42帰還と変化。
駆けっぱなしだったレオの足が止まったのは、温泉の村と故郷との分岐点だった。
「ここまで来れば、もう一息だ……」
ぼんやり街道をたどっていくと、懐かしい景色がレオを迎えた。たった数日離れていただけというのに、レオの目に映る故郷の街並みは何ともちっぽけで色あせて見える。
行き過ぎる人びとのだれもが浮き足立っているように思えるのは、有名な盗賊が現れたのを警戒してのことだろうか。古い石畳の上を慎重に選んで進んでいくと、街の青年たちが横並びに広がっているのに出くわした。
「宿屋のボウズじゃねえか。……今回のことは、気の毒にな」
リーダーらしき背の高い男が、声をかけてくる。腕には例の手配書が山のように抱えられていた。レオは目をそらす。夢中で青年たちの群れをかき分けると、耳慣れた声がレオの名を呼んだ。弾かれたようにして、顔を上げる。
「レオ。この数日、おまえはいったいどこに行っていたんだ」
「えっ? ああ、ジャスパー……」
レオに本を貸し与えてくれていた彼が、今は心配そうにレオを見下ろしていた。
「ちょっと遠いところに……」レオは涙目になる。
「早く親父さんに顔を見せてやれ」
ジャスパーはさらりとレオの背を押した。
遠き石畳の小路亭。その看板の下に陣取って、窓から中の様子をうかがっていると、元気そうな養父の姿が階段を下りてくるのが見えた。湯気のたつ椀を片手に、口はパンを飲み込むのとしゃべるのとで忙しそうだ。
「だからな、赤目だ、赤目! あの忌々しい青二才の盗賊めが! おれの大切な宝を盗みやがったんだ! 商売繁盛、幸運の宝……あぁ」
最後には気落ちしたようにがっくり肩を落とし、ごきゅり、と残りの一片を飲み込んだ。
「ディゴロのだんな、しっかりしてくだせえよ」
姿は見えないが、その話しぶりからすると、会話の相手はガス・ダイ・レンジと思えた。
「でも家族にけがはなかったんだし、よかったじゃねぇですかい」
「いいわけあるか!」
養父はガスを一喝した。
「このおれが、あんな青二才のこそ泥ごときにやられるなんて。ちくしょうっ! ばかにしやがって!」
レオの目は、自然と地下室につながる扉に向けられる。
「そう言えば……妙だな。どうして赤目は、自分で持っているはずの宝を、もう一度奪おうとしたんだろう」
何かがおかしい。無意識にレオは、胸元に手をやった。
「あ!」思わず叫びだしそうになって、口元を覆う。
小指ほどの大きさの絵筆には、無くしたカギと同じ星型の印が刻み込まれていたのだ。
「もしかして……これって、あのカギと……?」