47変身。
「やぁ、調子はどうだい?」
扉を抜けると、また声がした。レオは身を強張らせる。
「え? あの……ここって……」
声の主は、灰色の髪をした例の青年だった。たくましい腕を交差させて組み、レオを見つめている。
「ここは首都だよ。熱湯の降った路地裏から……そうだな、一ブロック先かな」
そうさらりと言う青年の後ろで、扉が完全に閉じる音が響いた。
たくさんの客を乗せた乗合馬車が、がたがたわだちを越えて角を曲がっていく。
「おれは、レオといいます。レオ=パークです。さっきは、ありがとうございました」
目を泳がせたまま、それでも頭だけはしっかりと下げる。
「遅かったなぁ、おまえ」
やけに親しげな青年の表情に、レオはひるんだ。
「あなたはだれなんです?」
「オレ? ヒドラだよ、ヒ・ド・ラ」
「……はい?」
だからヒドラだって、と青年はなおも続ける。レオは改めて青年の顔を凝視した。言われてみれば確かに、その灰色の髪とひとみにはどこか面影がある。それでも、この筋骨隆々とした青年がヒドラであるわけがない。
「おれの知っているヒドラは、ちっちゃくて、ぴょこぴょこ飛び跳ねて歩く、なんて言うのか……その、もっとかわいらしいやつだよ」
青年が、目に見えて鼻白んだ。
「おまえ! ばっかじゃねえの? 何、言ってるんだよ」
その口ぶりと表情もまた、ヒドラによく似ている。
「ねえ、本当に君……ヒドラなの?」
「そう言ったろ」
ヒドラは女だ。それも、レオたちよりも一回りも二回りも小柄な。混乱するレオの肩を、ヒドラを名乗る青年がつかむ。
「分かる、分かる。初めはオレもそうだった。何がなんだか理解できなくて……でも、こうすれば、一発だったよ」
強い力で引き上げられ、レオはガラスのはめられた居酒屋の窓の前に立たされた。
――父さん?
すでに亡くなったはずの実夫の驚いた顔が、レオを見つめている。
「どうしてここに?」
「違うよ」ヒドラが優しげな声を上げた。
「おまえだよ。レオ=パーク。あそこに映っているのは、おまえ自身だ」
広げた両手が、自分のものより大きい。眼前に広がる視界が、いつもよりも高い。惑って振り絞る声音も低く、うなるように響いている。
「おれ、まるで父さんみたいに……」