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マイ★スター  作者: みっち~6画
第1章 レオ・パーク
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⑦客商売の適正。

「そんな目で見るのは、よせ。いいか、レオ。おまえが人付き合いを苦手にしているのは、よく分かってる。一度だって旅人を引っ張ってきたことなんか、ないものな」

 養父のことばは、血を分けた愛娘マリョーシュカの自慢であふれている。兄の目を通しても、マリョーシュカの笑顔はかわいらしく、まばゆく見えた。

 友人らとおしゃべりに興じているだけで、彼女は旅人に声をかけられる。そこで生家が宿屋であると切り出せば、話は早い。声をかけやすそうな旅人の物色から始めるレオとでは、最初からして違うのだ。

「おまえ……うまくいかないことは全部、田舎のせいにしちまっているんじゃないのか」

 養父の声が、ただっ広い店内に響く。母はいそいそと妹を連れて奥に引っ込んでいった。

「こんな田舎にいては何もできないなどと考えるのは、よせ。だれにだってそういう時期はある。それを乗り越えて、みんなどうにかやっていくんだ」

 肉付きの悪い丸い背の上を、するりと冷たい汗が滑っていく。レオが緩慢に顔を上げると、養父は似合わない笑みを作って浮かべた。

「やってみれば、田舎の宿屋もそれほど悪くないと思えるかも知れん。続けていれば、それなりに楽しみも出てくるだろう。それにな、ここは亡くなったおまえの父さんが始めた店じゃないか。息子のおまえが継がなくて、どうするんだ」

 レオの実父が死んだのは、今から十三年も昔の話。レオが二歳のときのことだ。屋根の修理をしていて、そのまま足を滑らせて転落した。くぎを踏んづけても平気な顔で歩いていたという剛毅な人の、あっけない最期だったのだという。

 父の話を持ち出しても顔色ひとつ変えないレオにため息をつくと、養父は片まゆだけを器用に持ち上げてみせた。

 胸がざわめく。レオの苦手なしぐさだった。そうやって見られるうちに、まるで心の中が透けていくような気持ちになるのだ。

「だんな、こっちにも酒を頼まぁ」

 ガス・ダイ・レンジの注文に、飲みすぎだとかなんとか口を挟みながら養父が立ち去ると、レオは改めて店内をうかがった。

 朝食を取っているのは、ガス・ダイ・レンジが入り込んだ旅人の輪だけ。あとは、近所の顔見知りが幾人か、安酒をちびちび飲んでいる。街から程近い場所に温泉の沸いている村があるが、そこの宿屋は、ここよりもずっとお客でにぎわっているのだと聞く。

「これをどうにかするなんて、おれには無理だ」

 早々にあきらめるのは、何も悪いことばかりではないはずだ。

「人には適正ってものがある。おれには客商売なんて、できそうもないよ」

 肩を落とすレオ。たてがみのような髪に手をやり、無茶苦茶にかき回した。

 広場が歓声でにぎわっている。マリョーシュカの甲高い声が、はっきりと聞こえてきた。どうやら水汲みをしているらしい。あでやかな花を飾った髪をかき上げ、ころころと陽気に笑い転げている。

 昨夜の夢の光景を思い返し、レオは唇をかんだ。あれは本当に夢なのだろうか。現実ならば、きっと……。



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