40赤目のねらう家。
縄ばしごを伝って外に出ると、穴倉の淵にメイジャーが座って待っていた。
「遅かったじゃないか、小僧ども」
こうも早く外に出ているとは、「秘密の抜け道」というのは、やはりガスのたまっているという奥の暗がりにあるのだろう。
すでに夜のとばりが下ろされ、辺りは真の闇に包まれていた。
メイジャーの住み着いているという廃屋は、ヒドラたちの秘密の隠れ家からほんの二ブロックほどしか離れていなかった。それらしい場所まで来ると、ちょっと待ってろと言い置いたメイジャーは、レオとヒドラを長いことその場で待たせた。
その間、すきま風を真正面から受けたレオは、探し人の張り紙をにらんで待った。ビルの壁面を覆うそれは、そのまま行方不明の人間の数と同じ。もしかしたら今ごろ、養父や母も自分を探す張り紙をしているのかも知れない。レオはぼんやりと、ざわめく店内にはられた自身の人相書きを想像してみた。
そこに、厳しい顔つきのメイジャーが戻ってくる。ずいぶん遅かったじゃないか、とレオは声を張った。
「最初に確認しておくけど、交渉の相手はもちろん、赤目……本人なんだよね?」
「いいや」メイジャーは破顔した。「期待させてしまったのならすまないが、赤目は自分だけのすみかを持っている。ここにはいない」
反射的に、レオは厚い覆いのかけられた窓辺に目をやった。メイジャーが、窓とレオとの間に体を入れ、その視線をはばむ。
「予定変更だ。今、客が来てる。おれの大切な友人さ。交渉は延期だ」
激しくせき込んでいる音が、割れた窓ガラスのすきまから聞こえてきた。
「……あいつは体が弱いんだ。人がいると、ゆっくり休めない」
また近いうちに連絡する、とメイジャーの声音がレオの抗議を遮断する。
レオは突然、いつかの少年の姿を思い出した。レオが盗人とまちがえた、リヒャルトだ。彼も、この街にいるはずだ。星々も隠れるぶ厚い曇り空を見上げ、こんな空気の悪い所にいるから体も弱くなるんだ、とレオは激しくはき捨てる。
「とにかく、今夜は帰ろう」
なおも食い下がろうとするレオを、ヒドラが押さえ込んだ。
翌日。あまりの騒々しさに、目が覚めた。
「どうしたんだよ、ヒドラ」不機嫌に目をこすりながら、レオはたずねる。
「ああ、また赤目の襲撃が成功した! すごいぞ、今度の獲物は宿屋を兼ねた居酒屋だ」
待って、とレオは動きを止める。「どこの居酒屋だって?」
「ちっぽけな街さ。……ああ、そうだ、初めておまえに会ったあの街だよ」
レオの額を冷たい汗が滑り落ちる。
「また獲物を分けてもらえるぞ。今度はなんだろうな。オレ、新しいマットレスが欲しいな。それともやっぱり毛布かな」
「待って。そこは……そこは……おれの家だ」
レオは唇を震わせる。あの街に、宿屋を兼ねた居酒屋はひとつしかない。