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マイ★スター  作者: みっち~6画
第3章 レオと赤目
56/56

56理想の姿。

 ヒドラを追って次の間に入ると、鉄道やらなにやらの模型の置かれた部屋に出た。その様子から察するに、ここがリヒャルトの部屋なのだろう。

 寝台に添えられた小さな机には、薬の山ができている。壁じゅう張り巡らされた書棚には、レオがうらやむほどの本が並べられていた。レオに本を貸し与えてくれていたジャスパーでさえ、こうまでは所持していないだろうと思われた。

 医学書、政治の本。または、旅行記。自伝に物語、何かの説明書までもが、所狭しと積まれている。

「なんて言うか……いかにも病弱で、部屋の外には出られませんって感じだな」

 ヒドラの素直な感想に、はにかんだだけで、レオは答えなかった。

 そろそろ窓辺に近づいていくと、薬の山の下から、どこか見覚えのある袋が顔をのぞかせているのに気づく。すばやくヒドラが手を伸ばした。

「ああ、ちょっと見てみるだけだって。……何の皮だろうなぁ。きっと、これもお高い品だぞ?」

 ヒドラはうやうやしく両手で袋を持ち上げ、おどけたようにレオの前に掲げる。

「やめろって」

 笑いながら押しのけようとして、レオの指が止まった。

「ちょっと待って、よく、見せ……て……」

 見覚えがあった。つい最近だ。あまりにも不似合いな場所で見たものだから、よく記憶していたのだ。

「それ、同じものを見た」

「どこで?」

 ヒドラがのんきな声を上げる。

「……下水道」

 レオは弾かれたように顔を上げ、部屋の中をもう一度見渡した。

 異国の物語に目が止まった。銀色の髪をなびかせている男の挿絵が、ぼやけた風合いで描かれている。

 意識的に、息を吐き出した。もう一度大きく、吸い込む。

「なぁ、ヒドラ。この部屋の住人があの扉の前に立ったとしたら、なんて願うと思う?」

「そりゃぁ、健康で人望もある立派な人物。……そうだなぁ、赤目みたいなカッコいい大人になりたいんじゃないのかな」

「ああ。そうだと思う、おれも」

 ぼやりとした不確かなものが、レオの胸の中でうずまいた。

「どうした?」

「いや。もう帰らないと」

(そう言えば)

レオは唇をかんだ。

――旅人に大袋を盗まれたのを知っている人は、もうひとりだけいる。

「リヒャルトだ」



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