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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
26/30

sazae in 二丁目 2

パロット=オウム

オウムのようにうるさくしゃべるヤスコさんは実は角刈りの靖男さんだった

細い路地を入る。回転休業中の花屋、古いたたずまいのコメ屋、そのはす向かいに雑居ビルがあり、二階に派手なオウムの電飾看板が見える。ルーについて雑居ビルの狭くて高い階段を上ると、分厚い一枚板でできた木製のドア

があった。ルーは恐る恐るドアを開け、わたしに振り向いた。

ちょっと変わった店だけど、ヤスコさんいひとだから。おねえだけど。

は?おねえってなんだ?わたしは頭の中をクエスチョンマークだらけにした。

ここはおねえのみせで、男の子ばかりいるけど、みんなホモだから、女の子でも危なくはないの。


何?ホモ?男の子?危ない?何が危ないんだ?

よく理解できない。


しかし、普通のスナックではなさそうなのは理解できた。


なんというか、空気が変わってる。

異世界?この世の現実的な感覚じゃない。


わたしは、異質なものに対してはわりと寛容なたちだ。

だって、わたしの存在そのものが充分異質だもの。


コマ劇場でおもいっきりリアルなおかあさんの声を聞いたばかりのわたしは

その声を裏切るべく、どんどん異世界に突入していく。


ここではない、どこか。

わたしにとってはそれがトーキョウのはずだ。


現実に生きていかなきゃならないのに、わたしはなんとなく

自分がここでうまくやっていけると言う自負心みたいなものに満ち溢れていた。

そこの空気にすぐなじめてしまう自分が怖い。


大海に解き放たれた、金魚


金魚は海でも生きれるはずだ。狭くて腐った水の中で飼い殺しにするより

ずっといい。


わたしは金魚のことを思った。


三歳のときから嫌いな金魚は、腐った水の中に閉じ込められていた

そうして、腹を出してぶざまに死に、死の重さに耐え切れなくてミドリモの浮かぶ水の中に沈んだ。


田舎で、わたしは腐った水の中に閉じ込められた酸素不足の金魚だったのだ。



不思議な場所、よるという不思議な時間、現実をすべて覆い隠す闇

二丁目の闇は深く、生暖かく、密度が濃かった。

息苦しいほどの闇の中で、わたしは急に楽になったような気がする。



ドアが開いた



いらっしゃ~い!!!



信じられないほどハイテンションなだみ声が鼓膜を打った。



あらあああ、ルーさん、おひさしぶり、きょうは?シローさんは?

シローといっしょじゃないの?


あらあら、後ろに金魚の糞みたいにくっついるこはどなたあ?


あらら、まあ、こんなぶっ細工な子はみたことないわあ

まあ、あんた、どぶすねえ。ってなに笑ってんの?


笑うしかなかった。


こんなにはっきりモノをいわれたのは初めてだった。

たしかにわたしはかわいくない。

ずいぶんおかあさんに、あんたはかわいくないと言われて育ってきたけど

他人にこう明るく、すっきりとドブスと言われたのは初めてなので面食らって笑うしかなかったのだ。


なにか、突き抜けた罵倒?の仕方だった。


その声のトーンににごりはなく、いやみもなく、遠まわしな隠微さもなく

ブスをブスって言って何が悪いの?という率直さだけが、かえってここちよく自分のコンプレックスを打ち砕いていた。


ブスは、飾る必要ないのよ、あんたブスなんだからさ、せめて笑ってなさいよ、

そういう裏メッセージがじんわりと心にしみた



そかあ、あたしブスなんだ。


すとんと楽になって

わたしはお酒を飲ませてもらった。


薄いバーボンを。はじめて飲むバーボンは芳醇な穀物の香りがして

甘い。お水がよく冷えているので、アルコールの通りが喉にひんやり心地よかった。


で?ルーさん、このどブス女はなんてお名前なの?


ん~~~

シナちゃんですう。


シナって、あんた、中国人?中国雑技壇から来たの?あら日本に売られてきたのかしらあ、いくらで買われたの?人身売買?


ってなんなんだ、この話の飛躍のしかたは



おどろく暇もなくわたしは


そうなのお、お船に乗せられて。満州から南下してきたのおお


と応戦してた



満州ってあんた、引き上げ者かい?そんなに歳いってるんかいばばあかい?


それからはいじられキャラが炸裂した。



なんなんだあああ



たのしいいいいいい。



アルコールが回る、ぐるぐるぐるぐる





回ったさきで



ルーが言った。



ヤスコさん、サザエはもう開いてるかな



角刈りだみ声のヤスコさんはちらりと腕時計を見た、高そうなダイヤがちりばめられていた。


あらあ、シナシナ、時計に興味あんの?これ?ロレックス?いやあだ、ほーんの百万くらいのやすもんなんだからさああ、じろじろみんじゃないわよっ


と言いながらもヤスコさんはうれしそうだった。


んんん、お昼まわってるから、もうじきに開いてるでしょうね、でもオープンしたてはそんなに脚が入ってないからつまんないわよ。

だいたい二時ころが発展場になるころじゃないの?あら、でも女の子はお呼びじゃないからね、このドブス。


発展場?なにそれ?


しこたまパロットでお酒を飲み、楽しい気分になったころ、

シローが店に現れた。


ルー、そろそろ行く?

シナ、もう酔っ払ったかい?


ああああ、シロー。酔った、酔った。



OK、楽しんでいるみたいだね。


では、ジュースを一杯おごるから、それ飲んだら行こうか。


ヤスコさんは、オレンジのコンクに炭酸水を入れてレモンを浮かべ

アルコール抜きのカクテルをご馳走してくれた。



はああい、いってらっしゃああい


つまんなかったら、またここに帰ってきなさいよ~



ヤスコさんは、角刈りの頭を振って、ついでに手も振って


店を送り出してくれた。



やばい、なんかはまりそう、だ。



楽しすぎる、新宿二丁目。



怪しいデビューが決定したみたいである。





今は市民権を得てるおねえだけど、当時はすんごいマイナーな存在。だけど

明るくきょうもお店に立つのよ

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