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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
24/30

高田馬場、神田川沿いアパートにて

謎のフィリピン人の謎が解けた。しかしかえってりえの謎は深まる

 お帰り。ルー。


 オトコは濃い風貌だった。


 なんというか、ビターなチョコレートを連想させる。


 黒人、とも赤銅いろ戸も違うような肌の色をして、


 体が鋼というか、堅くしまっている。


 筋肉質、といえばいいのか。


 わたしは戸惑っている。



 この人・・・・


 わたしは、りえを見た。りえはいたずらっぽく笑った。


 シローっていうの。


 それ、本名?


 本名はガリオス。ガリオス・シロー・ヤマグチ


 りえのかわりにオトコが答えた。


 日本人、なの?


 フィリピンと日本のハーフだよ。母が日本人。父はフィリピン人。


 戦争のときおじいちゃんが捕虜になって、それから日本に住み着いたんだよ。


 ずっと日本に住んでるの?わたしは尋ねた


 そうだよ


 シローは白い歯を見せて頷いた。


 ずっとトウキョウの小金井に住んでるよ。


 今は仕事でフィリピンと日本をいったりきたりしてるけどね。


 そ、そうなんですか。


 わたしは絶句した。


 りえは自分の仕事について語り始めた。


 芸能プロダクションっていってもね


 ダンサーを招聘するわけよ。


 キャバレーとかショウパブとかに、フィリピンの女の子紹介するの


 その、なんというか仲介するわけ、女の子とパブの間に入って職業斡旋するわけよ


 それって、やばくないですか?


 わたしはなんとなく、風俗の危険な香りを察してりえに尋ねた。


 うん、やばいときもある


 りえはニコニコしていった。


 最初に会社入って研修したのって、やくざの見分け方、だもん。


 うそだあ


 なんとダークな世界に足を踏み入れてしまったのだ、この娘は。


 わたしは真剣にそう思った。


 その会社って、大丈夫なの?


 大丈夫って?


 つまりさ、厚生年金保険とか、国民保険とかそういうのに入っているわけ?


 労働保険とか、福利厚生とかちゃんとしてるの?


 わたしはすごく心配になった。


 病気になったら医者にもかかれないではないか?


 何が怖いって、独りで暮らして病気になるのが一番怖い。


 だって仕事できなくなるし


 仕事できなければ、ご飯も食べられないではないか。


 いくら世間しらずのわたしだって、健康保険が大事だってことくらいはわかる。


 会社がなんわりか負担してくれて、自分もいくらか払って、それを給料から差し引いて…


 だからわたしの給料は手取り八万だったのだし…そこからうちに三万円入れてたのだし…


 りえは笑った。


 なに、それ?ぜんぜんわかんない。


 品子、頭よすぎだから、そういうこと考えすぎなのよね


 はあ?何いってんの?


 わたしは耳を疑う。


 社会にでたら、それくらいの心配と備えをしてなきゃ生きていけなくなっちゃうよ


 と、実に切実に思った。


 だいじょぶ、だいじょぶ、病院に行くときは隣のカズちゃんの保険証借りていくから。


 こないだも、歯科にいくとき借りたの。


 えええええ?


 それって、それって、詐欺じゃん?


 すごく怖くなった。


 でもりえは平然としていたので


 ちょっとすごいな、この人、と思いながらも


 ある種の、ダークなものへの憧れを抱いていたわたしは、


 ことばを飲み込んで、りえを凝視した。


 その様子をシローがほほえましげに見ていた。


 そして、りえにこういった。


 よかったね、友達が増えて。


 今夜は『サザエ』でパーティだ。


 はあ?さざえで歓迎してくれるのか?



 わたしの頭はクエスチョンマークで一杯になった。


 はあ、さざえねえ、サザエのつぼ焼き…





さざえのつぼ焼きの意味するものはなにか?

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