⑦客商売の適正。
「そんな目で見るのは、よせ。いいか、レオ。おまえが人付き合いを苦手にしているのは、よく分かってる。一度だって旅人を引っ張ってきたことなんか、ないものな」
養父のことばは、血を分けた愛娘マリョーシュカの自慢であふれている。兄の目を通しても、マリョーシュカの笑顔はかわいらしく、まばゆく見えた。
友人らとおしゃべりに興じているだけで、彼女は旅人に声をかけられる。そこで生家が宿屋であると切り出せば、話は早い。声をかけやすそうな旅人の物色から始めるレオとでは、最初からして違うのだ。
「おまえ……うまくいかないことは全部、田舎のせいにしちまっているんじゃないのか」
養父の声が、ただっ広い店内に響く。母はいそいそと妹を連れて奥に引っ込んでいった。
「こんな田舎にいては何もできないなどと考えるのは、よせ。だれにだってそういう時期はある。それを乗り越えて、みんなどうにかやっていくんだ」
肉付きの悪い丸い背の上を、するりと冷たい汗が滑っていく。レオが緩慢に顔を上げると、養父は似合わない笑みを作って浮かべた。
「やってみれば、田舎の宿屋もそれほど悪くないと思えるかも知れん。続けていれば、それなりに楽しみも出てくるだろう。それにな、ここは亡くなったおまえの父さんが始めた店じゃないか。息子のおまえが継がなくて、どうするんだ」
レオの実父が死んだのは、今から十三年も昔の話。レオが二歳のときのことだ。屋根の修理をしていて、そのまま足を滑らせて転落した。くぎを踏んづけても平気な顔で歩いていたという剛毅な人の、あっけない最期だったのだという。
父の話を持ち出しても顔色ひとつ変えないレオにため息をつくと、養父は片まゆだけを器用に持ち上げてみせた。
胸がざわめく。レオの苦手なしぐさだった。そうやって見られるうちに、まるで心の中が透けていくような気持ちになるのだ。
「だんな、こっちにも酒を頼まぁ」
ガス・ダイ・レンジの注文に、飲みすぎだとかなんとか口を挟みながら養父が立ち去ると、レオは改めて店内をうかがった。
朝食を取っているのは、ガス・ダイ・レンジが入り込んだ旅人の輪だけ。あとは、近所の顔見知りが幾人か、安酒をちびちび飲んでいる。街から程近い場所に温泉の沸いている村があるが、そこの宿屋は、ここよりもずっとお客でにぎわっているのだと聞く。
「これをどうにかするなんて、おれには無理だ」
早々にあきらめるのは、何も悪いことばかりではないはずだ。
「人には適正ってものがある。おれには客商売なんて、できそうもないよ」
肩を落とすレオ。たてがみのような髪に手をやり、無茶苦茶にかき回した。
広場が歓声でにぎわっている。マリョーシュカの甲高い声が、はっきりと聞こえてきた。どうやら水汲みをしているらしい。あでやかな花を飾った髪をかき上げ、ころころと陽気に笑い転げている。
昨夜の夢の光景を思い返し、レオは唇をかんだ。あれは本当に夢なのだろうか。現実ならば、きっと……。