45失踪と捜索。
「なんだ? おまえ、何を見て……」
狂気に走っていた養父の目が、ふと我に返った。
「レオ? ……うぐぅ!」
灰色の青年が太い腕をぶるんと振ると、ディゴロの体は横殴りに弾き飛んだ。
「こそ泥の仲間か!」忌々しげに声を荒げ、養父はすぐに飛び上がった。路地裏の広場で、養父と灰色の青年との激しい攻防が繰り広げられる。レオは尻餅をついたままの体勢で、荒い息をついた。
「返せ! おれの、宝だ」
一瞬のすきを突いた養父は血走った目でレオを見下し、再び腕を伸ばしてくる。
「嫌だ……お義父さん……来ないで……」
レオは完全におびえていた。
「あれは、もうどこかに消えて……代わりに絵筆が……」
空が遠い。養父の顔がしだいにぼやけて……。
「ぐわぁあああ!」
耳をつんざく大音響に、レオは目をしばたたせた。養父の声だ。
辺り一面、真白の蒸気に包まれている。地下を走る温水パイプが破裂したのだ。そう気づいたときにはもう、地面にはヒビが入りむき出しのパイプからはもうもうと湯気が立ち上っていた。
「なんだってんだ!」
熱い蒸気が、ディゴロとレオとの合間に吹き上げる。震える膝をたたき付け、レオは立ち上がった。路地を抜ける間際、壁に手を付いたまま振り返る。
「あれは……だれだ?」
灰色の髪をなびかせた青年が、暴れまわる養父のことを涼しい顔で見下している。
「赤目の仲間なのか?」
ならばヒドラやほかの少年たちの居場所も、知っているのだろうか。
「……そうだ、メイジャーのところに……行ってみよう」
廃屋を目ざして、レオは猛然と駆け出した。
「おかしいな。確かにこの道だったはずなのに……」
探しても、探しても、メイジャーの廃屋にたどり着けない。焦れば焦るほど、同じ場所をぐるぐる回っているような感覚に陥っていく。いつ、養父や追っ手が来るとも限らない。周囲の様子を十分に警戒しながら、レオは廃屋の立ち並ぶブロックを走り回った。
「同じような建物が多すぎる」
レオは割れた窓枠やすすけた壁に目をやり、唇をかむ。どこか見覚えのある角を曲がりながら、レオは首から下げたままの小さな絵筆に手をやった。
「これは……本当にあのカギなのかな……」
そっとなで付ける。にじ色のリボンが、一瞬光り輝いたように見えた。目を凝らすレオの視界に、噴水のある広場が現れる。