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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
27/30

sazae in 二丁目 3

めくるめくミラーボウル、安っぽい金飾のモール、クリスマスですか?文化祭のお化け屋敷ですか?

キミの瞳に恋しちゃったぜ、ベイベ


パロットから来た道を逆方向にたどった。

新宿厚生年金会館に行く一本手間の横路に曲がり、

しばらく歩いて行くと、雑居ビルがあった。

狭い階段をシローとルーとわたしの三人は縦一例になりながら登って行く。


と、赤いペンキが剥がれ落ちそうな汚い木製のドアが立ちはだかった。

そのドアを押して、シローが中に入って行く。

ルーもなんとなく、気遅れしたかんじだ。

わたしは、ずいぶん酒が入っていたので、恐れを知らない好奇心満々の子供のように、

そのドアの入り口に足を踏み入れた。


はあーい、いらっしゃーい。

さっき見たおねえのヤスコさんばりの角刈りの背の高い男性が、

腰をくねくねさせて、シローにハグした。


そして、ルーを見て、

あら、ルーさんいらっしゃい。とほっぺにキスをする。


ふたりだけ?と男は訪ね、

シローが いや、今日は三人。

とわたしの肩を抱いて、男の目の前に軽く押し出した。


あら、お嬢さんいらっしゃーい。あなた二丁目は初めて?

は、はい。

わたしは少し怖くなって小さい声で返事をする。



お名前は?


あ、この子はシナ子ちゃん。シナシナって呼んであげて。


宜しく、シナシナちゃん。


男は愛想笑いをして手を差し出したが、目が全然笑ってなかった。

そして、

シローさんのご紹介なら良いわ!

このごろ、品のない客ばっかりで嫌になっちゃう。

特に品のないのは、おかま追っかけてくるレズビアンだわねぇ。

その子たちに連れられて来るノン気の女が最低!

シナシナちゃんはノン気じゃないでしょ?

と聞かれた。


はあ?ノン気ってなんだ?

こころの中で呟く。

するとシローが、助け舟を出す。


大丈夫。この子、ルーの友達だから。


ルーさん、シローさんのお知り合いなら大丈夫よね~

楽しんでってね~。ビールでいいわねぇ。


他に何があるの


シローはまぜっかえすように言い返す。

まあ、いやあね、なんでもあるわよ。カクテルでも、酎ハイでも。

ビールが一番安いけど。


じゃあビール。


はい、ワンコイン。500円。三人で1500円ね~


男は、ビンビールの小瓶の繊を抜きながら、一本一本、手渡しした。


それにしてもものすごい店内だなあ


わたしは改めて辺りを見回した


おそらくこのビルの角部屋に位置しているのと思われるこのスペースは


窓の位置が東側と南側にあって、そこは、学校の視聴覚室からぱくって来たのでしょうか?


と思われる暗幕が張り巡らされていた。


天井は、やすっぽく、しろい埃の膜の張ったミラーボールがけだるそうな光をまわしながら


だらだら回転している。


暗幕の張られていない壁と、カウンターになっているドア側の止まり木の壁は打ちっぱなしになっていて


暴走族が高架橋の壁面いっぱいに描くようなアーティスティックな落書きが描かれている。



壁面と天井のつなぎ目には、古くなったクリスマスのモールが金、銀、メタリックな赤と青で波型に

縁取りを与えている。



退廃的なお誕生会、もしくはハロウィン、もしくはクリスマス


悪魔のクリスマス会がおこなわれてるんですか?

黒魔術のアジトですか?



学校崩壊したクラスの文化祭ですか?



退廃を安っぽく表現したら,こんな感じでいいでしょう、というくらいやるきのない


店のかざりつけだった。



さすが、トーキョウ、なんでもありだわ、こんなかんじでお金もらえるんだもん



非常に感心してしまうわたしは、ポッとでの田舎のねえちゃんだし、あまりふさわしい感じじゃあないなあ


とおもいっきり疎外感を感じたのだ。



だれかのデジタル時計のアラームが鳴り響く。


突然ひとが多くなって空気が急に濃くなった。



だらだらビールを飲みながら、音楽を聴くでもなくタバコをふかしてぼうっとしていた人々が

きゅうに活気づき、


黒づくめの一段が入ってきた。



あらー。げんきぃ?どこであそんでたのぉ


あら、六本木?たまつばき?もうはねたの?あらそうう



角刈りおねえが黒尽くめのからすの軍団のリーダーの男の子に声をかけ


いきなりハグとキスの嵐が始まった。




発展場って、こういうことさ。


シローがわたしに説明してくれた。


つまり、ここは、ホモがホモを探しに来て、恋人募集を掛ける場所、だ。




だから、しつこく聞かれただろ?


シナシナはシローとルーのお友達なのね。

ってジュンコさんに。



ジュンコさん?



ああ、そう。あの角刈りのおっさんのことさ。


ジュンコさんが、この店のオーナー。


雇われママといううわさもあるけど、あのひとがオーナーなんだよ。

まだできて五年くらいしかたってないんじゃないかな、この店。



ずいぶん詳しいんですね、わたしはシローに言った。


シローさん、夜の帝王だもん。この辺でシローさんしらないひとはもぐりなの。


シローさん、バイだからね。ルーが誇らしげに教えてくれる。



バイ?それってなんですか?


バイセクシャルのバイ、よ。オトコもオンナもいけますよってこと。



うわあああああ、くらくらくるわ。


眩暈がした。いきなりディープ過ぎる。



さっきのパロットでも十二分に異世界だったのに、なんなの、この展開


わたしがびびっていると、



ねえ、君、みかけないねえ


いっしょに踊ろう。


黒尽くめの一団のひとりがわたしの隣に来ていきなりハグしてきた。


ねええ、いっしょに踊ろう。


かわいいねえ、君、ノン気?レズビアン?


ああああ?


いきなり、キスされた。ほっぺだったけど。



あうあうあうあうあああああああ


アルコールをしこたま浴びた心臓が、ほっぺのキスで倍速で鼓動を始めた。


シナシナ、踊っておいでよ


ルーとシローが楽しげにそういって、それからふたりはかなり長いディープキスをはじめた。



君、かわいいねえ、ナイーブそう。付き合わない?


黒尽くめの男の子は、いたずらっぽくウィンクをしかけ、わたしを抱きしめた。



酔いが半端じゃなかった。


調子にのったわたしは、人格がころりとかわり、いつしか自分のほうから彼にキスを返している。



君って、以外にやるね。気にいった。


と、いいながら、黒尽くめは、カウンターに向かって



やあ、ヨーコ、元気してた?さっさといなくなってしまった。



そんなものか、わたしは妙に納得した。


あそびって、こういうかんじなのね



刺激に慣れない脳みそが許容範囲を超えて、わたしはシートに倒れこみ


爆睡してしまった。




あとのことは覚えていない。



きがつくと始発の電車にゆられ、横を見るとルーの肩があった。


悪い夢を見たんだ。


きっと、おきたら自分の部屋だ。おかあさんが怒鳴って起こしてくれる。


心底、そう思ってわたしは眠りこけた。

いきなりディープな異世界へ突入したシナコ。でもこれって現実だったのよ

ああ、自分の部屋のベッドが恋しい

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