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ドラゴンの憂鬱  作者: 彩里きら
本編
1/15

変化

 春眠不覺曉(春眠暁を覚えず)

 一年の半分が冬、もう半分が春のこの国では、変温動物の常として寒いから動きたくない(冬眠期)は勿論の事、春は昼も夜も心地良い位の暖かさでついつい眠ってしまい、気が付けば大半の日々を寝て過ごしてしまう。

 高級食材であるジェウチェ()の美味しさに誘われてアリフィナ国の国境近くにある崖を塒として早半世紀。

 アースドラゴンの父とレッドドラゴンの母の子として生まれ、青みがかった赤(ローズ)の鱗が自慢の我は、齢二百五十六歳。うら若き乙女である。

 若いくせに五十年強、寝て過ごすなと言われそうな気もするが、我の種族の平均的な寿命は二千年。その内の大半を青年期として過ごすのだから、此れ位何の問題も無いのだ。……両親の前で胸を張って言うと怒られるけど。

 何時ぶりから分からないけれど、割と久しぶりに目が覚めて、ぬくぬくしながらそんな事を考えて、我はぐわーと一つ欠伸をする。次いで石も岩もさくっと切れる鋭い爪に気をつけながら、未だ重い瞼をこすった。

 猫のように丸くなって眠っていたため、身体中が固まっていそうな気がする。父に似て骨格がしっかりしていて大きな羽と、母ににた優美な尾を伸ばそうと力を込める。

「ぉわ?」

 変な声が出た。

 いや、それよりもおかしい。

 羽に力を込めて伸ばそうとしたのに、何故か背に無駄に力が入っただけで、折りたたまれたローズ色の羽が開く感触が伝わってこない。ぐるりと丸めていた尾を、その端麗な形が分かるようにぴんと伸ばそうとしたのに、背骨の先がむずむずこそばゆくなっただけだった。

 何ぞや。

 不審に思って瞼を開け、首を背へと向ける。

 顔に何やらよく分からぬものが被さって鬱陶しかったが、見えた身体には白い布が掛けられており、その全容は見えない。

 我の体表をすっかり覆えるような布なぞあるのか?

 布というものを使う種族の代表はヒトである。我よりも余程小さく、四足で立った時の前足ほどの背丈しか無い。このように大きな布はそうありはしないだろう。例え在ったとしても、我に掛ける必要性は全くない。冬も、アリフィナ程度の寒さでは実の所活動に支障は無いのだ。我は動きたくないから眠っているだけだ。

 可笑しい。

 思って首を元の位置に戻して、仕方なく前足をぐっと伸ばして。

「のわっ?!」

 驚いた。

 両親や同胞からべた褒めされる我の自慢のローズ色の鱗が、白っぽい色になっている。剣でも傷つかず、火に焦げることもない強固で艶やかに光る鱗が、のっぺりしている。うっすら白く健康的で鋭い四本の爪が、桃色に丸く、五本になっている。

 ちょ、我、メモタルフォーゼした覚え無いぞ?!

 思考は驚愕に満ちているが、身体はあまりの出来事にぴたりと固まってしまった。

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