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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

人は、死んだら何処に行くのだろうか



魂は、消えるのだろうか



記憶は、無くなるのだろうか



生きていた時の、思い、願い、希望、全てが



無に還ってしまうのだろうか――――――――?








少女は、満天の星空の下を歩いていた

「あ、流れ星だ!」

今日は朝から天気が良かった

それは夜にも続いているらしく、雲一つ見つからない

しかし、夏とはいえ夜中の十二時

うっすら肌寒いのは否定し難い

少女はむき出しの二の腕をさすりながら歩き出した


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

時計は回り続ける



――嗚呼、見つけた

僕の、僕だけの君を

男は、手にしている包丁を握りしめた



「今日はびっくりしちゃったなぁ…。まさか、告白されるなんて!」

少女は仄かに頬を染めながら、独り言を呟いた

その手には、シンプルな白い手紙が握られている

今日、彼女が通う学校の男子生徒に渡されたのだ

彼女は突然のことに反応出来ず、無言で十秒ほど固まってしまった

なんとか思考を回復させ、改めて手紙を差し出した男子生徒を見る

身長は180~185cmの長身

顔は整っている方で、真剣な眼差しで此方を見ている

「あ…えっと、少し…待っていたはだけますか…?」

どうにか言葉を口にすると、男子生徒は快諾してくれた


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

くるくると、狂る狂ると


――告白された?

へえ、君は僕だけのものなのに?

男は、歪んだ笑みを浮かべながら歩き出した



「………?」

少女は異変を感じた

後方から小さく、しかし確かに足音が聞こえる

此方が止まるとあちらもとまり、此方が歩き出すとあちらも歩き出す

少女は早く帰ろうと思い、早足に道を歩いた


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

狂った時計は、回り続ける



――逃げられないよ?

逃がしてなんかやらない

男は、大きく息を吸うと、駆け出した



「―――!?」

少女は驚愕した

すぐ後ろから聞こえる、コンクリートを蹴る音

荒い息遣い

身も凍るような恐怖を感じ、足の回転を早め、全力で走り出した


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

回り続ける、秒針だけの時計



――逃げても無駄だ

僕はもう君を捉えた

ほら、もう捕まえた

男は、少女の手を掴み、地面に押し倒した



「い……嫌ッ !! やめてッ !!」

首筋に当てられた手

男の右手に握られている包丁

街灯に照らされて、蒼白い光を放っている

「う、ふふふ…。君を、永遠に、僕だけのものにしてあげるよ…!」

男は、右手を振り上げ、躊躇なく降り下ろした


―――カチリ

時計が、止まった

何もかもが、止まった




狂った時計は回り出す

くるくると、狂る狂ると

時間を巻き戻す―――



少女は、満天の星空の下を歩いていた

「あ、流れ星だ!」

今日は朝から天気が良かった

それは夜にも続いているらしく、雲一つ見つからない

―――コツ

足音に気付き、空を見上げていた顔を前方に向けた

そこに立つのは、真っ白のローブを被った人間だった


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

秒針が少し歪んだ



「………」

ローブを被った人間はしゃべらない

フードのすきまから見える瞳は、燃え盛る炎のように紅かった

「な……なんですか?」

「私は……」

細く、それでいて凛とした声

声色から女性、しかも同年代の少女だということがわかる

「私は、警視庁捜査零課。……この世界を壊しに来た」

一陣の風邪が吹き、少女のフードが舞う

対の白銀の長髪が宙に舞い、まるで天の川のようだった


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

秒針は、少しずつ歪んでいく


――あれは誰だ?

僕だけの彼女に何をしている?

あんな奴、僕の世界には存在しない

男は、微かな違和感を感じ、歩き出した



少女は、異変を感じた

自分たちの後方から小さく、しかし確かに足音が聞こえる

時間帯の関係もあり、恐怖を感じた少女は二、三歩後ずさった

「………」

ローブを被った少女は、無言でそちらに視線を向けていた


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

秒針の歪みは大きくなり、やがて捻れてゆく


――僕以外の人間と話すなんて、赦せないな

でも大丈夫。すぐに僕が君を、僕色に染めてあげよう

そして、永遠に僕だけのものにしてあげる

男は、包丁を構えた



「……君は、誰なんだい?僕だけのものに、何をしているんだい?」

男は、歪んだ笑みを浮かべて、此方に歩み寄ってきた

その手には、包丁が握られている

街灯に照らされて、蒼白い光を放っている

「……私は、警視庁捜査零課。貴方を生霊略取監禁の容疑で、滅しに来た」

少女は微塵も動じた様子はなく、淡々と告げた

対する男は、捜査零課の言葉に少なからず動揺したが、構えを解くことは無かった

「滅しに来た、ねぇ…。確かに僕は、亡霊だ。死んだけど、やり残した事があったからこの世界を創り、彼女を誘拐して住まわせた。だけど、それの何が悪い?それに、あんたが僕を滅する事なんて出来るのかい?」

男は、少女の体を見て言った

男が言うとおり、少女の体はあまりにも華奢で、大の男を倒せるとは到底思えなかった

しかし、少女はその言葉をことごとく無視し、左手を宙にかざした

すると、銀色の光が顕れ、凝縮し、一本の鎌へと形を変えた

「これより、滅霊を開始する」


―――カチ、カチ、カチ、パキン…カチ、カチ…

秒針は限界まで捻れ、折れた

しかし、時計は終焉を迎えるまで回り続ける



男は、目の前の少女を侮っていた

体は細く、年も若い。しかも、女だ

いくら武器を使おうと問題ないと判断した

――どういうことだ !?

しかし、思惑は外れた

少女の繰り出す技は一撃一撃が重く、反撃の隙を見いだせないほどの高速の連撃を放ってくる

――このままだと…滅される!

そう考えた男は、包丁を振りかぶり、投げた

白銀の少女の後ろにいる少女に向かって

「きゃ…!?」

しかし、その包丁が届くことは無かった

白亜の鎌に阻まれた包丁は、地面に突き刺さった

「かはっ…!」

その瞬間、白銀の少女は倒れた

何故なら、包丁と共に突進してきていた男に腹を蹴り飛ばされたからだ

男は満足気に笑い包丁を拾い上げると、先程から震えている少女の首にあてがった

「く、ふふふっ!ここまでかなぁ!?お巡りさんよぉ!?僕を滅する?ハッ!ふざけたこと言いやがって!」

白銀の少女は無言で立ち上がり、鎌を振りかぶった

「いくら鎌が長いからって、届くわけないだろう!?ハッハッハッハ!」

少女は構わず、鎌を横に薙いだ

あとわずか届かない……そう男が思うと同時に鎌が伸びた

「なっ……あ゛……がはっ!?く、鎖鎌、だとぉ!?」

鎌の柄が三つに分断され、中から鎖が伸びている

刃は男の横っ腹に食い込み、浸入し、切り裂いた

飛び散る鮮血、こぼれ落ちる包丁、響き渡る断末魔

「が、あ、ぐ、あああぁぁぁ!!!!!!」

その叫びと共に、世界が崩壊し始めた

「生人の魂を拐かし、人生の時間を奪う…。充分罪に値する」


―――カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

時計は回る

しかし、世界の終焉が近づき、文字盤が薄れてゆく



「え……周りが、世界が、消えていく!?」

少女は、驚愕した

あの男を倒した直後、世界が揺らぎ、薄れて消えていくのだ

家が消え、街灯が消え、道が消え……

もうすでに、自分が立っている足下も薄れている

白銀の少女は、此方に背を向けて立っている

白亜の鎌はいつの間にか消えていた

「ねえ!私は…私は、どうなるの!?」

聞かずにはいられなかった

もしも、このまま死んでしまったら…と考えると、恐怖で押し潰されそうになる

白銀の少女は僅かに振り返り、此方を見て言った

「貴女は、あの男に拐かされた生霊。もとの世界に戻れる」

言葉を区切り、完全に此方に振り返る

「もう、大丈夫」

その言葉を聞いて、少女は安心した

「あ、ありがとう…!」

涙を流し礼を告げると、白銀の少女は崩壊の波に飲まれ、消えていった

―――ありがとう―――

少女は心の中でもう一度呟くと、暖かい崩壊の波に身をまかせた


―――カチリ…

世界の終焉と共に、時計は壊れた

其処にはもう、何も無かった





























お付き合いいただき、ありがとうございました

今度、この話をベースにして長編を書こうと思っています


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