サクラサク
わたしは高校三年生になった。
ゆかりちゃんは3歳年下だが、わたしは一年遅れているので、高校一年になる。
どこを受験するか、 彼女は最後まで教えてくれなかった。
まさか、同じ高校に現役で入るなんて、そんなチャレンジャーではないよね?
ね……ゆかりちゃん?
わたしは高校三年生になった。
ゆかりちゃんは3歳年下だが、わたしは一年遅れているので、高校一年になる。
どこを受験するか、 彼女は最後まで教えてくれなかった。
まさか、同じ高校に現役で入るなんて、そんなチャレンジャーではないよね?
ね……ゆかりちゃん?
わたしが、ゆかりちゃんの志望先を知ったのは、出願先変更可能な期間中だった。
おかあさんもゆかりちゃんの進路変更を聞いて、腰を抜かした。
あんた、お姉ちゃんの二の舞になるよ!
大丈夫。落ちたら、二次志望先に入ればいいし、
あたし、誰かさんと違って、自分の実力熟知してるから、へましたりしないよ!
先生も太鼓版押しているし、落ちたら、そのとき考える。
命とられるわけじゃなし、たかが高校受験くらいでガタガタ言うのって、かっこ悪いじゃん。
誰かさんは、家庭教師とか、塾とかさんざん騒いで、挙句、やり直しさせたりして、
かーなーりー、コストパフォーマンス高かったね…
その点、あたしは安上がりで、脳みそもフットワークもかるーい、から、
どーぞ、心配しないで 。お、か、あ、さん。
相変わらず、イヤミなやつ。口悪いし、わたしの事、バカにしてるし。
わたしはムッとして、自室に引っ込んで、大学受験の赤本を開いた。
国公立大学はどう考えても難易度がたかった。
共通一次(なつかしい響き)の突破口を開く鍵で一番
難航不落な関所。問題は数学だ。
選択科目の理科は物理と化学をスルーして、なるべく、数字を遠ざければ問題ないが、
数学は、受験必須科目だ。
数ⅡBとか、数Ⅲとか、理解できるアタマではないので、
当然、数Ⅰを選択するわけなのだが、
どうして、どうして、こんなに飛躍的な論理的思考回路を強いられるの?
本当に、落とすために問題作っているのね…。
試験問題作ってるのが、大学教授だか、文部省の官僚だがわかんないけど、
こっそり刑務所で問題印刷してるんでしょう?
なんか、本当に試験って存在そのものが隠微であやしくて、
うんざりしてしまう。
つまりは、こうだ。
大学行って、専門知識を身に付けて、
それなりのステイタスを手に入れる、人種なんて、
一握の砂でいいわけだ。
大学入試は、きっと、国家戦略なんだ。
国民はできるだけ、バカな方が、
国家を影であやつる官僚たちが(間違っても政治家、ではない)
有利な条件で、法改正出来たり、好き勝手に租税を搾取できるわけで、
官僚の仲良しグループの予備軍は
できるだけ、試験問題の小銭かき集めが、うまい、
重箱のスミつつくのが、趣味って言うような、セコくて、
性格が悪いヤツじゃなきゃ点数取れないように、仕組んであるわけなのだな……
わたしって、正直モノだからなあ……
中途半端な正直モノで、箸にも棒にも引っかかった試しがない。
そのとき、思いっきり上から目線の
ゆかりちゃんの(笑)が脳内のスクリーンにどアップで写し出された。
何がコストパフォーマンス高かったね…だ!
ゆかりぃ~、落ちろ、落ちろ、
駅前の、おかあさんが健康器具売ってるテナントが入ってる、
月賦の○井の12階から、思いっきりバンジーするみたいに、落っこちてみろー。
しかし、3月半ばの合格発表の日、
こっそり散歩に出るふりをして、自転車を出したわたしは、
試験の合格発表が張り出される5分前に学校の体育館前に行き、
そっと様子を見まもっていた。
A1サイズの模造紙を横長に貼り付けた紙を張り出している、
事務のおばさんの後ろ姿を認めると、
すかさず走り寄って、 受験番号と名前を探す。
事前におかあさんに確かめた番号は35番。
……30、31、32、35……
35番小野寺縁!!!
あったじゃん……
そのとき、わたしは 三年前、この同じ場所で
自分の番号がはじき飛ばされていたあのときの
なんとも云えない気持ちとうりふたつの感情を抱いてしまった。
振り向くと背後に彼女がいた。
「小野寺縁、ありましたねぇ」
わたしが引きつった笑いを向けるとゆかりは、おそろしく褪めきった表情で
冷たい声で言った。
「なんで、あんたがここに居るの?」
わたしは強張った顔でこう言い返した。
悪かったね…
これから、学校でわたしを見かけても声かけるなよ。
他人のふりをしてね。
あんたなんか、妹だと思ったことなんかいちどもないから。




