⑥覚悟。
「いい機会だわ。今日こそはっきりさせましょう。おまえはどうして、首都の大学に行きたいなんて、考えちまったんだい」
それではまるで、犯罪者を問い詰める役人の言い草だ。
レオは目を伏せる。この家を出たいだけなのだと、きっぱりと言い捨てられたらどんなにかすっきりすることだろう。
店は、妹が継げばいい。レオよりもずっと客のあしらいがうまく、計算も得意なのだから。
「なんだい、その顔は。前にも言ったろう? 心配することないよ。仕事は少しずつ、覚えていけばいいのさ」
レオの胸の内を見透かすように、母は声を張った。
「お義父さんも、気長に教えてくれるはずさ。それともなにかい、ここを継ぐのが嫌だなんて言い出すんじゃないだろうね」
まゆをしかめた妹が奥から戻ってくるのを見届けて、母は視線を養父のほうに滑らせた。まずいな、とレオは心の中の警報をいっそう強くかき鳴らす。
「レオ。いくら田舎の宿屋を毛嫌いしても、おまえにはその選択肢しか残ってないってことを、忘れるな」
養父は大皿を棚に戻しながら、なんでもないことのようにさらりと告げる。
「大学にやる余裕なんぞ、この家にあるものか」
レオはむきになって立ち上がった。いすがぎいぎい小うるさく鳴ったが、構わなかった。
「働くよ。首都に出て、働きながら勉強するんだ」
視線の向こうで、ガス・ダイ・レンジが、にやりと犬歯をむき出したのが見えた。
「働く?」養父の肩が、大げさに上下する。
「何をして働くつもりなんだ。当てはあるのか?」
冷静に問われると、答えの用意のないレオはことばに詰まる。
「なんでもいい。とにかく働くんだ。お金が稼げるなら、キツい仕事でも、なんでもする覚悟もある」
「……覚悟ねえ」
鼻先でふん、とせせら笑った養父は、客から受け取ったしわしわの紙幣にゆったりと目を落とした。
「いいか、レオ。夜じゅう本を読んで、昼まで眠っているようなおまえにはまだ分からないかも知れないが……、働くっていうことはそんなに簡単なものじゃないんだ」
ため息が漏れる。
「おまえ。また学校で、人の話も聞かずに絵ばっかり描いていたんだってな。いくらマースティン先生がほめてくれようが、試験でいい成績を取ろうが、そんなのは認められない。首都に行きさえすれば、楽な仕事がわんさか転がっているとでも思っているのか? 道行く人が皆、親切に金貨をくれるとでも?」
――オマエニハ、ムリダ。
養父の目が、レオに語りかける。
絶望に彩られたひとみで、レオは養父を見上げた。