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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
25/30

SAZAE in 二丁目

トーキョーで二丁目と言えば、かの有名な新宿二丁目!


オネエとおかまとホモとノン気とたまにlesbian!

いきなりですか?というくらい、クラクラ来ます!




 

 

 

 夕ご飯は新宿の歌舞伎町のディスコで済ませた。

 ニューヨークニューヨーク、カンタベリー、歌舞伎町には二大ディスコがある。

 わたしはディスコの存在こそ知ってはいたが、こんなに便利な場所があることにトーキョーの偉大さを改めて思い知った。ドリンクもフードもオールフリー、ただなのだ。おまけにチケットは女性ということでフリーだし、こんなに気前よい場所があったら、女のこであれば、生きて行くのに困ることはない。

 

 

 生きてて良かったわあ!とその時わたしは初めて思った。

 おまけに女子で良かった!とも思った。

 わたしとルーはディスコで踊ることはなく、ただ食べて飲んだ。食べ物はみんな冷えた揚げ物やポテトみたいなものばかりだったが、わたしは食べられたら何でも良いと心底思った。

 

 貧すれば、鈍する。

 トーキョーにはものは豊富にあるが、決して質の良いものばかりではないと知るのは、住んでだいぶ経ってからのことで、家出同然に田舎を飛び出したわたしには何もかもが、新鮮で驚きの連続だった。

 

 変な服装で一心不乱に食べ物を口に運ぶ田舎モノの女の子には狼さんは誰一人寄ってこない。

 

 話に聞く以上に安全な場所であるとわたしの危機管理システムは甘く作動した。

 

 郷にいれば郷に従うべく、低くきに流れる水のように、わたしはルーのペースに巻き込まれて行く。

 

 ちょっと電話してくるね。ルーはそう言って席を立った。

 仕事が立て込んでいるシローをせかして合流するつもりらしい。

 

 ややあって、ルーは席に戻ってきた。

 

 シナコちゃん踊ったらルーはわたしにしきりに勧めたけど、わたしは踊ったことがないので断った。

 

 するとルーは腰を前後左右に巧みに振りながら、フロアに出て行った。

 

 アースウィンドアンドファイヤーの曲ががんがん流れるダンスフロアの真ん中あたりでルーは腰を激しく振ってがんがん踊り狂っている。

 

 その姿に圧倒されて、フロアにいた人のほとんどが、身を引いて、フロアはルーの単独ライブ会場と化した。

 

 短いフリルのたくさんついたスカートが、泡立て器の中のメレンゲみたいに一旦静止して見えた。

 

 曲が一段落すると、ディスコのDJが、拍手した。

 

 しばらく、音が止まった。

 あんたが、ダンサーになれば良いよ、ルー。わたしは心底感心してそう思った。

 

 まわりの男の子がルーに誘いかけているみたいなのを眺めて、スターみたいだ。と思ったわたしは、華やかさに触れたことのない、ズブの素人のトーキョーウォッチャーの自分をちょっと恥ずかしいと思った。

 

 12時でディスコが跳ねて、そこからは、ミッドナイトタウンのディープさにすっかりわたしは酔ってしまった。

 

 夏の宵のムッとする空気が、歌舞伎町を包んでいる。

 コマ劇場の周りには深夜にも関わらす、若い子たちがたむろしている。しかし、あまり品は良さそうじゃないし、賢い感じもしない。

 

 ヤンキー崩れのマッキンキンの頭のにいちゃんねえちゃんが紫系の服装でたむろっている

 

 マッキンキンに紫系の服装、お母さんがいちばん嫌がる恰好、わたしはぼんやりと彼らの行動を眺めていた。

 

 彼らは、なにをするでもなく道端にしゃがみこんで、タバコを吸っている。

 

 5、6人位のグループで、その中の女の子は紫系か、茶系の口紅をして、真冬のプールに飛び込んだあとですか?

 寒いでしょ?と声をかけてあげたいくらいの病的な顔をしている。そして皆さん例外なく痩せている。

 

 わたしの脳裏にお母さんの声が聞こえる。道端に座り込んで、ブンズ色(注・打ち身の青あざいろ。福島県、郡山の方言)の口して、外聞悪い恰好してるんじゃないよ!

 

 ちょっと、おかあさん、それ、わたしじゃないですから。

 

 だいたい、夜中までほっつき歩いて何やってんだい?他にすることあるだろう? 仕事にもつかない、学校にも行かない、なんのために、進学校を出させたんだか?お金かけて、無職じゃ、近所に外聞悪くて、おかあさん生きていけないだろう?お父さんだって、仕事場で恥ずかしくて笑いものだよ!

 情けない。共産党なんかやってて、それでなくても、上の人に心証悪くて出世できないのに、娘までわけわかないんじゃ 『小野寺さん、娘さん会社辞めたんだって?何やってるの』

 って聞かれてるんだよ!実は家出しました。なんて口が腐っても言えないだろう?ああ!外聞悪い。子供なんて産むんじゃなかった。 だいたいあんたはいつも、ぼうっとして何考えているんだかさっぱりわからないし、のらくらして、役立たずのところが親父さんそっくりなんだ! あんた見てると出世できない、家族のことも考えられない、理想ばっかり追って、理屈ばかりいいたててるお父さんそっくりで腹がたつから、叩いてしまうんだ!

 

 耳におかあさんの声が響いてくる。

 

 それはまるで、たった今、目の前で罵倒されているみたいに、鼓膜に怒鳴り声が響いてくる。

 

 ここまで逃げてきてまだわたしを否定するの

 

 突然叫びだしたい衝動にかられる。

 わたしは耳を塞いで、その場にしゃがみこんだ。

吐き気がしたのは、コマ劇場前の付近の飲み屋から流れてくる、夜の店特有の腐臭のせいではなかった。

 

 どうした?人に酔った?シナコ、夜はこれからだからね!

 シローが二丁目で待ってるからね!ここからしばらく歩くよ!

 

 ルーは汗ばんだ首筋を光らせて、さっさとわたしの前を歩いていく。わたしは置いていかれないように、慌ててあとを追った。

 

 

 二十分ほど歩いて、新宿3丁目の地下鉄の出口付近の交差点についた。

 

 交差点渡るとすぐだからね!ルーはいきいきとして言った。

信号が青になりわたしは小走りに交差点を渡る。渡りきった先のT字路を右手に折れるとそこはもう二丁目の通りたった。 夏の夜特有の濃い生暖かい風が頬をなぜた。

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