④遠き石畳の小路亭。
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「レオ! レオ? 早く下りて来い!」
養父のどなり声でレオが夢の世界から引きずり出されたころ、すでに太陽は頭上近くにまで昇っていた。指を絡めて伸びをすると、レオは獅子のたてがみのように伸びた髪をゆっくりと左右に振った。
しっかりと窓が閉まっているのを確認し、ふらりと身を起こす。顔を洗うのもそこそこに、よたりと階段を下りていくと、養父ディゴロの不機嫌そうな顔が出迎えた。
「まさか……学期休みだからといって、今まで寝ていたんじゃないだろうな」
うぅん、とレオはどちらともつかないことばを返す。養父は、こりこりと頭をかいた。
「また、本か。客の騒ぎで眠れないのは分かっているが、毎晩そんなに遅くまで起きていては、今に体を壊しちまうぞ」
開け放したままの扉から、広場が見える。
「おい、聞いているのか」
「それは、その……」
レオはもごもごとつぶやいたが、養父の背中はどんどんレオから離れていく。忙しそうにしている養父には、たとえ領主様が来たと訴えようが鼻先であしらわれてしまうだろう。
もう一度、レオは広場をうかがった。路地じゅうから現れた女衆が、笑いさざめきながら水をくんでいるのが見える。
「お義父さん。夕べ、あの噴水に……ううん、いや、うん。なんでもない」
こんなにも心躍る夢を、簡単に人に話してしまうのは惜しい気がする。口元に浮かんだ微笑を、レオは必死で飲み込んだ。
「ふぅむ。まったく、なんなんだか」
養父は酒の入った杯を軽々六つ、一気に持ち上げる。
遠き石畳の小路亭。
レオの家は、宿屋を兼ねた大衆向けの居酒屋だ。店は昼夜問わず飲んだくれの客がとぐろを巻いていて、一見すると繁盛しているかのようにうかがえた。それでも、不機嫌そうな養父の声を聞く限り、実際はそうでもないのだということを十五の誕生日を迎えたレオはすでに知っていた。
この家は、すでにわずかな重みにもすぐに悲鳴を上げるほどの年代を過ごしている。階段などは、音を聞いているだけでだれが上ってくるのか判別できるほどだ。
だからこそ毎晩、階段のすぐ隣の部屋で眠るこの家の長男レオ・パークは、夜中に何度も目を覚ますことになるのだ。それならばいっそのこと、家人すべてが寝入るまで起きていようと夜更かしするようになり、今では明け方近くまで起きていることも珍しくない。
養父はレオを手招いて長机の隅に座らせると、きじ肉の煮込みを深皿にざぶりと盛り付けた。
「ほら、早く食べちまいな」