53獲物。
その夜。レオは硬い石畳の上で、何度も寝返りを打った。赤目と仲間の幾人かが仕事をする間、レオたちは交代で宿屋を警戒していた。初めに見張りに立ったあと、レオは植え込みの影で丸くなって眠った。
相変わらず硫黄の匂いが辺りに漂い、レオは懐かしさに心躍らせる。祖母の湯治の付き添いで足しげく通った温泉は、まったく変わりなくレオを迎えてくれていた。
「レオ、レオ。起きろ?」
優しげに肩を揺すったのは、ヒドラではなかった。
「赤目?」
彼の大きな手に抱えられていたのは、レオの盗まれた……大袋。ありがとう、とレオがつぶやくのを満足そうに見やり、赤目は立ち上がった。
「簡単すぎて、物足りないな」
興奮したように赤い目を輝かせる。
「次の獲物をねらおうか」
月が、天高く昇っている。
仲間たちが次々に赤目の元に集うのを、レオはぼんやり目で追った。
――なぜ。レオの家の事情に、彼はこうもくわしいのだろう。
「こっちに来い、レオ。今度は総出でかかる大仕事だ」
「ああ……」ヒドラの声に、あいまいな笑みを返す。
――なぜ。
「レオ!」
つぃ、と赤目の腕がレオに伸びた。
「来い」
その手を、取ってもいいのだろうか。理由の分からない奇妙な不安が、レオの指先を戸惑わせている。
「待たせたな! 地図を持ってきたぞ、赤目」
どこか聞き覚えのある声が、どかどか近づいてきた。ハッとしたレオは、そっと胸の前で手のひらを握る。
「メイジャー?」
赤目からの荷物をヒドラたちに分け与えていた、彼だ。レオたちから少し離れた石畳の上で立ち止まり、彼は赤目の指示を待った。
確か彼は扉をくぐっていないはず。いぶかしげに見つめていると、赤目は懐から紙片を取り出し、何事か書き付け始めた。それを、垣根の上に置く。わずかな間を置いて、それをメイジャーが取り上げた。
目を滑らせ、こくりとうなずいてから、メイジャーは来たときと同じようにするりと街道の向こうに消えていった。
「彼との連絡は筆記で行う」
赤目はレオに向かって説明すると、今度はヒドラたちに向き直った。
「次の仕事が決まった。首都には強欲な判事が住んでいる。今夜の獲物とは……格違いの大物さ」