54屋敷の下見。
レイダー、と書かれた屋敷を見上げ、レオとヒドラは感嘆のため息をもらす。
朝日を受け、きらきらと反射する門柱の飾りひとつ取っても、どれほどの価値があるのか分からない。
野菜売りの荷車を引いたメイジャーのあとについて、レオとヒドラは、先ほどから何度も屋敷の前を行き来していた。
「おい、何度来られてもだめなものは、だめだ」
門番の大男が、メイジャーに向けて言い放つ。
「でもダンナ、うちの野菜は新鮮で安いって評判で……」
「いらんと言ったろ! それに、なんだ。どこが新鮮だと? こんなところでうろちょろしないで、さっさと市場まで行ってきたらどうだ」
最後の念押しに、メイジャーは門番に向けて愛想笑いを浮かべた。
「この屋敷のだんな様は、本当にすぐに出かけちまうんですかぃ? 奥様は? 奥様に聞いてみておくれよ。うちの野菜を食べれば、病気でもなんでもすぐに治っちまいますぜ?」
門番は、「そうか」とわずかにまゆ根を曇らせる。
「その話が本当なら、坊ちゃまに食わせてやりたいもんだが……」
「ご病気なのかい? だったら、このニンジンを食わせてみな。きっと良くなるから」
だがなぁ、と門番は下唇をかんだ。
「ここの奥様は料理なんてなさらねえし、料理人はいつでも自分で市場に買い付けに行く。だんな様だって気難しいお方で……」
自ら言い過ぎたと気づいたのだろう、門番は急に咳払いをするとメイジャーの後ろに突っ立っているレオとヒドラに向き直った。
「まぁ、とにかく。カボチャもトマトもいらないよ」
「ニンジンだって!」
ばたり、とメイジャーの鼻先で門が閉じられる。
「……ちぇっ。まぁ、いいか。まぁ、ここに病気の息子がいるってことは分かったな」
ぶつぶつこぼしながら、メイジャーはさっさと荷車を押しながら帰っていった。取り残されたレオとヒドラは、ぼんやり屋敷を見つめる。すると、先ほど閉まったばかりの門が開き、馬車が出てきた。
「豪華な馬車だな」
ヒドラが、あきれたような声を上げた。銀色で統一された内装も華やかで、日の光を受けてきらきらまたたいている。
「あれ? あの馬車、どこかで……」
弾かれたように顔を上げるレオ。馬車の小窓にほおを寄せていた少年と、まともに目が合ったのだ。少年は驚愕のまなざしをレオに向けたまま、口をぽかりと開けた。
「アイツだ! ……リヒャルト。ここ、アイツの家なんだ」
レオの前に現れて、傲慢な態度で忠告してきた、あの。
「それにしても。なんだろう、今の顔」
リヒャルトを乗せたまま、馬車はレオとヒドラからどんどん離れていった。