たった一人のイレギュラー
朝霧 楓の過去話。
楓と神羅は同じ戦闘部族で、後の青年は神羅です。
あたしは気づくと、焼け野原にいた。
自分の生まれたこの星が、一面焼け野原になっていた。なんで、こんなことになっているんだろう・・
まだ九歳だったあたしには、状況の理解などできなかった。
・・・・・・どうやら昔の夢を見ていたようだ。
「・・・そうか、あたし寝ていたんだ・・・。」
目をこすり、一つ欠伸をする。
「・・・まだ睡魔がすごい・・・寝るかな・・・」
あたしはそのまま気分に任せて、もう一度夢に惚けてみた。
あたしは戦闘部族が人工の殆どを占める星に、戦闘部族として生まれた。その戦闘部族は、自身の細胞を活性化させて実体のある分身をつくりだすという能力が備わっている。
・・・はずだったのだが、あたしにはその能力が無いまま生まれてきてしまったのだ。
だけど、その代償として大きいのか小さいのかは分からないが、同じ部族の奴らよりさらに外れた身体能力を持っていた。
そしてあたしは早速、戦闘術などを叩き込まれたのだが………。
………どうも違う!あたしには、この部族独特の術が合っていないと感じたのだ。
そりゃあそうだよ、そもそもあたしは、分身つくりだす能力を持っていないのだからさ。
「もういい!あたしは一人で、独自に戦闘術を学ぶから!ついてこないで!」
あたしはそう言って、一人で独自に戦闘術を編み出したのだった。それに基づき、あたし独自の戦法も自分のものにした。
だけど、「あの日」を境として、全てが崩れた。
気づいた時にはもう遅く、すでに仲間の死体がそこら中に転がっていた。
「………………………嘘……?」
何処を見ても、死体が目に映るような光景。しかしその焼け野原の真ん中に、一人の少女と見られる人がいた。
「……あれ……。……っ、もしかして!」
あたしは走り走り、その少女の場所へ着いた。
「だ、大丈夫、ですか?早く、逃げない、と…」
息を切らしてそう言ったら、少女はこっちを振り向いてくれた。
その少女の目は、この世ならざる冷たさを帯びていた。
あたしは絶望した。同時に恐怖した。きっと殺される…!
そう思って、目をつぶった。
「…………あ…れ……?」
あたしは生きていた。、目を開けると、少女は何かを見つけたように遠くを見て、こう言った。
「……見逃す」
「………………え……?」
「早く逃げろ、殺されたい?」
あたしはその言葉に従い、その場から逃げた。
「………っ!はぁ、はぁ…」
息も切らして走った末、今更あたしは気づいた。
この星からの脱出方法が、ない事に。
「っ…!どうしよう……!!逃げなきゃ、逃げなきゃ…!!!」
尋常じゃない焦りから、汗が噴き出してくる。
そのとき。少し遠くから、少年らしき叫び声が聞こえた。あたしは驚き聞こえた方向へふり向くとそこには、大きい船のような乗り物へと走っていく少年の姿だった。
「あれ…!もしかしたら脱出できるかも…!」
あたしは走って走って、少年が入っていった乗り物にあたしも入ることができたのだった。
もう、この星には未練も何も、残ってはいない。あたしに別れを告げさせる暇を与えさせないかのように、早急に船は発信した。
「………さよ、なら、…………さよなら」
船の中で気づいたのだけど、この乗り物は、星と星を行き来する乗り物らしい。
……あたしは何処の星に、行けばいいのかな…。
途方に暮れていたら、、あの少年を見つけた。
そうだ、あの少年が降りる星に、あたしも降りればー。
生き残った仲間が同じ星にいれば、少しは安心できるかもしれない。
そしてあたしと少年は、青く、美しい星に降りていった。
「……ふあぁ…よく寝たな」
一つ欠伸をする。
いつの間にか夜になっていて、満月の月明かりがあたしを照らしてくれていた。
不意に、木の後ろに気配を感じたので、素早く後ろを確認すると、そこにはあたしの忍者のような格好と似ていて、しかし所々違う服装をした青年がいた。
「………貴方、もしかして…。」
「………大方察しはついているだろう」
「……そりゃあ、まぁ…。あたしと似てるような格好をしているのなんて、『あの日』の生き残り以外いないと思うよ」
「お前は確か…我々特有の能力を持たずして生まれたイレギュラー、だったな」
「ならどうするの?」
「お前は…皆の仇はと討ちたくないのか…?俺とお前以外、我が部族は皆殺されたんだ。……奴を…討つ気はないのか」
あたしはどうしたいのか、いまいち分からなかった。だが、ここではっきりと告げた。
「あたしは確かに奴を許せない。けれどあたしに奴は倒せない。折角見逃して生き延ばしてくれたこの命、妄りに散らせる事なんてできないもの。あたしはあたしの道を、人生を、物語を……描くから」
「………そうか。…イレギュラーといえど、存外捨てたものではない…。しかし俺は決めたのだ、」
「貴方は船の中でこう言ってたよね?」
「「奴の命は、必ず俺がって」」
「まぁでも、頑張ってね。自分の決めた事を、信じて貫き通して。だってほら、こんな言葉だってあるじゃん?」
あたしは青年を見て、笑顔でこう言った。
「信ずる者は、救われるってね」
目が疲れました、目薬さしてきますね