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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
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シナコの逆襲

わたしだって怒る。怒りに任せて怒る。

人間はいざというときにこそ怒るべきだ。


普段静かにしてるのは、怒りのおおきさを相手に知らしめたいからだ。



堪忍袋の尾も切れる。




 

 うちに帰ってから、何度も今日の体育の時間のことを思い返していた。


あまりにもひどいので、わたしはブルーになっていた。

独り部屋の中でもんもんとしていると、無神経な怒鳴り声が階下から響いてきた。


「ごはんよー、ご飯だから。早くして。

ちゃっちゃと食べてくんないと片付かないから。早く、早く、はやくう」


お母さんが台所からまくし立てている。まくし立てれば立てるほど、嫌悪感を感じる。

こんな品のない人間はいやだな、と思う。

怒鳴るか、まくし立てるか、自慢するか、愚痴をこぼすか、それしかない品のない、

いやみなおばさん。

こんな女にだけはなりたくない。


「品子は?食べるの?食べないの?食べないならお風呂はいりなさい。夜遅くまでおきてんじゃないわよ、電気代いくらすると思ってんのっ。働いても働いても、子供にかかるんだからね。あんた大学いくんでしょっ。行かなくてもどっちでもいいの。こっちは。むしろ、公務員試験受けなさい。市役所にいって、いい人と結婚するのよ、おかあさんのいうとおりにしてれば間違いないの。あら、あんた少し太ったんじゃない?みっともないから、夕飯抜くのは正解かもね。きょうね、おかあさんね職場でね

また、あんたの高校の話になってね、小野寺さんの娘さんはいいわね、頭がよくて。大学いくんでしょう?そのために働くなら、奥さん働き甲斐があるわねえ。て言われて、鼻がたかったわ」


勝手にしゃべってろ。ばあか。

こっちはそれどころじゃない。



わたしは、ダイニングの戸を閉めて、廊下に出た。そして玄関先にある電話のダイヤルを回した。



きっと、あいつはまだ残っている。部活もあるし。

電話がつながった。事務のおばさんが出た。体育の森田先生お願いします。

おばさんは体育教官室につないでくれた。


「はい、森田です」

もっこリだ。

わたしは数秒黙った。

ちょっと長すぎた。気短なもっこリは

「森田ですが、どなたですか?」

と、威嚇するような声を出した。どきどきするのと、怒りが噴出するのと同じ瞬間に感情の波が襲った。わたしは怒りを勇気に換えた。

低く静かな声で冷静に自分の名を名乗った。

「一年二組の、小野寺品子です」


「おのでら、しなこ?だれだっけ?ああ、ぶたさん、か。どした?痩せる気になったか?ダイエットの相談か?」

瞬間わたしは思いっきり切れた。跡にも先にも目上の人間にあれほど切れた瞬間はない。


「はあ?あんた何言ってるんだよ?それが教師の女子生徒に言う言葉ですか?それって侮辱じゃないですか?かりそめにも教育者がほかの生徒の目の前で、個人の得著をあげつらって馬鹿にしてもいいんでしょうか?差別だと思います。教育委員会に直訴してもよろしいでしょうか?っていうか、てめえゆるさねえ。ばかにすんなよ。てめえ痩せてやる。やせ細って病気になってやる。それで健康状態悪くなったら校医に言ってやる、森田先生の指導のもと、適切なダイエットを行った結果、健康状態に異状をきたしましたってね」


わたしは息を切らしながら一気にまくし立てた。

いつも、おかあさんがわたしをしかるときみたいに、理不尽に叫べばいいのだ。ごねるだけごねてやる。こんなやつが教師でございます、とすましこんでいるなら、全部暴露してやる。

心の中で悪態の限りを尽くし、口でも冷静に悪態をついた。


怒りながら泣いていた。


「いや、小野寺、そうじゃない、誤解だ。おれはおまえがかわいいんだよ。つい、かまいたくなるんだ。愛情表現だ」


「侮蔑が愛情表現ですか。先生の感情表現ってゆがんでいるんですね。一応、聖職者って呼ばれてるんでしょ?なにが、聖職者だか。聖職の字間違えてんじゃないの?聖職、じゃなくて生殖、のほう。あんた、品がないよ。教師として」


「すまない、いや、そうじゃなくて、おれは、お前の健康を考えて、考慮して。だな」


「軽蔑してたよね、あたしのこと、ならやってやる。ぜったいやせてやるから、痩せたらクラス全員の前で、ぶた、といったこと撤回しろよ」


そういって、乱暴に受話器を置いた。


すっとした。




おかあさんっていつもこんな風にはれやかに生きてるんだ。



いいたいこといって、人を傷つけて、自分の言ったことすら忘れて。



わたしは始めて怒りをだれかにぶつけた。



そして、人を傷つけるのは楽しいことなのかもな。とちょっとだけ考えた。




明日も体育がある。絶対休まないで出る。


固く誓った。






その、三ヵ月後、わたしは15キロ痩せた。





ある日、体育の時間に貧血で倒れた。






もっこりは心配そうに保健室に様子を見にきたが、わたしはその姿がまるで見えないかのように

思いっきりスルーした。





わたしは、勝った。生まれて初めて、他人の罵倒に。



シナシナ、やったね


まだまだ、続きます。

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