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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
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縁もゆかりも

 わたしはあるとき、体育着を忘れた。


女子高は便利なところで、なにか忘れ物をしたときは


隣のクラスか、下級生のところに行って、借り物をしたりする。


体育着を忘れて、下級生の文芸部の子のところにいったら、たまたまその子が


休みで、しかたなくわたしは・・・

 

五時間目が体育だったのをすっかり忘れていた。



二学期が始まってすぐのことだった。



夏休みは、亜漏が死んで、心が落ち着かなかったことや、




勉強に身を入れすぎて、異様に疲れがたまっていたりして、




このところ、ずっと寝ていなかったのだ。




深夜三時まで勉強をする。




本当は、夜11時くらいにいったん寝て、




早朝に再び起きて勉強する、というパターンがいいらしいけど、




わたしは、まるきり朝に弱いので、いったん寝たら、登校ぎりぎりまで起きれない




というハンデがあったりするので




その早朝勉強法は、まるで画餅だった。




深夜、問題集を開いて、英語の長文読解に取り組んでいると、





眠いのと、だらだら切れ目のない英文のどこにポイントを置いて訳せばいいのか




まるでわからなくなるのと、




ふとした瞬間に、窓の暗闇を除くと、暗闇の深層から、




亜漏の目玉のない不思議で悲しい絵画が浮かび上がり、




目玉のない目がじっと自分を見据えているようで




ぞわっとしたりして




夜は、つくづく、妄想がはびこる時間で




勉強するより寝たほうがよいというのがよくわかったりする。





でも、寝るわけにはいかない。





時間がないのだ。




とうにわたしは、国公立大学の共通一次の受験をあきらめていた。




全教科の得点数1000点満点の700点なんて、ぜったいに無理だ。





それがわかったときは、すでに遅し。





わたしは、国公立受験クラスを選択していて、




私立の文系受験のノウハウとか、攻略法とは、まるで別物だと知ったときには




受験に無用の数学の時間とか、選択の必要のない受験科目の授業を




受ける羽目になっていたからである。





あせる。





過去聞を解けるだけといても、まだ足りない気がする。




それで、わたしは余計に情緒不安定になり、




必須科目以外の授業中は内職に精を出していた。




体育なんて、受けてる時間なんかない。




つねづね、そう思っていた。




だから、当然、体育着なんてすぐ忘れてしまう。




その日は、サボるわけにはいかなかった。




三学年全体のスポーツテストの日だったからだ。





わたしは仕方なく、縁のクラスに出向いた。





早くしないと、着替える時間がない。




急いでいた。




下級生に縁がクラスに居るかどうか、確認すると、




はたして縁は、いったい何がおこったの?




という顔をして、廊下に出てきた。




「ごめん、体操着貸してくれないかな?」




わたしはやや、下手に出てみる。




すると、縁は、



「ええ、なんで忘れんの?


別の子にかりたらいいじゃん、


あんたふとってるからさ、


あたしのジャージが伸びきったらこまるじゃん。


それに、不器用ですぐ転ぶから、ジャージ擦り切れても困るんだよね、今日、部活あるから」



と、のたまった。




わたしは内心、くそ、と思ったが、顔にはださず、


 

おもねるようにいった。


「お願い、困ってるんだ」



すると縁は、


「あんた、高校に入ったとき、あたしに他人のふりしろ、っていったよね?


うちの苗字、小野寺ってこの辺じゃ珍しいからさ、三年の小野寺品子さんとあなたって姉妹なの?


って部活の先輩に聞かれてんだよね。嘘つくわけにも逝かないし、ええ、そうですよ、ちょっと変わっ


た人だけど。っていったら、ほんとにそうねっていわれたんだよ。呆れ顔でさ」



わたしは切れそうになったがようやくこらえて



しぶしぶ縁が差し出す体育着をひったくると、


なにも言わず、その場を立ち去った。



あんた、何様よ?



縁が呟く声が聞こえた。



あんたこそ、何様?


自分の姉をよくそこまで侮辱できるな。



かえって、笑い出しそうになる。



うちの人間はみんなそうだ。なんていうか、愛が足りない。




わたしは、また亜漏の目玉のない絵画を思い出した。




みんな、大事な何かに目をそらしてる。



亜漏の呟きが聞こえるような気がした。

愛が足りない、あいあいあい、あいがあれば~♪

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