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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
6/30

螺旋階段をくだるように

食べだしたら止まらない。

夜中に近所のコンビニに歩き、死ぬほどスナック菓子を買い、

チョコレートを買い、コーラにジュースに、

でも最後のしめはやはりメロンパンと牛乳・・・

 

 授業中もメロンパンのことを考えていた。


毎日眠くてしかたがなかった。


授業が終わると速攻家に帰り、自転車で例のパン屋に日参していた。



だいたい、いつも午後四時にパン屋の前に着く。



メロンパンは売り切れのことが多かった。



それに、そのパン屋はいつか店を閉めることが多くなり、



夏休み前には閉店の張り紙が貼られた。





夏休みはぼうっとして過ごした。



課題が山のようにあり、そのうえ補講もあった。



校外模試もあった。




わたしは、夏休みも普段どおり登校し、




お盆前まで補講に終われ、帰宅時には古びたれんがつくりの市立図書館の勉強室で



課題をこなしていた。




冷房のあまり効かない勉強室は、




白いシャツを着た男子高校生と、




紺色のベストを着たうちの高校の生徒とが、分厚い辞書を広げて




それは、ラテン語を学ぶ神学生のような熱心さで宗教的ともいえるような空気をかもしていた。




機械的に知識の習得に励んだあとに図書館を出ると




八月の午後二時の強烈な光が、ギャバで作った制服の紺色のベストの背中をじりじりと焦がした。






わたしは汗まみれで自転車をこいだ。





帰宅途中のバスどおりにあたらしく、コンビニができていた。




わたしはコンビニの駐車場に自転車を止め、パンのコーナーを物色した。




メロンパンがあった。




でも、それはすかした優等生みたいな、ビスケット生地のぱりっとした、




パン生地がふかふかとやわらかそうな




おまけにクリームが挿入してある立派なもので、





わたしが欲している、あの安っぽいすまなそうなたたずまいの




不味いメロンパンとはまるで別物だった。






わたしはがっかりして代用になるものを探した。






そして仕入れたのは





スナック菓子、かっぱえびせん一袋




チョコレート、赤い包装紙でつつまれた百円の板チョコ




アイス、何の変哲もないラクトアイスのバニラ




一リットルの紙パック牛乳




1.5リットルの炭酸飲料




それら買い求め、自転車のかごに入れたときは




もう、その食べ物を租借する瞬間の幸せのことしか考えられなくなっていた。




一週間に一度、わたしは大量に食べ物を買い求め、ものの10分でそれを全部平らげた。





わたしの暴飲暴食を止める人は誰もいなかった。





なぜならわたしはそれらの食べ物を全部自分の部屋で隠れて胃袋の中に処分していたからだ。






そうして、夏休みが終わり、二学期になる頃にわたしの体重は8キロも増えた




156センチ、55キロだった小太りの体は



156センチ、63キロの妊婦なみの脂肪のドレスをまとうことになった。





わたしには、何もない。





食べ物が食堂をとおる瞬間、その焼け付く超な甘さに没頭してるときだけ






自分の存在をかんじる。






わたしは、内側で生きている。





そしてその内側は外側につながる。メビウスの輪のように。





めくるめく熱狂的な甘さの海で果てしない螺旋階段の下方に





引き込まれていく。










過食に陥ってしまったわたしの行き着く果ては?

だれかとめてほしい。だれか気づいてほしい・・・

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