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わたしのおかあさん  作者: 城田 直
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王国の信者

おかあさんはおばさんと仲がよくなかった。おばさんはエホバの王国とかいう偽キリスト教の信者だった。

おばさんはその信仰をやたら、お母さんに勧めた。わたしも餌食になった。

「わたしたちは神の与えられるもので満足しなければなりません」

きれいなお姉さんがそう言った。でもそのひとのだんなさんは身体障害者で、おうちはぜんぜん素敵じゃなかった、

「努力したって何になります?いずれこの世界は滅びるのですから」


っていうか、これから二回目の高校受験するせっぱつまった女の子にいうせりふか?

わたしはいっぺんにその神様が偽者だと思った。

にせものの信仰なんかいらない

 

おかあさんとおばさんはものすごく仲が悪い。

おかあさんのおかあさんは、昔のひとのくせに、姑にいじめられたから、離婚する、というくらい気丈な人だった。

おばあちゃんは、いなかから、地方都市に出てきて、おじいちゃんと結婚した。

おじいちゃんはお金持ちで、いいひとだったらしいが、おかあさんが生まれるころ、がんで亡くなった。


おばあちゃんは、苦労しておじさんふたりと、おばさん、おかあさんの兄弟を戦時中に育て上げて、

九十歳で亡くなった。



おばあちゃんとは、一緒にくらしなてなかったけど、たまにお泊りにきて、一ヶ月とかとまっていくことがあった。


はじめのころはおこずかいがもらえたり、チョコレートを買ってもらえたり、うれしかったけど、

なんだかいつも、おばさんの愚痴とか、おじさんのお嫁さんの愚痴とかで、毎日おかあさんとぐだぐだになって話してて、その話を聴きたくもないのに、わたしまでお母さんに聞かされて、

いい加減にしろよ、って思って、はやく帰らないのかなあ、そんなことを思う自分は薄情なのかなあ・・・


って自分を責めたりしたのだ。





でも、ふだん一緒に暮らしていないものどおしが、一ヶ月も同じ屋根に暮らすと、いい加減いやになる。


ゆかりちゃんはどうだったのか知らないけど、わたしは吐き気がするくらいいやだった。

胸の中がもんもんとしてものすごくいやな気持ちになるのだ。

お父さんも同じ思いだったらしく、おばあちゃんとお母さんを置いて、よくひとりで飲みに言っていたみたいだった。



家族全員の気持ちが爆発しそうになる瞬間を狙って、おばあちゃんは居なくなる。



学校から家に帰ってきたときに、おばあちゃんが居なくなっているとほっとしたものだ。

あるひ、ゆかりちゃんが暗い顔をしている。

おばあちゃんが帰った翌日だった。

「ねえ、おねえちゃん」

「なにさ」

「おばあちゃんにさ、あたしこういわれたんだよ」

「お前は、おねえちゃんがひとりだと、さみしいからもう一人産んどけって言ったんだって」

「そうなんだ」

そのとき、わたしは余計なことをしてくれたと、おばあちゃんを憎んだ。

その一言がなければ、わたしは一人っ子で、ゆかりちゃんにコンプレックスを抱くこともなかったはずだ。あの、ずうずうしいばばあが、余計なことを吹き込んで、あたしはこんなにつらいわけだ。



はっきりいって、

わたしはゆかりちゃんが大嫌いだった。





あるひ、母の姉であるおばさんがうちに来た。


聖書を勉強するといいんだよ、とおかあさんを説き伏せていた。

おかあさんは思いっきり迷惑そうな顔をして、それじゃ、品子を勉強会に遣るから。と約束した。


わたしはなんとなく、神様というものに憧れを抱いていた。信者どおしが、兄弟、姉妹、とかいうのも素敵だった。でもおかあさんは、それが気に入らないのだ。

実の姉妹である自分を馬鹿にして、赤の他人を姉妹といって仲良くしてる。あたしっていったいなんなの?とおかあさんはよく半泣きになって、わたしに口説く。



そんなこといったって、信仰は個人の自由だしいいんじゃない?それにわたしはなんとなく、この悪役のおばさんにシンパシーを感じていた。

彼女もきっと、童話の悪者のお姉さん役をおおせつかって、いやになっているのだ、と思った。




たまに、おかあさんは自分とおばあちゃんがいかに、絆が固いか、いかに兄弟のなかで自分が愛されてきたか、ということを話して聞かせた。じぶんはいつも親には従順だった。それなのに、姉はみえっぱりで、お金儲けが上手な信用ならないおじさんと結婚した。あのひとたちはずるい、すぐに嘘をついて、おばあちゃんからお金を巻き上げる、と。


そんなこと、わたしに言ってどうするというのだろう。わたしは子供なのに。そんなはなしより、わたしは自分より、ゆかりちゃんのことが大事にされている事実に違和感を覚えるのだ。

おばさんが好きなのは、おかあさんをいじめられる唯一の人だったからかもしれない。


おばさんは小気味いい。周りを省みず、自分の意思だけで動いている。十分二自己中心的だけど、偽善者のように、おばあちゃんと依存している母親よりはよっぽどクールだ。



ひそかにわたしはおばさんの悪っぽいところにあこがれていた。



それに、そんなに悪い人なのに、神様を信じているなんてそのギャップがたまらないではないか。

おばさんは、おかあさんより頭がいい人だと思う。

それで、わたしは王国の集会や、勉強会に顔を出すことを承諾した。

ひそかに、信仰をもって、バプテスマを受けたっていいとさえ思った。

おかあさんをどこかで裏切りたかったのだ。



あるひ、わたしは、勉強会でおばさんの近くに住んでいる若夫婦を訪ねることになった。

そこには数回訊ねた。聖書で学んだのは、血というものはとても不浄なもので、豚を殺したら、赤様にして体からすっかり血を抜くまでたべては いけないとか、この世の中は最終戦争のハルマゲドンで終わりが近いとか、王国の侵攻をしたものだけが、最期に、そのままの姿で復活し、永遠のいのちを得る

とか、ファンタジーも真っ青の荒唐無稽なお話のオンパレードだった。



それじゃ、生きてても何の意味もないじゃん、自殺したほうがましじゃん、とわたしは思う。

それに、ものすごく美人なのに、なんか雰囲気がゆがんだお姉さんとその、体が不自由な、普通のおじさんよりさえない感じのだんなさんの夫婦と、その人たちが住んでいるつましすぎる暮らしに、違和感を覚えた。悪いより、いいほうが言いに決まっている。それなのに、この人たちは努力もしないで、不幸に浸っている。明らかに不幸にみえるのに、不幸じゃないんですよ、という偽善に吐き気がして、わたしは二度と、そこを訪れず、おばさんとも疎遠になったのだった。

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