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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
22/30

時は流れて


地元にいたら、飼い殺される。家族の鎖にがんじがらめにされる。


危機感にとらわれたわたしは、ついに家を出た。


行き先は一路、花のトウキョウ。


家出同然に東京に出た。


福島の実家に居たら、殺されると思った。



別に肉体的な暴力を受けていたわけではない。




おばあちゃんが痴呆症(今で言うところの認知症)になり、おばあちゃんのお世話をしていた



お嫁さんと、おばさんが悪者になっていた。



おばあちゃんは、おばさんが自分の通帳を取り上げたといって居た。



おばあちゃんは、戦争で義理の息子をなくしていて、(おじいちゃんの後妻だった)



そのひとは宗一さんといったのだが、その宗一さんの遺族年金が結構な額だったらしい。



いくらだったのかは不明だが。



おばあちゃんの年金をめぐって、親族は血みどろの奪い合いになった。



お嫁さんは、「自分がお世話をしてるから、取り分は自分にある」と主張し



おばさんは、そうだと同調し、(同調したことによって、あとからお嫁さんと利益を分配しようとして



いたらしい)医大に進学したいとほざいていた、おないどしの馬鹿な従兄弟は、医大の進学資金におばあちゃんの年金を流用するように両親に働きかけ、



それを阻止そようとして、おばあちゃんの見方に回ったおかあさんは、すっかり悪者になり、



親族中から総すかんを食らっていた。



わたしは、思う。



生き物をそだてられないひとに、どうして、痴呆症のおばあちゃんを看ることができるんだろう。



おかあさんはいつでも、自分のことだけでいっぱいいっぱいなのに。



おかあさんは、いつも自分だけ正しいと思っている。



周りをひいて俯瞰してみる、という客観性に欠けている。




おとうさんはいつでも、自分の意見を言わない人で、黙って沈黙することによって問題を回避する逃げ



の能力に長けているので、おかあさんの言うことには逆らわない。



それに、この両親の最大の欠点は『自分たちは正義だ』という確信に満ち満ちていることである。



おかあさんはよく言う。嘘をついてはいけない。



人をだましてはいけない。ひとはいつでも正しく生きなければならない。




立派だ。立派過ぎて涙が出る。




その立派なひとたちはいつでも、わたしに嘘をつき、わたしを自分の見得のために犠牲にしてきた。




正しく生きる、ということは、常に、世間に対して『外聞わるい』態度をとらないということなのだ。





おかあさんはいつも、家族を虐げた。




家を掃除するのは、お客様のため、であり、おやつを用意するのは、お客様に見栄を張りたいためである。



けっして、わたしたちのために用意されることのなかった御菓子。




たまに、おいしそうな御菓子があり、食べていい?と聞くと、「それはお客様のだから」




という。




おかあさんはいつも、外のひとにどう見られるか、が生きるための指標なのだ。




だから、見栄えのいいゆかりを大事にして、見栄えのしない品子は、疎んじられた。



わたしにはわかっている。




おかあさんは、家族が大事じゃない。自分だけ大事なのだ。




自分の見得が満たされれば、なんでもいいのだ。




だから、きっとおかあさんは、見栄でおばあちゃんを看る、と言い出したのだ。




世間の人から、いい娘さんねといわれたいがために。いいことしてると気持ちがいい。




親孝行してると幸せになる。



おかあさんはそうだろう。しかし、おかあさんの親孝行ごっこに付き合わされる家族はたまったものじゃない。




おかあさんは、人のめんどうなんかみられない。



おばあちゃんの面倒をみたらかならず、わたしに愚痴をいいはじめる。




あたしは、ばあちゃんを看てるんだから、品子もあたしをちゃんと看ないといけないんだよ。




子供は親の言うことを聞くものだ。あたしもそうしてきた。




ばあちゃんの繰言をいつも一番一生懸命聞いたのはあたしだから。




ねえちゃんやにいちゃんは、わがままばかり言ってばあちゃんをこまらせるだけだったからね。




おかあさんは偉そうに言う。上から目線だ。いつも。




自分だけが偉い、自分の言うことは絶対だ。誰があんたを育てたと思ってるんだ。親に感謝しろ。




そう一方的に言われて感謝できる人がいるとしたら、ぜひお目にかかりたい。




だとしても、腐っても親なのだ。




わたしは思う。この人の腹を蹴って生まれてきたのは事実だ。




それで、いろいろ考えるのがすっかりいやになり、




わたしは、高校卒業後三ヶ月所属した地元の会社を辞めて、東京に出た。




東京には友達が居たから、そこにとりあえず逃げ込もうとしたのだ。





まだ、東北新幹線は開業してなかった。





月曜日のある日、、昼間でねていたわたしは、突然布団を上げ、




おかあさんにこういった。




今までお世話になりました。




東京に行きます。では、さようなら。




はしって家を出た。




バス停のバスを待つのももどかしく、流れのタクシーを拾った。




この日の来るのを待ちかねてたように、わたしのなかの何か、が外れた。




駅までの道のりがまぶしかった。





わたしほ自由になるのだ。





駅につき、東北本線上の息の切符を買うと、もうわたしには羽が生えていた。




さび付いた鎖の切れる音がした。




ほんとうは、もっと太い宿命の鎖がいのちの奥底に絡みついていることなど露知らずに。


















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