48世界の果て。
ヒドラが破顔した。
「レオ。おまえは、親父さんのような強い大人になりたいんだな」
ゆっくりと息を吐き出す。
「それは、もちろん。父さんが死んで……でも、おれはいつでも父さんのことを……」
はた、と顔を上げる。
「それじゃあ、ヒドラ? おまえは、男になりたいのか?」
「強い男、だ」
念を押すように言い直し、ヒドラはレオの腕を引いた。
「メシでも食おう。付いて来いよ」
「待って、もっと説明が欲しい。どうしておれは……おれたちがこんなことになったのか」
いくつかの店を物色しながら、ヒドラは「もちろん」と軽い調子でうなずいた。
「説明はする。納得いくまで、話してやるよ。でもな、腹の虫を黙らせるのも重要な仕事だ。なんせ、あんたのために熊みたいな大男と立ち回ったんだぜ?」
「……お義父さんはどうなったの」
だるそうに目を伏せて、ヒドラはにやりと口元をつり上げる。
「パイプが破裂したのに驚いて、さっさとどこかに逃げていった。もういないよ」
「そう」
レオは小さな絵筆を、首から提げたまま指し示した。
「これ、がカギなのか?」
「そうだよ。世界の果てまでも行ける、不思議なカギさ」
「赤目も探しているの?」
そうだよ、とまたもヒドラは破顔する。
「元々は赤目が所有していたらしい。その前は、また別のだれか。ちょっとしたことで手放しちまって、それをあの熊みたいな男が拾ったんだろう。それをまたおまえが持ち出したってワケさ」
レオはいぶかしげにまゆをひそめた。
「どうして、そこまで知っているの」
「彼に聞いたからさ」
――赤目。
レオは注意深く辺りを見渡し、行き過ぎる人びとを観察した。
「大丈夫。だれも聞いちゃいないよ」
「どうして断定できるんだ」
ヒドラは答えず、代わりにうまそうな匂いのする店屋の前で仁王立ちになった。
「この店にしよう! ちょっと混んでるけど……まあ、いいだろう。なんでも食べてくれ」
両手を広げるヒドラは通行人のじゃまになっている。慌てたレオは「分かったから」とつぶやいて、ヒドラの腕を引いた。
「そんなに大声を出さないでくれよ」
ただっ広い通りには、機嫌よさそうに高笑うヒドラの声だけが響いている。