44離散。
温泉の村のすぐそばを駆け抜け、石畳をしきつめた街道をたどり、とんぼ帰りで首都を目指す。息はあがり、足元はふらふらと力が入らない。それでもレオは、姿さえ見えない養父のあとを追った。
再び首都の街並みが視界に入ってきたとき、すでに日は落ち家々の窓からはオレンジ色の明かりが煌々とまたたいていた。
たくさんの華やかな店を過ぎ、うす暗い路地裏に滑り込む。
「ヒドラ、みんな! どこ? 全部、誤解なんだ! 赤目が危ない!」
はしごを下り、くねった温水パイプで仕切られた穴の底にしゃがみ込んだ。土壁を見渡すが、人影は見当たらない。ろうそくは細い炎をくねらせたまま、木箱の上に置かれている。
まるで、今さっきまでここに皆が集っていたかのようだ。どこかしこに椀や皿が置きっぱなしになっている。奥の暗がりをのぞき込んだレオは、もう一度外を探そうと地上を目指した。はしごを上りきり、星空を見上げて汗をぬぐう。
「なるほど。ここがやつのアジトか」
ハッと身を強張らせたレオは、仁王立ちになった養父の姿を見た。
「やぁ、レオ」薄い笑みを、義理の息子に向ける。「案内ご苦労」
「お義父さん……どうして……」
次の瞬間、レオは弾かれたようにして声を張った。
「違う! お義父さんの宝は赤目が持っているんじゃない! おれが……おれが……」
「知っているよ、レオ。だから、おまえを泳がせていたんじゃないか」
いつまでも寝ているんじゃない、とまゆをひそめる養父。家の手伝いをしろと腹を立てる、養父。首都の大学を目指すのではなくて、家を継げとなげく養父。
「お義父さん……」
ディゴロは穴倉の中を、忌々しげに見下ろしている。
「彼はいないよ。ここは子どもだけが暮らしている場所で……」
そうだな、とディゴロは気のない返事をした。
「こんな小さな穴、大人は通れない。さぁ、レオ。本当は知っているんだろう? 赤目の本当のアジトを。案内しなさい」
メイジャーに連れて行かれた廃屋の光景が、レオの頭をよぎる。
「ひどいよ、お義父さん」
「どっちがだい、レオ。あのこそ泥にそそのかされて家を出たんだろうが、今ならまだ間に合う。宝のカギを返すんだ」
「嫌だ」その高圧的な物言いに、思わず反発する。養父ディゴロの右ほおが、ぴくり、とはね上がった。養父は太い腕を上げ、そのままレオの首にぬらりと伸ばした。
――『おとうさん』
その爪が、レオのノド元に深く食い込んでいく。あと、ほんの少し力を込めるだけで、レオの呼吸は止まるだろう。
「あ……れ、は……だ……れ?」
かすんでいくレオの視界に、養父の背後で仁王立ちになる灰色の髪の青年が映った。