表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイ★スター  作者: みっち~6画
第1章 レオ・パーク
5/56

⑤少年の夢。

 大きすぎる肉をかみ切ろうと躍起になっていると、常連客のガス・ダイ・レンジと目が合った。彼は黄ばんだ犬歯をむき出しにして、レオに笑いかけてくる。

「そんなにたくさん本を読んで、おまえさんは何になるつもりなんだ」

 ぎくりとした。その話題は常に、養父とのいさかいの種となっていたのだ。

 かみ切ることをあきらめたきじ肉をごきゅりと丸飲みにして、さじごしに養父の姿を仰ぎ見る。ひょうたんを削ってこしらえたさじの丸い輪郭に沿い、養父のとがったあごがいっそう鋭く突き出して見えた。

「成績だって、学校で一番だっていうじゃないか。マースティン先生が、あちこちで触れ回っていたのを聞いたぞ」

 目を伏せて、木製の机の滑らかな曲線を指先でそっとなぞる。ガス・ダイ・レンジは、畳みかけるようにして、身を乗り出してきた。

「そんなに頭が良いのなら、首都の大学だってねらえるんじゃないのか。大学を出さえすれば、なんの職にだってつける。人生、変わるぞ? なぁおい、小遣いは足りているのか。勉強するには、それなりに必要だろうに」

「いや、それは……」

 慌てて、酒臭いごま塩を散らした口元に手を伸ばした。

「レオ」

 養父の硬い声が頭上に降る。……遅すぎた。

「おまえ、まだあきらめてなかったのか」

 田舎の宿屋や居酒屋を継ぐのに、なにも大学まで出る必要はない。それが養父の持論だった。

 養父は靴職人として身を起こした人で、若くして親方の家に住み込んで働いていた。そのため、彼には学問をする時間が持てなかったのだという背景があった。

「そ、そ、そうだよな、ディゴロのだんな。わざわざ首都の大学だなんて、大金をどぶ川に捨てちまうようなもんだしな。な?」

 赤ら顔の酔っ払いは、雲行きが怪しくなったと見るや、すぐさま養父に肩入れした。そ知らぬ顔でレオを裏切り、杯に残った白濁酒をぐびりと飲み干し離れていった。

 彼が見知らぬ旅人の輪に入り込み、再び酒を飲み始めたのを確認して、レオは薄く笑う。いちいち酔った男の大口に振り回されていては、この家で暮らすことなどできはしない。

「レオ、お義父さんを困らせるんじゃありませんよ」

 籐編みのかごに山ほど白布を詰め込んだ母親が、額に細いしわを刻んで顔を出した。父親違いの妹マリョーシュカもいっしょだ。彼女はレオを見るや、すぐに吹き出すようにして頭をのけぞらせている。

「お兄ちゃん。大学なんか目ざす前に、まずその髪をとかしたらどうなの」

 獅子のたてがみのような黄金色の髪に手をやって、レオは「うるさいな」とやり返す。マリョーシュカは桃色の唇から、小さな舌を突き出して顔をしかめた。

「ふたりとも、おやめなさい」

 たしなめるような声を上げ、母はマリョーシュカに白布を持っていくように言いつけた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ