を付けていかれると思います。だから僕も精一杯、ヒース様を応援しようと思います。


 元締め様のご提案で、ヒース様を補佐官修行という名目で、ファニィさんにご指導を命じられて数日が経ちました。僕と姉様、タスクさんは、ファニィさんに会議室へ集合するように命じられました。僕たちはすぐ会議室へ向かいました。

 会議室には、ファニィさんとヒース様がいらっしゃいました。

「うん、みんな集合ね」

 ファニィさんがニコリと笑います。

「ジュラ、コート。もう体は大丈夫?」

「ええ。とても良好ですわ。お食事も美味しいですし。ねぇコート」

「は、はい。ご心配お掛けしました」

 ファニィさんが目配せすると、ヒース様が僕たちにお仕事の依頼書の複写を配ってくださいました。

「みんな覚えてるでしょ? ジーンの国宝、タイガーパール。その奪還命令を元締めより直々に受けました。出動よ」

 ファニィさんが不敵に笑います。

「例の奴の所に乗り込むんだな?」

 タスクさんがパシンと両手を胸の前で合わせました。

「そういう事。タスクとジュラが調べてきてくれたペイドって男。ジーン国境沿いのラーモルの町で麻薬を闇で売買する商人だって事が分かったの。だから相応に手強い護衛を雇ってるわ。組合でペイドの捕縛による麻薬売買ルートの壊滅、そしてあたしたちはタイガーパールの奪還。このセットで今回は動く事になるからよろしくね」

 一度にたくさんのことをこなさなければいけないお仕事です。でもたくさんお休みしていた分、一生懸命がんばらないといけません。

「町中での戦闘になるはずだから、コートとタスクは控えめにお願いね」

「お前とジュラさんで大丈夫か?」

 タスクさんの魔法だと、確かに町の中では被弾して延焼という被害が広がってしまうかもしれません。僕の火薬玉も威力を調整しないと……。

「あら。タスクも肉弾やってもらうわよ?」

「む、無茶言うな! こっちは頭脳労働派なんだよ!」

 ファニィさんの言葉に、タスクさんが慌てて身を乗り出されます。

「フライパンで殴ればいいじゃない。あんたフライパン振るの得意でしょ」

「……っざけんな! そんな恥ずかしい事、できるか!」

 タスクさんがお顔を真っ赤にして怒鳴っています。ヒース様はおかしそうにお二人のやり取りをご覧になっていました。ヒース様、すっかり明るくなられて、僕も嬉しいです。

「使えない奴ねー」

「ファニィ。そういじってやるな」

 ヒース様がタスクさんに助け舟を出されました。


 ヒース様とタスクさんは当初、どこか反りが合わないようで、とてもいがみ合っていらっしゃいました。でも先日、ファニィさんと三人で話し合いをされたらしく、その日からすっかり意気投合なさったんです。孤立なさっていたヒース様に、タスクさんは初めてのちゃんとしたご友人になるのでしょうか? それってとても素敵なことだと思います。

「夜間襲撃の予定なんだが、周辺住民は別働隊を派遣して、秘密裏に安全地域へ避難させる予定だ。だから炎の魔法でも火薬の発破でも加減無しで大丈夫だ」

 ヒース様がタスクさんに説明されると、タスクさんは鋭くファニィさんを睨み付けられました。ファニィさんはペロリと舌を出して肩を竦めていらっしゃいます。

「ファニィ、てめぇ謀りやがったな!」

「フライパンでカンカンやったら面白かったのに」

 ファニィさんは口元に手を当ててふふっと笑いました。

「焼き殺すぞ、クソアマ!」

「残念でした! あたしはちょっとくらい焦げても死なないから!」

「まぁまぁ。お二人共お元気ですわね」

 僕は嬉しくなりました。

 日常の風景が戻ってきたんです。元通りの光景が、目の前に戻ってきたんです。

 僕と姉様が毒で意識を失っている間に、ヒース様も自ら命を投げ出そうとなさって、ファニィさんもタスクさんもとても憔悴なさっていたと聞いています。いろんなことが一度にたくさん起こって、組合の中がめちゃくちゃになっていたと聞いています。

 でも今は……元通りなんです。僕、本当に嬉しいです。皆さんのこと、僕は大好きです。これからもずっと、一緒にいたいです。


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