50運命の再会。
腹の膨れたヒドラは、上機嫌でレオの前を歩いている。そのたくましい上腕が、街角の一画を指し示した。
「あの廃屋の地下に……」言いかけたヒドラは、驚いたようにことばを切った。そちらに目を移ろわせていたレオもぽかりと口を開け、次の瞬間には激しくむせ返ってしまう。
やぁ、と片手を上げた男は銀の髪を風になびかせた。
「……赤目」
古れんがを積んだ壁に背を持たせかけ、赤目の隻眼がレオを見つめている。
「おれ、おれ……」
ことばにつまるレオの背を、ヒドラが優しくなでさすった。それを赤目が、ほほ笑みながら見守っている。傲慢さも冷たさも、まるでない。やけに親しげに思えるのは、ひいき目か。
「カギのこと、ヒドラに聞きました。これはおれの養父が、隠し持っていたもので……」
首から絵筆を外そうとするのを、赤目は片手を上げて制した。
「そのまま、持っていてくれないか」
「でも! とてもとても、大切なものなのでしょう?」
そうだね、と赤目は穏やかに同調する。
「だからこそ、君に持っていてもらいたい。……いや、こう言ってしまえば聞こえはいいが……うん……そうだね、正直に話そう」
赤目はふたりを、薄暗い下水道へと案内した。延々続いているのかと滅入りそうになる長い道のりを歩いていくと、突如として開けた場所に出た。
中央に木製のイスが置いてあり、不自然なほど真新しい皮の包みがひとつだけ置かれている。
「ここがおれのねぐら、さ」
赤目はレオの反応を楽しむように目を細め、おどけたように片手を胸に、もう一方を翼のように広げた。
「すごいんだ! ここから、どこへでも行けるんだぜ?」
得意げなヒドラが、首を突っ込んでくる。どこからか、笑いさざめくたくさんの声が聞こえてきた。この先のどこかに、仲間たちがいるのだろう。
「……カギはね」どこか残念そうな響をにじませながら、赤目はレオを見下ろした。
「その持ち主を、自ら選ぶのさ。だから、無くしてしまったということは……次の持ち主を決めたのだろう」
すぐ横で、ヒドラが息をのむのを感じる。
「レオ・パーク。君がそれだよ」
「でも!」不安げなレオの両手をしっかりと握り、赤目はしゃがみ込んだ。
「君は絵を描くのかい? カギはね、持ち主に合わせて姿を変えていくんだよ」
小さな絵筆のモチーフ。
「これが……おれの?」
こくり、と小さくほほ笑んだ赤目の表情には、どこか困ったような影が混じり込んでいる。
「協力して欲しい。君に。まだ、オレたちは……カギの力が必要なんだ」