39取引。
どんなカギなの、と少年のひとりが声を上げた。
「ああ、くわしいことはおれも分からねえ。だがな? それは、ひと目見ただけで『それ』と分かる代物らしい。この世の何をもっても代えることのできない、素晴らしい宝物なんだとさ」
「それは、赤目の宝?」ヒドラが聞いた。
ああ、と麻袋の男が深くうなずく。少年らの間にざわめきが走った。
「つい先日のことだ。遠出した折に思わぬ事態に遭遇して、赤目はその宝を手放してしまったらしい」
レオの脳裏に、ひとつの光景が浮かぶ。はじめて赤目に出逢ったあの日、彼は水盤から浮き出てきた「波紋の顔」の攻撃を受け、けがをした。そのあと、眠りに落ちるレオの耳には「必ず探しだせ」と命じた赤目の声が聞こえた気がしていた。
――養父が、「商売繁盛・幸運の宝」を手に入れたのは……いつだったか。
「おい、そこのおまえも……」
言いかけた麻袋の男は、相手がレオだと知ると、大仰なため息をついた。
「知っているよ、カギのありか。たぶんだけど」
先んじて、レオは答えた。両手で絵筆を包み込んで隠し、胸元に引き入れる。男の片まゆがつり上がった。
「おい、レオ? どういうつもりだ」
身を案じてくれているらしいヒドラが、すばやくレオの肩先を引く。
「大丈夫だよ、ヒドラ。この人は、カギの情報を得るのと引き換えに、赤目に会わせてくれるだけだから」
思案顔の男は、無遠慮にレオの顔をながめ回した。
「……おまえ、今まで見ない顔だな」
そうだよ、とレオは胸を張る。
「おれの名前は、レオ・パークだ。赤目に会いに故郷から出てきたばかり。さぁ、カギのありかを教えるから、おまえはおれを赤目のところに案内するんだ」
「おまえの故郷はどこだ?」
レオが正直に郷里の名を告げたとたん、男の態度が急変する。
「ふむ。そうか……分かった、レオ・パーク。おまえを、赤目のすみかのひとつに案内しよう。そこで交渉といこうじゃないか」
ごきゅり、とつばを飲み込んだ。赤目と養父は、恐らく同じものを探している。そして、それはレオの手には無い。
「オレも、いっしょに行っても構わないか」
様子をうかがっていたヒドラが、声を上げた。
「ちょ……それは……」
動揺するレオをよそに、麻袋の男が快諾する。
「いいだろう、付いてきな。おれの名はメイジャーだ。以後よろしく」
絵筆に気を取られたレオは、メイジャーが口元に奇妙な笑みをたたえているのを見逃した。