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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
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縁もゆかりも2

上京して、おじの家に世話になった。


なんなんだ?このうちは?


真夜中まで、だらだらお茶を飲みながら



家族でだべっている。



っていうか、こんな環境じゃ、受験のモチベーション維持できないじゃん



小野寺家は父方が岩手県出身で、母方が福島出身だった。



だからわたしのアイデンティティは、まるきり、東北人である。



だが、おなじ東北人とひとくくりにすることなかれ、



北国というカテゴリでくくっても、東北人のメンタリティは各地で異なる。



岩手県人は概して穏やかでおとなしいが、時として爆発的に情熱を燃やしたりする。



そして、少々愚痴っぽい



反面、意外と、おしゃれ感覚に優れてる。



盛岡は城下町なので、しっとりした趣があり、



ひとびとは皆、優しくて思いやりがある。



かと、思う反面、意外とシビアで、シリアスな部分もあったりして。



そうだなあ



石川啄木と、宮沢賢治くらい違いがある。



ロマンティックなところもあるしね。




福島県人は慨してまじめ




昔、盛岡の官舎といって、建設省の技官の宿舎があり、



六、六、四畳半に三畳の台所という間取りで、



六軒くらい軒を連ねている場所があった。



そこには、青森、秋田、岩手、山形、福島と



東北六県から集った家族が住んでるんだけど



それぞれ、お国柄が出ていて、とても興味をそそられる。



ちなみにわたしは、東北六県すべての方言を駆使できる。



仙台のおばちゃんに夕方、会ってこう聞かれたときはびっくりした。



「品子ちゃん、ご飯、食べたよわ?」



……よわ?



なんだ、この接尾語は?



今もって衝撃的である。



秋田の


「どさ」(どこにいくの?)


「ゆさ」(お風呂、湯に行くんだよ)


も、けっこうすごい。


青森にいたっては、もはや、日本語とはいえない。




おそるべし、東北六魂祭。





こういう環境って、ちょっと、そこですごした人間じゃないと




わかりにくいと思う。





わたしには、ふるさとがない。




生まれてから、ずっと転勤、転勤で、岩手と、福島をいったりきたりしていたから。




幼馴染とか、友達とか、そういう、人と長いこと親交を暖めるという心情が理解できない。




だから、幼少期から醒めていた。



いつかは、別れる。



出会えば、別れる。



どんなに親しくなっても、また会いたくなっても



お別れする。




その一方で、新しい友達ができるとい楽しみもあった。




こんどはどんな子と遊べるかな?




でもたいてい、わたしは独りでいた。



特に友達というものを必要としない性格のようだった。



姉妹でさえ、必要とはしていない。



むしろ、この人さえいなければ、わたしはもっと愛されたのに



という、嫉妬の対象でしかなかった。





だから、荒川区のおじさんのうちに受験で居候したときは




びっくりした。




わたしより五歳年上の従兄と、二歳年上の従姉がいたのだが、





狭い社宅のなかで、家族そろって夕飯を食べ、食後はごろごろ寝そべりながら





テレビを見て、今日一日あった、たわいのない出来事を取りとめもなくしゃべり続けている。




なんなんだ?この安っぽいホームドラマのお茶の間みたいな設定は?




わたしはなえた。



受験のモチベーションが一気に下がった。




こんなあまっちょろい人々が暮らしてる社会なんだ。東京って




って、なぜか思ってしまった。



受験なんかどうでもよくなった。




わたしは、従姉たちと、夜遅くまでテレビを見て、おばさんがパートの帰りに




買い求めてきた、不二家のケーキに舌鼓をうち、



一ヶ月の間、おじさんのうちの末っ子のような毎日を過ごした。





当然、受験は落ちた。




一ヵ月後、おじさんから、受験の結果を知らせる電話がきた。




「何度も見たけど、どこにもなかったんだ」



おじさんは済まなそうに言った。



わたしはありがとう、とお礼をいい、



当然の結果と思った。



はじめから負け戦だといのは熟知していた。




合格に必要なスキルのすべてがわたしにはなかった。




暗闇のなかを手探りでこぐ小舟。



いつも不安定で、自信もなく



あたまははっきりせず、確信というものがまるでなかった。





でも、まだ一年目だ。来年こそはきっと。




浪人するつもりだった。




しかし、



経済的に余裕のない両親にわたしを浪人させる意思はまるでなかった。






クラスメイトに、父親が同じ建設省の役人をしている子がいた。




「品子、残念だったね」



彼女は淡々と言った。



「それでも、品子が落ちて、お父さんは助かったみたいよ、うちのお父さんがそういってた」



は?



なんで、あんたがわたしの家の経済事情知ってるんだよ?



父親って、どんだけたよりないんだ?




そのとき、わたしのなかでは、家族の誰も、自分が大学に進学するのを歓迎していたわけでは



なかったのだ、と悟った。




気がつくのが遅すぎた。





わたしは、もう何でもよかった。





「約束したな、受験に失敗したら就職するって」



父は穏やかな顔をして微笑んだ。




わたしは、そのまま、右も左もわからない社会に放り込まれ、




生きるためだけに働く、という仕事の選択を迫られた。




数々の失敗、たくさんの失恋、愛情のわからないまま迎えた結婚




心の病、家庭内暴力。書こうと思えば、それだけで何百ページもの本ができる。



メンタルの解説書もできる。



だから、ここではもう何も書かない。




わかっているのは、自分には愛された記憶がまったくないことだけ。



どうしていいか、わからない。




進むべき路も、道しるべもない。

第一部、終了。第二部はいきないり30年後からはじまります。


ただいま準備中。いましばらくおまちを。

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